香菜
『ごめん、やっぱり仕事の都合がつかなかったです。今回の映画はキャンセルで。』
「了解です。都合の良いときに行きましょう。仕事し過ぎで身体壊さないようにしてください。」
ぽち。送信完了。
はぁ、またか。こんなやり取りが、もう何年続いているんだろう。
特に遠距離恋愛してるわけでもなく。ただ、仕事で忙しい。
「仕事と私、どっちが大事なの⁉」
若かったらそう言えるんだろうか?いやいやいや…。私の性格上、それはない。
彼、裕也とは11年前にMMORPGゲームのオフ会で知り合った。共に戦い、息の合ったコンビネーションで誰も二人の間には入れない、そう思っているのは私だけかもしれないけど。数年後にゲームのサービスは終了。お互いに仕事が忙しく別のゲームで遊ぶこともなくなったけれど、そのまま自然と付き合うことになった。そして11年経っても、なぜかお互いにほぼ敬語だったりする。
最初のころは、仕事が忙しいからと、それでも年に3回くらいは会っていた。今は…?年に1回も会えるかどうか。連絡も下手をすれば一か月くらい音信不通。ということさえ、彼は気づいてないのかもしれない。そして私も気づかないフリをしている。もしかしたら私が知らないだけで彼が家庭を持ったのかもしれない、と思うこともある。
「誕生日プレセント届きました。素敵なマフラーありがとう。」
『あれ⁉もう届いちゃいましたか!一日早くてフライングしちゃいましたね。本当は日付が変わったら誕生日メールを送ろうと思ってたのですが、タイミングが微妙なので先に言います。【お誕生日おめでとうございます!】』
「ありがとうございます!」
『あ、もうひとつ。この間の映画キャンセルしたお詫びもあって、お菓子も届くと思います。俺、気が付いたらいつも仕事の話しかしてなかったです。』
「気にしなくて良かったのに。でも、ありがとう。美味しくいただきますね!」
『素敵な誕生日を!』
気が利いていて不器用。そんな彼が果たして、知らない間に家庭を持っているだろうか?そんな疑問はとりあえず保留。
「12月、仕事があまりなくて時間がありそうです。裕也さんは年末だから忙しいかしら。」
『来月は今まで忙しかった分、強制的に有給を取らなきゃいけないようです。せっかくだから日にちを合わせてどこか行きましょうか。』
「ぜひ!じゃあ、予定空けて連絡待ってますね。」
そう、半分だけ期待。もう半分はまた『突然のトラブルで』、というキャンセルが来るだろうという予想で、自分がガッカリしない予防線を張っておく。
祐実香のように燃えあがるような恋愛ではない。七夕の織姫と彦星のように、年に一回という約束も、その後の約束もない。
束縛もせず、お互いを尊重して…という言葉に逃げているだけかもしれないけれど、きっとずっとこのままでいいと思っている私がいる。
恋するオバチャン ちはや @chi_haya
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