恋するオバチャン

ちはや

祐実香

「実は私、彼氏ができたんだよね。」


 私の目の前に座っている友達の祐実香が突然言った。

「え、そうなの?よかったじゃん!」

 都内のお洒落なカフェ。祐実香に会ったのは一年ぶりだった。


 私と祐実香は高校時代からの親友で、二人とも今年45歳になった。

 共通してると言えば二人ともバツイチでありシングルマザーだったが、子供はもう親の手を離れ独り立ちしている。

 とはいえ、バツイチになってからの祐実香の彼氏は何人目だろうか…。


彼はね、すっごく優しいの。」

「そっか、それじゃあ毎日が楽しそうだね。どこで知り合ったの?」

「マッチングアプリって知ってる?あれで知り合ったの!テレビやパソコン買ってくれたり、食事や旅行に連れてってくれたり。お金持ちなの。」

(パ…パパ活⁉)

「ずっと私と一緒にいたいって、近くに引っ越してきたくらい!あ、年下だよ!」

「ラ、ラブラブじゃ~ん‼」

「そうなの!でもね…。」


 きた!『でもね天邪鬼』が。

 祐実香は昔からある程度の共感をすると、天邪鬼になる傾向がある。


「彼がもう両親に紹介したいって言ってきてるのよ。私は今の生活で満足してるから、結婚はしたくないって言ってるのに。結婚したくて仕方ないみたい。」

「そうなの?なぜそんなに結婚急ぐのかな?」

「たぶん、私がだからかなぁ?」

「えーと、彼氏っていくつ?」

「43歳だよ。私たちより2コ下。」

「‼…そ、そっか。きっと忙しくて今まで彼女ができなくて、やっとできた彼女が祐実香だったから、突然現れたに夢中になって目の前が見えてないのかもしれないね?」

(なぜ私が顔も名前も知らない彼氏をフォローしてるのか…。)

、私の健康の為にって、私が嫌いな物を食べさせようとしたり、ジムに連れて行こうとしたりするんだぁ。それからね…。」

 祐実香の彼氏に対しての愚痴は、それから40分ほど続いた。


「そんなに辛いなら、残念だけど別れるという選択肢もあるんだよ?」

、彼はそんなに悪い人じゃないから突き放せなくて~。いろいろ買ってくれたのもあるし。」

(物を買って与えておけば、別れにくくなる祐実香をよくわかっていそうな…。)

「なんで、私なんかがいいんだろう~?」

(なんで、私なんかがいいんだろう~?)はスルーして。

「祐実香はどうしたいの?」

「私は今のままの生活がいいかな?」

「じゃあ、きちんと彼氏にそのことを伝えなきゃ!」

、私はちゃんとそう言ってるのに彼が『二人で幸せになろう』って言うの。」


 祐実香、それは絶対に伝わっていない。

 もしくは…。その彼氏は、祐実香の性格をわかっていて、押せばなんとかなると強引に押してる可能性も…。


「でね、香菜。彼が私の友達に会ってみたいって前から言ってたのよ。」

「へ?」

「今、彼が近くにいると思うんだけどここに呼んでいい?」

「は?ちょ、ちょっと待って。」

「ここのご飯代、出してくれるって!」

 私は額に手を当てて、冷静になるまで間をおいた。

「香菜…?もしかして嫌だった?」

「あのね、祐実香。それ、かなり間違ってるよ。いろいろ言いたいことはあるけれど、まず、私は彼氏がここに来ることも聞いてないし、会う理由もない。ましてや、知らない人にご馳走になる気もな…。」

 そこまで言いかけた途端、

「あ、今、店に入ってきたの彼氏だよ!」

 人の話を聞かない祐実香、恋するオバチャン44歳だった。


 


 

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