第38話
中学2年生に上がった時、キユナは他の学校からの転校生として恐怖中学校へやってきた。
教卓の前に立って自己紹介をして、先生に教えられた席に座る。
その間キユナは自分が上手に笑えていたかどうかわからなかった。
父親の仕事の関係で転勤が多くて、小学校の頃から転校を繰り返してきた。
今回で3度目の転校だ。
そのたびに一生懸命クラスに馴染もうとするのだけれど、なかなかうまく行かない。
優しい友人が助けてくれることもあったけれど、1人ぼっちの休憩時間を過ごすことの方が多かった。
今回の学校ではどうだろうか。
期待と、諦めが心の中で交差している。
あまり期待しすぎず、目立たないように、だけど愛想よく。
そうしていれば1人くらいは仲良くなってくれる子がいる。
最初の休憩時間が始まると、さっそく女子生徒たちが話しかけてきてくれた。
「キユナちゃんって言うの?」
「どこの中学校から来たの?」
こうして最初に話しかけてくれる子たちはクラスの目立つグループだと知っている。
彼女たちが興味津々で話しかけてくるのは最初の休憩時間のときだけ。
後々まで仲良くしてくれる可能性は低い。
何度も転校を繰り返しているキユナはすでにそのことを知っていたけれど、彼女らの質問に笑顔で答えた。
できるだけ印象を悪くしたくない。
そして次の休憩時間中、案の定キユナに話しかける子は誰もいなかった。
みんなキユナを気にしてはいるけれど、一通りの質問が終わったから本来の友人たちと一緒に過ごすようになるのだ。
キユナは1人で机に座り、文庫本を取り出した。
このクラスで自分から声をかける勇気はまだ持っていない。
もう少しみんなと打ち解けてから、自分から話しかけよう。
そう、思って過ごしていた。
そのまま1日が過ぎ、2日が過ぎて、キユナはもう誰からも話しかけられなくなっていた。
みんなキユナがつまらない子だと判断したのだ。
休憩中はずっと本を読んでいるし、自分からは話しかけてこない。
困ったことがあってもすぐ先生に質問して解決してしまう。
そんな行動が良くなかったみたいだ。
そして転校してきて一週間目の朝。
自分の机の前に立ち尽くすキユナの姿があった。
キユナは目を見開いて机の上のラクガキを見つめている。
バカ。
キモイ。
転校しろ。
そんな風にマジックでラクガキをされている。
早鐘をうち始める心臓、冷や汗が流せる背中。
キユナはゆっくりと教室内にいるクラスメートたちをみまわしたが、誰もキユナとは視線を合わせなかった。
みんな自分たちのグループで談笑を続けている。
いったい誰がこんなことを?
そう考えてみても転校してきたばかりのキユナには検討をつけることすらできなかった。
キユナは1人でラクガキを消して、席に座った。
犯人がこの中にいるのか、それともみんなキユナの机にラクガキされたことすら知らないのかわからない。
ただただ、黒い感情がキユナに向いていることだけは理解していたのだった。
たった1人でも友達ができたらいいのに。
そう感じるようになったのは転校して一ヶ月が経過したときだった。
一ヶ月も立つともうキユナを珍しがる生徒はいなくなる。
けれどイジメはエスカレートしていて、机のラクガキがシューズのラクガキに変わり、あることないこと陰口を叩かれていることにも気がついた。
それは優しい誰かがキユナにこっそり教えてくれたのではなく、教室に落ちていたメモ用紙を偶然拾って見てしまったからだった。
そこにはキユナの悪口がとろこ狭しと書かれていて、筆跡は1人のものではなかった。
それを見たキユナはさすがに落ち込んでしまって、翌日は学校を休んでしまった。
それでもずっと休んでいるわけにはいかない。
ただでさえ転校が多くて心配している両親を、これ以上心配させることはできなかった。
「まだ学校に来てる」
「もう来なくていいのにねぇ」
キユナがメモ用紙を見てしまったことで、紙の中で行われていた悪口は口頭に変化した。
それによってキユナを攻撃している生徒が誰なのかわかるようになったけれど、クラスのほとんどの生徒だということがわかっただけで、キユナの心は沈んでいった。
このクラスに自分の友だちは1人もいない。
1人だけでもいいから、友達がほしいのに……。
そんな時、1人で帰宅していると別の中学校の制服を着た2人組とすれ違った。
「ねぇ、人間工房って知ってる? 自分の理想の人間を作ることができるらしいよ!」
女の子たちは都市伝説が好きなようで、そんな話題をしていた。
いつもなら聞き流すところだけれど孤独を感じていたキユナはその会話に聞き耳を立てた。
「家族でも彼氏でも友達でも、なんでも作ってくれるんだって!」
「それいいじゃん。素敵な彼氏がほしいなぁ!」
もしそんなお店があれば、私は親友がほしい。
キユナは心の中で会話に参加した。
そのお店はどこにあるの?
本当に、友達を作ってくれる?
「それはわかんないけどさぁ」
ふと気がつくと2人組がキユナへ視線を向けていた。
どうやら口に出して言ってしまっていたようだ。
「でも本当にあるって噂だよね?」
「だよねぇ? 自分好みの子の髪の毛や爪を持って行けばその子のクローンを作ってもらえるんだって」
クローン。
その響きは少し怖かったけれど、キユナは自分の理想の友人を目の前の2人組に重ね合わせていた。
学校では誰とも会話しないから、同年代の子との会話は久しぶりだったのだ。
「そ、そうなんだ。教えてくれてありがとう」
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