第36話
カイとは本当に色々なところへ行った。
映画館、ゲームセンター、遊園地、水族館、動物園。
1日で2箇所を回ったときもある。
「本当に楽しかったよねぇ」
公園のベンチに座りアリスは2人の思い出を思い出す。
「そうだね。今度はどこに行く?」
隣に座るカイは無邪気に聞いてくる。
今日が自分が消滅してしまう日だなんて思ってもいない様子だ。
アリスはそれに合わせて「どこに行こうかな?」と返事をする。
もう2人に未来なんて訪れないと知っているのに。
笑顔で会話をしながらもアリスの心の奥から悲しいという感情が何度も湧き上がってくる。
そのたびに涙が出そうになり、おえつが漏れてしまいそうになり、アリスはグッと下唇を噛み締めて我慢した。
別れるときは笑顔でと決めているのだ。
2人の会話がふと途切れたとき、公園の入口からキユナの声が聞こえてきた。
「アリス!!」
キユナが走って近づいてくる。
できれば2人きりにしておいてほしいと思ったが、キユナも自分を心配してくれていたのだと思い直す。
そして、全部正直に話してしまおうと。
「アリスどこにいたの? また連絡がつかなくなるから心配したんだよ!?」
「ごめんねキユナ。あの……実はちょっと話しがあるんだけど」
アリスはそう言うとベンチから立ち上がり、カイから離れた。
本人には聞いてほしくなかった。
「私の彼氏なんだけど、本当は違うの」
「え?」
突然の告白にキユナは眉を寄せている。
「前に偶然手作り人間工房っていうお店について知って、そこで作ってもらったクローン人間なの。私、キユナに彼氏ができたことが妬ましくて、それでつい……」
説明しながら声がどんどん小さくなっていく。
嘘の彼氏を作ってきただなんて言えばキユナは笑うかもしれない。
バカにしてくるかもしれない。
そう思っていたけれど、そのどちらでもなかった。
キユナは泣きそうな顔でアリスに抱きついてきたのだ。
「ごめんね。私が彼氏を作ったから、こんなことになったんだよね?」
「それは……」
違うとは言えなくて口ごもる。
だけどキユナのせいではない。
こうすることを望んだのは自分自身なんだから。
そしてこの辛い別れも自分でちゃんと受け止めないといけないことなんだ。
「アリス」
カイに呼ばれてキユナから身を離して振り返る。
見るとカイの体は黒ずみはじめていた。
ドロドロに溶けて消える。
という言葉を思い出し、息を飲んで駆け寄った。
「カイ、体が!」
「大丈夫だから心配しないで」
カイの声が歪んで響く。
かっこよかった顔がいびつに溶け出して、手を伸ばしかけたアリスはその手でカイを触れることができなくなった。
「ほら笑ってアリス。笑って」
言われてアリスは頬を引きつらせながら笑顔を浮かべた。
カイはすでに見る影もなくドロドロに溶けてしまい、ドロドロの液体がベンチに座っているようにしか見えなかった。
それもやがて地面に吸い込まれていき、どんどん小さくなっていく。
「カ、カイ! 今までありがとう!」
ドロドロがすべて地面に吸収されてしまう直前にアリスはそう声をかけた。
カイは返事をすることなく、服だけ残して跡形もなく消えていってしまったのだった。
後に残されたアリスは呆然としてカイの服を見つめていた。
「アリス、帰ろう」
しばらく立ち尽くしていたアリスの腕をキユナが掴んで言う。
「うん」
そうだ、もう帰らないと随分襲い時間になってしまった。
きっと両親も心配していることだろう。
アリスは硬直していた両足を無理矢理動かそうとする。
けれどなかなかその場から離れることができなくて、胸がどんどん苦しくなってきた。
ついにはその場に座り込んで嗚咽を漏らして泣き始める。
「アリス……」
完全に動けなくなってしまったアリスの背中をさする。
「カイがいなくなっちゃった。理想の彼氏だったのに」
「仕方ないよ。クローンだったんでしょう?」
「だけど彼氏だったんだよ。私の彼氏だった!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます