第33話

カイと2人で地下へ続く階段を下りて、ノックもせずに扉を開いた。



そこには前回来たときと同じ光景が広がっていた。



重厚感のある黒い革のソファーに座っていた、ゴシックロリータの女性が驚いたように立ち上がる。



「あらあなた、また来たの?」



ふりるを揺らしながら近づいてくる女性をアリスは睨みつけた。



「どういうこと?」



「あら恐い顔。どういうことって、なにが?」



小首をかしげるその姿は本物のお人形さんのようだ。



だけど騙されない。



アリスは女性を睨みつけたままで言葉を続けた。



「カイの首には数字が書いてあった。それは自分がここにいられる時間だって言うの」



「あぁ。そのとおりよ。それがどうかした?」



「どうかした? じゃあないよ! そんなの説明されてない!」



「あらそうなの。それはごめんなさいね。私忘れていたみたい」



女性は悪びれた様子もなく言う。



それがアリスの神経を逆なでした。



「冗談じゃない! せっかく理想の相手を見つけてこの店だって一生懸命探したのに、たった6日しかもたない彼氏だなんて、意味がないでしょう!?」



「意味がない? 本当にそうだった?」



聞かれてアリスは口ごもる。



キユナを見下すことができたのはついさっきの出来事だ。



それによってすごく気分にもなれた。



それは、このクローンがいなければ不可能なことだったのだ。



「それにしてもこれは詐欺でしょう? 私はなにも知らされてなかったんだから!」



「やめてよ詐欺だなんて。確かに説明は忘れていたけれど、お金は1円ももらってないのよ?」



女性の言葉にアリスは黙り込んでしまった。



ただ鋭い視線で睨みつけることしかできない。



確かに彼女の言う通りアリスはこのお店で1円も支払いをしていないのだ。



説明を忘れていたとしてもそれが詐欺になるかどうか、怪しいところだった。



「ちなみにだけど、存在できる機嫌はクローンによってマチマチなの。この子が6日しかもたないと思っているみたいだけれど、もっともっと寿命の短いクローンだっているのよ」



「……彼氏が6日でいなくなると怪しまれるに決まってる」



「別れたことにすれば?」



アリスは下唇を噛み締めた。



キユナとケンタの顔を思い出すと、すぐに別れたと言うのも癪に障る。



どうにかしてカイとの関係が続いているように見せかけたい。



「もう1度同じクローンを作ることはできる?」



聞くと、女性は頷いた。



「それは可能よ。だけどそのときにはまた相手の髪の毛や爪が必要になる。準備できるの?」



まるでアリスにはそんなことできないと言われているような気分だった。



「できる。絶対にまた持ってくるから」



アリスはそう断言をして、カイと共にお店を出たのだった。

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