第15話
どうやらユナが帰れるようにわざとイジワルをしたみたいだ。
してやられた気分になりながらも病室を出る。
明日はシュンヤのペースに流されないように気をつけよう。
そう思ったときだった。
隣の病室のドアが開いて同年代くらいの少年が出てきた。
少年はよく日焼けした顔をしていて、とても元気そうだ。
シュンヤにしてもこの少年にしても、病院には縁のなさそうに見える人たちが入院しているんだなぁと感じ、そのままエレベーターへと向かう。
そんなユナを、少年が呼び止めた。
『君、シュンヤと友達?』
『そうだけど?』
シュンヤの名前を出されたのでユナは丁寧に立ち止まり、少年と向き合った。
『俺ユウキ。シュンヤの友達』
『そうなんだ』
そう聞いてユナは安心した。
自分が帰ればシュンヤはひとりぼっちになると思っていたけれど、すぐ隣に友達になった人がいるんだ。
それなら寂しくはないだろう。
『はじめまして、私ユナ』
2人は握手を交わして挨拶をする。
『ユナは本当は彼女?』
聞かれて、ユナの頬が一瞬にして赤く染まる。
それは肯定しているのと同じ意味だった。
『へぇ、君が噂の彼女か!』
大げさに驚いて見せるユウキにユナは戸惑う。
『シュンヤから話を聞いているの?』
『あぁ。なんせ病院って暇だからなぁ。どんな話しでもしてるよ』
そう言われるとなんとなくユウキに興味を惹かれた。
シュンヤはここでどんな会話を交わしているんだろう。
『少し座って離さない? ジュースおごるから』
ユナが談話室を指差して言う。
『まじで? ラッキー』
ユウキはカラカラと快活な笑い声をあげて談話室へ向かったのだった。
話せば話すほど、ユウキは本当に病気なのかと疑いたくなるほど明るい性格をしていた。
冗談や噂話しが好きみたいで、嘘か本当かわからない病院内に関する話をいくつもしてくれた。
『シュンヤとはどんなことを話しているの?』
『だいたい学校のこととか、サッカーのことだよ。あと彼女のユナのこと』
そう言われてユナはまた頬が赤くなる。
『私のことは、なんて?』
『可愛い彼女なんだって、いつでも自慢してる。俺には彼女がいないから、ちょっとムカついてる』
冗談ぽく言って肩をすくめてみせるユウキ。
そうなんだ。
私のこと、可愛いって言ってるんだ。
ユウキの顔を思い出して思わずニヤけてしまう。
そんなユナを見てユウキは『顔、キモイよ?』といじわるく突っ込んでくる。
ユナは反論しつつ『他には?』と質問を続けた。
窓の外は随分暗くなり始めていたけれど、ユウキとの会話は面白くて中断するのがもったいんなかった。
こんな子が隣の部屋にいるなら、シュンヤも楽しいだろうな。
かと言ってずっと入院していたいと思われたら困るけれど。
『シュンヤのこととは関係ないけれど、最近新しい噂話を仕入れたんだ』
『なに?』
『この病院の第4診察室の噂』
『第4診察室?』
ユナは首を傾げて聞き返した。
アパートやマンション、病院などではユキつな数字とされる4を使わない場所が多くある。
この病院には第4診察室が普通にあるんだろうか。
『4っていう数字は使われないことが多いって知ってる?』
『うん。特に病院ではそうだよね?』
『そう。この病院でも第4診察室はなくて、第3の次は第5になってるんだ』
『なんだ、ないんじゃん』
少し拍子抜けして口を挟んだ。
けれどユウキはニヤリと笑って左右に首をふる。
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