第12話

その日の夕方になると制服姿のユナがお見舞いに来てくれた。



痛み止めの点滴を行っていなかったシュンヤはユナが来たことをしっかりと認識することができた。



「今日はどうしたの? なんだか嬉しそうな顔をしてるけど」



ユナはクラスのみんなと一緒に作ったという折り鶴を病室に飾りつけながら、シュンヤに聞いた。



「あぁ。みんなが折り鶴を作ってくれたからかな」



色とりどりの折り鶴が天井からぶら下がり、シュンヤはクラスメートたちの顔を思い出していた。



みんな自分のことを思って千羽も折り鶴を折ってくれたんだ。



そう思うと本当に嬉しかった。



早く元気になって退院して、またサッカーをしたい。



「それだけ?」



ユナが丸椅子に座ったので、シュンヤは少しだけベッドの上半身部分を起こして話しやすい体制になった。



「実はすごいことが起こったんだ」



シュンヤはユナの手を握りしめて言う。



その目はキラキラと輝いて、希望に満ちていた。



「すごいこと?」



首をかしげるユナにシュンヤは頷く。



「昨日の夜、死神に会った」



その言葉にユナは一瞬で笑顔を凍らせた。



そして左右に頸を振って「なにを言い出すの? 死神だなんてそんなの……」と、混乱したように眉を寄せる。



シュンヤは慌てて「そうじゃない。俺の命を奪いに来た死神とは違うんだ」と、弁解した。



「どういうこと?」



「隣の病室にユウキっていう同い年の子がいるんだ。そいつから聞いた話で、この病院には第4診察室が存在していないんだ」



ユナは頷く。



4という数字を嫌う建物が数あることは、説明しなくても知っているようだ。



「だけど、その第4診察室を出現させられる方法があった」



「なにそれ? それと死神と、どうつながるの?」



「死神はその第4診察室の中に出てくるんだ。そして寿命を質問すると、答えてくれる」



「命を奪うんじゃなくて?」



シュンヤは「そういうことはしない」と、答えた。



それがなぜだかはわからないが、実際に会った死神は確かにシュンヤの命を奪うことはなかった。



だから、あの噂は穴があるけれど本物なんだ。



「第4診察室に入るためには色々と条件があったけれど、それをクリアして、俺は入ったんだ」



「第4診察室に?」



シュンヤは頷く。



ユナはさすがに胡散臭そうな表情になってきた。



けれどシュンヤは目を輝かせたまま話を続ける。



「死神に寿命を質問したら、80歳だって言われた」



「本当に?」



「あぁ。俺はこれから80歳まで生きるんだ。ほら、ユナだってこの前元気そうだって言ってくれただろう? 両親だって、よくなって退院できるってずっと言ってくれていた。俺はそれが嘘だと思ってたけど、本当のことだったんだよ」



嬉しさで感情が溢れ出してしまいそうだった。



シュンヤの顔に笑顔が溢れ、それにつられるようにしてユナも微笑む。



「80歳か。シュンヤも私もおじいちゃんとおばあちゃんだね」



「そうだね。でもそれまでずっと一緒にいられるんだ」



シュンヤの言葉にユナは思わず泣きそうになった。



でもグッと目の奥に力を込めて涙を引っ込める。



素敵な話しなんだから、笑っていないとおかしい。



「それで考えたんだけど、ユナと一緒にやることを決めて置こうと思うんだ」



「今から?」



「退院したら、すぐに実行できるようにだよ」



そう言われてユナはカバンの中からノートをエンピツを取り出した。



数学のノートを裏側から開き、シュンヤと一緒にやりたいことを書き出していく。



「ユナが生き物が好きだから、動物園と水族館は行こう。できれば退院したらすぐがいいな」



「そうだね。でもシュンヤは遊園地の方がいいんじゃない?」



シュンヤがジェットコースターに憧れていることをユナは知っていた。



いつか乗ってみたいと思いながらも、体がしっかりよくならなくてまだ乗ったことがないことも。



「遊園地も外せない。それから映画もいいな。恋愛映画もアクション映画もホラー映画も、その時に流行っているものを全部見よう」



「それいいね。あとはサッカー?」



「あぁ。サッカーも退院したらすぐに始める。だけど、ユナと一緒じゃないから書かなくてもいいよ」



そう言われてもユナはノートにサッカーと書きつけた。



その横に(私は応援)とメモ書きする。



それを見てシュンヤは笑った。



それから2人は次から次へとやりたいことをあげていった。



スカイダイビング。



温泉旅行。



海水浴。



スキー。



やりたいことはどんどん出てきて、真っ白だったノートはすぐにいっぱいになってしまった。

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