第7話

☆☆☆


その夜、ユウキが病室にやってきた。



白いニットの帽子をかぶっている。



「どうしたんだよその帽子」



「かあちゃんが買ってきてくれたんだ。似合うだろ?」



「あぁ。いいな」



シュンヤは頷いて笑った。



確かにその帽子はユウキによく似合っていた。



だけど今は夏だ。



ニットの帽子は少し暑苦しそうに見える。



「トランプしようぜ」



「スピード?」



「おぉ」



ユウキはいつもどおりベッドの脇に座ってトランプを配り始めた。



「……お前はなにも変わらないな」



「なんだよ急に?」



「みんな変わった。両親もユナも」



シュンヤは配られるトランプに視線を落として言う。



全体的にはなにも変わっていないのかもしれない。



けれどお見舞いに来ている時間が短くなったり、いつの間にか泣きそうな顔をしていたり、少し無理していたり。



そいういう小さな変化がシュンヤにはすべて見えていた。



「そうなのか」



「たぶん、俺の寿命が短いからだと思う」



ユウキはそのときになって初めて少しだけ体を揺らし、動揺を見せた。



「どうしてそう思うんだ?」



「自分の体だから、自分が一番よくわかってる」



ユウキはシュンヤの言葉に吹き出した。



「ドラマとかでよく聞くセリフだな」



「実際にそうなんだから仕方ない」



「でも、聞いてみてはないんだろ?」



その質問にシュンヤは瞬きをした。



「誰に聞くんだよ? 誰も本当のことなんて教えてくれないだろ?」



「人間じゃない」



その言葉にシュンヤは第4診察室の噂を思い出した。



あるはずのない第4診察室に入るとそこには死神がいる。



死神は人の寿命を教えてくれるというものだ。



看護師に聞いても知らないと言われてから、すっかり忘れてしまっていた。



「どうせ嘘なんだろ?」



「本当のことだ。嘘なんかじゃない」



「だけどそんな噂知らないって言われた」



「バカだな。事実だなんて言うわけないだろ?」



2人の間にはとっくにトランプが配り終えていたけれど、2人共それに手を伸ばすことを忘れていた。



「じゃあ、あの噂は本当なのか? 寿命がわかるって?」



「本当だよ。でも、死神に会うためにはいくつか条件がある」



「聞かせてくれ」



シュンヤは前のめりになって質問していた。



布団が歪んで、トランプは何枚か床に落ちる。



「25日が土曜日になる日の夜、第3診察室と第5診察室の間にある壁の前に立つんだ。それから頭の中で第4診察室を思い浮かべる。適当じゃダメだ。本当にそこにあるかのようにリアルに思い浮かべる。そうすると第4診察室が目の前に現れる。後は普通に中に入って死神に会って質問するんだ」



シュンヤはごくりと唾を飲み込んで壁にかけてあるカレンダーへ視線を向けた。



次に25日が土曜日になる日は4日後だ。



「どうして25日の土曜日なんだ?」



「この病院ではその日に容態が急変する人が多いんだ。だから死神が病院に来ているって言われてる」



だけど噂の中の死神は魂を持って行かないんじゃないのか?



そう聞きたかったが、やめておいた。



シュンヤは赤ペンでカレンダーの25日土曜日に丸を付ける。



「やるのか?」



「あぁ」



頷くと、ユウキは満面の笑みを見せた。



「結果を聞かせてくれよ」



「一緒に行かないのか?」



てっきりユウキはそういうことには食いついてくると思っていた。



「ダメなんだ。死神は1人で行かないと会えない」



ユウキは残念そうな表情になって言った。



そうなのか。



それなら1人で行くしか仕方なさそうだ。



「わかった。必ず結果を聞かせる」



シュンヤはそう約束して、ようやくトランプが床に落ちていることに気がついたのだった。

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