第13話
「これで、ラストォ!!」
最後に立っていたオークにケニスがとどめを刺す。
そこには実に二十二体にも及ぶオークの死骸が転がっていた。
「流石に疲れたな」
「突然こんなに増えるなんて、一体何が…」
ドカリと地面に尻をつき、洞窟の天井から下がるオークが集めた何かの死体を見上げながら言ったバートンの言葉に俺達は同意を示しながらエレリックの言葉に考えさせられる。
オークと言うのは通常然程強敵というわけではない。
一体であればE級でも狩っていいと依頼にあった通り、単体であれば駆除は容易だ。
そして多くの場合オークは群れを作らない。
だから普通ならこんな風になることはないはずなのだ。
だが、ひと地域に生息する個体数が増えると話は変わってくる。
獲物争奪による生存競争が激化するため、幾つかの個体は生き残るために群れを形成し始める。
すると厄介なことに集団になったオークはたまに連携して人を襲うようになるのだ。
それが何故かはわかっていないが、そうなると当然ながら討伐難易度は一気に跳ね上がってしまうわけで、安易に討伐依頼を出すことすら難しくなってしまうそうだ。
どのくらい難しいかというと、まずAランク以下のソロでは討伐はほぼ不可能だし、B~Cランクでパーティを組んでいても誰かがやられればそこから戦線が瓦解し、返り討ちに遭うこともある。
俺達のようなパーティ未満の学生チームではなおさらだ。
だからそのことを知っているギルドは定期的に間引きの意味でランク上位者にオークの討伐依頼を出すはずだし、最近までそれがあったことは俺達も依頼ボードを見ていたから知っている。
ならば何故こんなことになったのだろうか。
しかもこんな急速に。
「もしかしてこれもドライガのせい、なのか?」
ふとスミスがそんなことを言う。
杖の先で地面を突き、ガリガリと何かを描き始める。
「あいつがいる山がここ。んでちょっと離れて俺達が今いるのはここ」
スミスは王都を中心にいくつかの山と平原、街道と俺達がいる洞窟の位置を地図として描いていたようで、言いながらある山を杖で示した。
「もし最近活発になったあいつによってこの山に住んでいた魔物が追われたとする。それがこう移動してきて、ここにいる魔物がまた移動する。そしてそれに合わせてオークがこう逃げれば…」
『あ!』
ドライガのいる山からすすすと動かしてきたスミスの杖が示したルートは、正にこの洞窟に行き着く。
それはここを目指して動かしたわけではなく、ちゃんと地形や魔物の習性に沿ったルートだったため、賢者であるエレリックも深く頷いた。
「なるほど、それはあり得るかもしれません。時期も合っていますし」
「いや、あくまで仮説だけどな?」
それを見て考え込むエレリックと、そうと決まったわけじゃないと手を振るスミス。
しかしそう言いながらもスミスはそのままその図を使って他に巣がありそうな場所を予測し出し、エレリックも意見を出しながらスミスのように杖で地図を叩く。
「こことかどうよ?」「でもここ、確か大きな川があります」「ああ、そうだった。ならこの橋を渡って来るか?」「ですねぇ」と時々地図を描き足したり見る位置を変えたりしながら続く二人のディスカッションは、その後30分にも及んだ。
「お待たせしました」
「つか何してんだ」
その間に討伐部位や素材の採取や後始末、荷物の整理などをしていた俺達に、話し合いを終えたスミスは胡乱げな目を向けた。
「なにって言われても」
「自分にできること?」
ケニスとバートンはそう答え、荷物をバッグに詰める作業の手を止めて首を傾げる。
実際直感型であまり頭を使うことが得意ではない彼らは二人の話に加わっても大して意味はなかっただろう。
だからスミスも「うん、お前らはいいんだ」と彼らに頷きを返した。
それもそれで酷い話ではある。
だが、と言うことは彼の言葉の矛先は。
「俺はレィヴァンに言ったんだよ。俺達の話にも加わらず、荷物の整理もそこそこに何故かこんなとこで飯を作ってるそいつに!!」
スミスはそう言うとダンッと地面を踏み鳴らす。
おお、地団太って初めて見た。
「お前はこんな場所で何暢気に飯作ってんだー!!?」
スミスはそう言いながら杖の先で俺の手元を差した。
完成間近のスープと、コッペパンに野草と焼いた新鮮なオーク肉を挟んだだけの簡単なサンドイッチが鎮座しているそこを。
「なんでって、腹が減ったから?」
俺は最後の味見をし、完成間近から完成に変わったスープを火から下ろすと、バートンに全員分のカップをくれと手を出す。
「腹が減っては戦はできぬって言うだろ?」
そしてよそった最初の一杯を怒れるスミスに渡し、皆にも順に配って行った。
「俺が加わったところでお前達以上の意見が出るとも思えないし、荷物の整理なんかはケニス達が率先して始めちゃったし、なら俺ができるのは飯の用意かと思って」
そうしてサンドイッチも配り、「さ、冷めないうちに食べようぜ」と言うと、
「……こいつはホントさぁ…」
「大物って、こういう人なんでしょうねぇ…」
「神級ってすげぇな」
「色んな意味でな」
四人はそう言って顔を見合わせため息を吐きつつも、俺が作った遅い昼飯を口に運び始めた。
文句言う割にはちゃんと食うのな、と少し呆れながら俺もサンドイッチにかぶりつく。
うん、焼き過ぎず柔らかで臭み消しのハーブや胡椒も効いている。
ちゃんと宿の手伝いをしていただけあって店で出してもいいレベルだ。
干しきのこの旨味が溶け込んだ熱々のスープも飲み込んで、俺は自分の料理に舌鼓を打つ。
貴族で舌の肥えている四人には大した感動もない味だろうが、このレベルの料理が外で食べられることに少しくらいは感謝してほしいところだ。
ギルドに戻った俺達は途中で遭遇した群れの討伐も含め、三十七体分の鼻(討伐証明部位)を受付職員に渡し、剥ぎ取った素材を買取カウンターへ持って行く。
そして買取査定を終え、普段ならこのまま寮に向かうか夕食を食べに近くの飲食店へ向かうのだが、この日はそうはいかなかった。
「やあやあ、朝ぶりですねぇ」と俺達に声を掛けてきたのはキアラで、彼は「すみませんけど、レィヴァン君とスミス君をお借りしますねぇ」と銀級トリオに言うと、「よいしょ」と言って俺達を抱えて階段を上がっていく。
「いや、自分で上がれますけど!?」
「ちょ、離せよ!!」
そんな当然の暴挙に俺達は驚き、抗議の声を上げるが、
「あー、すみません、急ぐのでぇ」
そんなことを宣うキアラに却下され、彼はそのままでズンズンと廊下を進んでいった。
「ならなおさら降ろせよ!!」
「うふふふふ~」
それに対してスミスはなおも言い募るが、笑って躱されてしまう。
俺はといえばすでに諦めていた。
だって、
「そんなことを言っている間にギルド長室到着ですぅ」
キアラの言う通り、遠くはない目的地にもう着いてしまったから。
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