第12話
ギルドに登録してから三ヶ月。
今日は久しぶりに学園で授業がある日だった。
あの日から落ち着きを取り戻したスミスは無茶をすることもなくなり、順調に依頼をこなした結果、銀級トリオはD級に、スミスはB級なった。
俺はA級のままだが、そもそも引退までにC級になっていれば大成功という冒険者の世界で何の実績もない奴がA級でいること自体おかしいのだから気にしてはいけない。
銀級トリオの差が埋まった理由はD級からC級へ上がるための必要経験値が高いことの他、攻撃をするだけの剣士に比べて盾と攻撃役の両方をこなす戦士やサポートと回復を担う賢者の方が経験値がたまりやすいからである。
スミスが昇格したのは荒れていた時にソロで倒した魔物の中にソロ討伐はA ランク推奨のワイバーンが複数体いたから、その経験を認められてのことらしい。
……あいつ、どこまで狩りに行ってたんだろ…。
そういえば去年飛行魔法を覚えたとかで、隣国でも日帰り圏内って言ってたな。
もう無茶なことはしないと思うが、まだ気を抜かずにおいた方がいいかもしれない。
「おう、お前ら久しぶりだな」
そんな風にこの三ヶ月を振り返っていると相も変わらず気だるげなキャリード先生が姿を見せた。
少し伸びた髪はぼさぼさで、目の下には隈、やつれてはいないが肌に張りはない。
「えー、本当なら今日からギルド依頼での経験を活かし、自分に不足しているものを確認して鍛えるという授業を行う、はずだったんだが…」
『?』
ガシガシと頭を掻きながらやや気まずげに話し始めた先生の言葉に、クラスメイトは揃って首を傾げる。
はずだったなら、そうすればいいじゃないか。
と言いたいところだが、そうもいかないから先生はそう言っているわけで、且つ生徒達の中で俺達だけにはその理由に心当たりがあった。
この三ヶ月であの件に進展はあったのだろうか。
「今俺はちょっとギルドに頼まれて事件の調査に協力している。だから暫くは今までのようにお前らを見ることが難しくなったが、このクラスの担任を他に預けるには…ちと不安がある」
そう言う先生の目がこちらを向く。
おい、なんで今俺を見た?
…ん?あ、違うか、視線の先は隣のスミスだ。
ならまあ、色んな意味で不安はあるな、確かに。
察した俺の表情を読んだのか、先生は今度こそ俺を見て深く頷く。
俺もそれに頷きを返した。
二人の間で確実に何かが通じ合った瞬間だった。
……おっさんと通じ合ってもなぁ…。
「というわけで、その事件が解決するまでの間、各自今まで通りギルドで依頼をこなしてほしい。俺も学園よりあっちにいる時間が増えそうだから、タイミングが合えば依頼の合間に相談くらいは乗れるはずだ」
先生は視線を戻すと生徒達をぐるりと見回した。
「それでも不満があれば他のクラスの授業に参加しても構わないという許可はもらっている。座学が必要だと思えば遠慮なく学んで来い」
そう言って先生は、何故かニタリと笑う。
「…だが、この俺が3年間指導した生徒が他のクラスの授業で満足できるわけがないし、お前らは自分で考えて学べる奴らだと俺は知っている」
そしてもう一度、一人一人と目を合わせるようにゆっくりと教室内を見回して、
「俺がいなくても勝手に学んで勝手に強くなれ。そして、戻ってきた俺を驚かせて見せろ」
最後に俺と目を合わせて、笑顔と言っていいのかもわからない凶悪な顔を向けた。
暗に『俺を超えて見せろ』と言われた気がした。
先生は「言うことはそれだけだ」と言うと、さっさと教室を出て行こうとする。
『え?それだけ?』と俺達が驚く中、「あ、そうだ」と言って振り向くと、
「期間はどれくらいになるかわからねぇ。だから連絡はギルドを通して行うことにする。一日一回、真面目に依頼をやっていれば連絡未達なんて事態にはなんねぇはずだから、お前ら、サボるなよ」
と言って今度こそ教室のドアをくぐって行った。
『はい!!』
戸惑いつつも今日初めて上げた俺達の元気が良すぎる返事を背中で聞いた先生は教室を出てから「くく、俺には過ぎた生徒だぁな」と呟いて笑っていたと、先生と廊下ですれ違った後に俺達のクラスを覗き込んだ隣のクラスの先生が教えてくれた。
教室内でそう言って出て行った方が恰好いい気がするのに、なんて残念な先生だ。
俺達はそう言い合って、皆で滅茶苦茶笑った。
滅多に生徒を褒めない金級の勇者且つ英雄の先生にそう思われていたことが単純に嬉しかったから。
「今日はこの依頼にしようぜ!」
「……『オーク殲滅依頼』?」
「しかもこれレイド依頼になる可能性ありって書いてるぞ?」
「ちょっと詳細を見せてくれ」
学園にいても暇だからとさっそくギルドに来た俺達はケニスが見つけた新しい依頼書を読む。
するとそこには『最近オークの目撃情報が多数寄せられている。数が増えすぎたのか行動範囲が広がっているようで、だんだん街に近づいてきていることがわかった。少しでもいいので、街に近づいてきているオークの殲滅を手伝ってほしい。』と書いてあり、依頼難度は『E~B級』となっている。
これはオーク一体を倒すならE級、オーク三体までならD級、群れや小さな巣の駆除ならC級、大きな巣の駆除や上位種との交戦ならB級という意味で、俺達ならオーク三体以下の集団なら相手をしてもいいことになる。
「優先依頼になってるし、ランクルールを守るなら何体狩ってもいいっていうのは俺達向きじゃないか?」
ケニスはやる気満々らしく、俺達が依頼書の内容を読んでいる間に受付カウンターの職員に話を聞いてきたようで、「な、な!?」とキラキラした目で俺達に同意を求めた。
別に異存はないので俺達はケニスが乗り気ならと頷き、その依頼書を持って改めてカウンターに向かう。
するとそこには久々に見たキアラが立っており、人の好さそうな笑顔を浮かべながら俺達を手招いていた。
「いやー、君たちがこの依頼を受けてくれて助かりましたぁ」
彼はにっこりと笑って俺達のギルドカードを預かると、
「A級一人、B級一人、D級が三人。学生とはいえこれならC級レベルまで許可しても良さそうですねぇ」
と言って、C級依頼許可の処理を行う。
「え?いいんですか!?」
「マジか!C級だってよ!!」
ケニスとバートンはそのことに喜び手を取り合うが、
「……なんかおかしくありません?」
「怪しい、そこはかとなく怪しい…」
「なにか裏がありそうだな…」
エレリックとスミスと俺は妙な好待遇に危機感を持ち、疑惑の目をキアラへと向けた。
二人のように無邪気に喜べないのは悲しいが、相手がキアラだから仕方ない。
これがギルド長なら、何の疑いもなく喜べたのに。
「おやぁ?久しぶりにお仕置きが必要な子がいるのかなぁ?」
キアラはそんな俺達に背筋が寒くなるような笑顔を向けたが、
「なんてね。君達は賢いですねぇ。そんなに慎重だと、この先苦労しますよぉ?」
すぐにそれを苦笑に変え、ちらりとケニスとバートンを見遣った。
あいつらは苦労しないだろうなと言いたげだが、その場合一番苦労するのはエレリックだろうと思った。
多分彼らは卒業後も正式なパーティとして活動するだろうから。
そこに俺やスミスがいるかは、今はまだわからない。
「今回は単純に人手が欲しいだけですから、そう構えなくても大丈夫ですよ~」
キアラは俺達にカードを返すと、
「ですから頑張ってオークの数を減らしてきてくださいねぇ?」
期待していますからぁ、と手を振って見送ってくれた。
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