立腹帖

 今回のエッセイ集のタイトルも伝説的鉄ちゃんの作品タイトルからいただいた。

 百閒先生は、立腹といっても腹を立てたりは基本的にしていなかった気がする。

 実際、元ネタを見ても、それほど立腹のネタはない。

 ここで読んだか、別の本で読んだかわからないが、唯一おぼえている立腹ネタは、コースを出す洋食店に入って、途中で憤慨してバターをくるんで出ていく客がいたという話くらいだ。これだって、百閒先生自身は立腹していない。

 

 さて、百閒先生とは違って、私はしばしば色々なことに腹を立てている。

 ただ、それをそのまま書いてもまったくもって面白くないうえに、目にする方にとって不快なものにしかならないであろう。

 だから、腹が立ったときは、う◯ちなう! う◯ちなう! と叫ぶくらいにして、なるべくバカな話を書き連ねるようにしてみた。

 

 他者に怒りをぶつけるというのは、本人はすっきりしても、ぶつけられる側からすれば、よろしくないものだ。

 私は日本にいる限り大抵の場合マジョリティ側の人間だが、外国でいわれのない怒りをぶつけられたことがある。

 ただ道を歩いているだけなのに、肌の色、(誤解された)国籍で罵声を浴びせられる。憎悪と興奮で爛々と輝く複数の目が私を見つめ、複数の口が罵声を響き渡らせる。

 これは実に恐ろしい体験だった。身の危険すら感じた。

 ただ、今となっては貴重な経験だと思っている。

 というのも、そのような恐ろしい行為は残念ながら、私が居住する国でも平然とおこなわれているようにみえることがしばしばあるからだ

 偉そうに講釈をたれている私も、その鈍重さゆえに加担してしまっていることもあるだろう。

 ただ、それでも出来る範囲で抵抗していきたい。

 私の心の中のモヒカンは大変小さいものであるが、分断をはかる輩のまわりでせめて蝿のように蚊のようにうっとうしく飛び回れたらいいなと思う。

 とりあえず誰かを嫌いというときに、属性で嫌うなということは、私の話を聞かざるをえない人たちにはいい続けている。〇〇(国籍他属性)は嫌いではなく、☓☓(個人名)が嫌いと言って拳をにぎれや、ち◯かす野郎といった具合である。あとは何かに取り組んでいるやつを鼻で笑うな、う◯こ野郎とかも言っている。言葉遣いが悪いのは育ちの悪さゆえに勘弁してほしい。


 柄にもなく真面目なことを書いてしまった。

 どうでも良い話に戻そう。

 実はこのエッセイ集、煩悩の数だけ書こうとあらかじめ決めていた。

 となると、これが一〇八話目で、今回が最終回である。

 一つ書く度に煩悩が消えるどころか増えていったような気がするが、ひとまず、ここで終わりにしようと思う。


 とはいえ、煩悩は一つも消えていないので、また新規開店巻き直しをはかろうと考えている。

 ただ、タイトルのネタを考えるのも大変になってきた(ついでにいえば、中身自体のストックもほとんど使い尽くしてしまった)。

 だから、ここで百鬼園随筆のように汎用的に使えそうなタイトルを考えようと思った。

 それには号がいるので、私は必死に考えた。


 というわけで、私、黒石廉、越痴園と号することにした。

 えっちでバカなおいちゃんおにいちゃんである私にぴったりの号ではないか。

 というわけで、次作のタイトルだけは決まっている。

 越痴園随筆にて皆さまと再会できる日を楽しみにしている。

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立蝮帖 黒石廉 @kuroishiren

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