今更だけど、ハンチバックがものすごい件

 今更だが、少し前に『ハンチバック』を読んだ。


 文学や映画といった創作物に心を強烈に揺らされるのが、私が本を読んだり、映画を見る理由の根っこのところにある。

 この作品は本当に素晴らしかった。

 強烈に殴られ、揺さぶられ続けた気がした。

 

 物語は風俗体験記の描写から始まる。

 htmlタグから、何かしらのウェブ記事であることがわかる。

 純文学を読むのだと、どこかしゃちほこばって作品を開いた私はいきなり張り手をくらう。


 主人公はどこからどこまでもなまなましい。

 性格もお近づきになりたくないタイプである。

 違和感を抱いた私はそこで、自分の醜いまなざしに気が付かされる。なぜ、私は主人公に無垢さや善性を求めているのだ。

 私が心の奥底に自分でもわからないくらい巧妙に隠しながら、機能させていた歪んだまなざしを引きずり出される。

 自分とは違う箱に分類しようとする私の醜い心がずるずると引きずり出され、私は顔を歪める。


 主人公の独白は、私をさらに殴りつける。

 読書とマチズモ、自分が当たり前におこなっていたことへがマチズモとして断罪される。

 

 物語というのは、多くの場合、主人公に共感し、視点を一体化させるようにできあがっている。

 それなのに、この作品はそのような共感を許してくれない。

 私は作中の「インセル」、「弱者男性」のほうに追い詰められていく。

 主人公とは違った息苦しさが私を襲う。


 買われるインセル。

 障害者を無垢な存在としてまなざす私の醜悪な心がこれでもかと引きずり出される。


 そして、最後の物語。

 何が何を内包しているのか混乱させられるように設置された複雑な入れ子構造が私小説を読もうとしていた私をファンタジー世界に放り出す。

 私はどこまでも主人公から突き放され続ける。

 どこまでも私は居心地が悪い。

 居心地が悪いまま、一気に読み進め、気がついたら物語は終わっていた。

 呆然としたままである。

 これを書いている今でさえ、この小説をどのように感想をもらせばよいのか、実はよくわからない。

 本当に素晴らしいものを読んだ。

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