かばう兄

 太郎丸(仮名)と次郎丸(仮名)は兄弟として育てている。

 お兄ちゃんは、好き勝手に弟を転がして遊んだりすることも多いが、それでもお兄ちゃんである。


 弟、次郎丸(仮名)が最近初めて盗み食いをした。

 カジンが次郎丸(仮名)をつかまえて、にらみつける。

 必死に目をそらし、逃げようととする次郎丸(仮名)とカジンの間に太郎丸(仮名)が尻尾をふりながら、割って入っていく。

 「こいつも悪気があったわけではないんです。おでんの出汁の香りに魔が差したんです。あとできつく言っておきますから、ここはボクの顔に免じてどうかひとつ」

 そのような言葉が聞こえてくるようである。盗み食い前科二犯であるけれど、ボクは更生しましたと目で訴えてくるのだ。


 お兄ちゃんには責任があるので、もちろん、有言実行だ。

 「ボクが我慢したのに、お前が一瞬の隙をついて盗み食いするなんて!」

 カジンから解放された次郎丸(仮名)は、すぐに太郎丸(仮名)につかまって、投げ捨てられる。

 次郎丸(仮名)が腹を出す。


 さて、お兄ちゃんは責任感にあふれているが、飽きっぽい上に、忘れっぽい性格である。

 弟に説教投げを何度かしているうちに、兄は当初の目的を忘れる。

 身体が温まってきて楽しくなってしまった兄は、説教しているはずが遊びモードになってしまう。

 「よっしゃいくぞ!」「おう兄ちゃん!」

 お互いに大きな声で吠えあって、駆け回る。


 「夜の八時過ぎたら吠えたらダメっていっているでしょう!」

 責任感はどこに行ったのか。

 気がつくと、説教された悪たれ小僧が並んで頭をたれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る