ミステリ嫌い
嫌いなものを書き出していくときりがない。
そのうえ、あまり楽しい話でもないことがほとんどだ。
だから、私はあまり嫌いなものについて書かない。
でも、たまには書きたくなることもある。
私はミステリというジャンルが嫌いである。
ただし、これはいくつかの不幸な出会いが重なって、ミステリ嫌いな私が形成されてしまっただけである。
それゆえ、ミステリ好きの人がいても、それを毛嫌いするわけでもないし、嫌いといいながら、ミステリを読んでいることもある。
しかし、基本的にはミステリは嫌いだ。
不幸な出会いは小学生の頃に遡る。
図書室でシャーロック・ホームズをそれなりに読んだ私は、エラリー・クイーンに手を出した。
読者への挑戦めいた文言が書かれている前書きに私は目を輝かせた。
私は幼い頃から胡乱な読み方をしてしまう、まぁ、典型的な文章の読めないやつである。
ただ、幼い頃は負けず嫌いで、挑戦されたら、そこから逃げるなどとは考えられなかった。
普段は適当にしか動かしていない脳みそをフル稼働させる。
誰がどのような理屈で殺人に至ったのか、その手がかりはすべて書かれているというのなら、僕はすべてをわかってやる!
鼻の穴からピーナツを飛ばせるくらいに鼻息荒く、なおかつ目を皿のようにして読みすすめたわけだ。
私は今でもいんぐりっしゅがとても苦手であるが、小学生であった当時はそもそもいんぐりっしゅなどというものに触れてすらいない。
なぜマンドリンが凶器となったのか。
種明かしではじめて振られたルビで、それが英単語に由来するものであったことを読み取った私は激怒した。
二つの理由で激怒した。
日本語で話をすすめてきて、ここではじめてルビを振られたことへの怒り。そんなの挑戦でもなんでもないではないか!
鈍器という単語がわからず楽器を使ったという説明への怒り。
幼い少年ゆえに、言葉が理解できなかったと言われても、当時の私は幼い少年よりさらに年下であった。
この年齢でこんな言葉の区別もつかないなどと言われて納得できるものか。僕をバカにしているのか!
それ以降の結末については、ほとんど記憶がない。
怒り狂いながら字を目で追って読み終えたのだろう。
後年になって、友人が探偵小説を貸してくれた。
「絶対読め」
にこやかに分厚い本を四冊渡された。
苦手意識があっても、数少ない友人が貸してくれたものだ。無下に断るわけにもいかない。
私は読み始めた。
必殺技か呪術のような謎の推理法を駆使する探偵たちが連続殺人事件に挑戦する。
つっこみをいれながらも、読みすすめていく。
驚愕のオチ。
私は読み終えたことを彼女に伝える。
「どうだった?」
濡れた瞳で僕を見つめる彼女。
小柄な彼女を包むように僕は壁に手をつける。
「焚書して、君を埋めたい」
「でしょう。この苦しみを分かち合いたくて」
彼女がにやりと笑った。
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