恋愛小説

 恋愛小説を書きたかった。

 というか今でも書けるものなら書きたい。

 実はフォルダの中には少し書き散らしてそのままになったものが残っている。

 はじめて書いた小説はジャンル的には異世界ファンタジーであったが、ここにも恋愛小説を書きたい願望が混ざっている。本編は最初から最後まで主人公の一人称視点で話が進むが、スケッチと名付けた主人公の仲間視点の挿話が四つほどあり、これのほとんどが恋愛に関わる話なのだ。

 長編二作めはホラーであったが、これは民俗ホラー(ラブストーリー)とか銘打っていた。先日まで連載していた作品もまた恋愛要素が入っている。

 考えてみれば何かしらの恋愛要素が混じっていないのは、短編ホラーくらいである。

 このエッセイにすら私の惚れた腫れたの話が散見している。

 そう私はなまめかしい話が書きたいのだ。


 ただ、どうにも私は男女の機微にうとい。


 「黒石くんは、鈍感だよね」

 友人にそのようなことを言われたことがある。

 「黒石くんのこと、いいなって思っている子がサイン出しても全部見逃すよね」

 彼女は笑うが、そんなサインの読み取りができるような経験を積んでいないのだ。恋愛経験値が低いから「サイン」を見逃すのか、「サイン」を見逃すから恋愛経験値がたまらないのか。どこかに恋愛はぐれ◯タルはいないのか。

 「えっ? 誰なの? 誰々?」

 「教えるわけないじゃん、バカ」

 彼女は再び笑う。

 「もしかして君が僕をいいなと思っていてくれた?」などと返すだけの精神力は私にはなかった。

 小説でそういう願望を垂れ流してみようかと思ったのだが、なんとも恥ずかしい妄想で、ためしに書いてみても全身が痒くなってしまって書き通せなかった。


 恋愛小説、難しいものだ。

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