膝の上

 自宅でパソコンに向かっていると、犬がよくやってくる。

 どうも私の膝の上は昼寝場所の一つとして認識されているようである。


 きゅんという催促の声とともに太郎丸(仮名)がこちらを見上げる。

 足を軽く組んでやると、それを足がかりにしてよじ登ってくる。ボルダリングの選手に成れるのではないかと思ってしまう。ちなみにこちらが投げたものをキャッチした時には今度のドラフトにかかるんじゃないかと思ったりするから、ただの犬バカというやつである。

 しばらくは一緒にモニタをみているが、そのうち頭を私の腕の上におく。ほどなくして寝息が聞こえてくる。

 こんな体勢で寝られるとは器用なものだ。

 私はいびきをかく太郎丸(仮名)を笑ったあとに気がつく。

 そういえば、昔は私もおかしな体勢で寝ていたものだ。

 ラッシュの電車の中、ギュウギュウ詰めで足が浮いた状態で寝てしまったことがある。

 二部練の日、ほんの一瞬の待ち時間に防具をつけて立ったまま気絶していたこともあった。

 私のほうがよほど酷い。


 別の日は次郎丸(仮名)がやってくる。

 催促の犬パンチをしたあとに彼は飛び乗ってくる。

 ぬぼっとした顔をしている割には彼は身軽である。たぶん、そろそろプロバスケチームあたりからスカウトがくるのではないだろうか。

 太郎丸(仮名)とは異なり、こちらは最初から遠慮なく寝る。

 彼はすぐにでも、でかい顔をどこかにのせて休めたいのだ。

 あるときは私の腕、あるときは机の上。

 机の上に顔をのせると、たまにキーボードをアゴで操作する形となる。

 エディタに異言が並び、神の啓示を受けた私はおろおろする。


 ある日突然、ここに解読不能な異言がアップロードされたら、それは次郎丸(仮名)のデビューの日である。

 犬初めての芥川賞作家となるだろう次郎丸(仮名)先生へのおひねりは芋でお願いします。

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