雪駄と先の尖った靴
雪駄で歩くのが好きだ。
膝抜きという動きを習得したくて、履きはじめた。
雪駄のようなかかとがない履物のほうが膝を抜くという感覚がわかりやすいというのだ。
もちろん、技術の習得はなかなかできるものではなく、今でも雪駄を履くことも多い。
バカの巣窟のバカの中に独特のファッションセンスを持つ男がいた。
彼は尖った靴やごつい靴を好んでいた。
あの尖った先には何が入っているのかと周りのバカとともにからかっていた私は後日我が身をもって、先っぽの中を知ることになる。
たしか一緒に図書館に向かうときのことだった。
私は雪駄、件のバカはいつもどおりの先の尖った靴。
何かの拍子で私のつま先と彼のつま先がぶつかった。
つま先に激痛が走る。
見ると爪が剥がれている。
私は素足で運動することもあって、深爪だと笑われるくらいに爪を短く切るほうなのに、それでも剥がれるなんて何事だ。
顔をしかめる私にバカが申し訳無さそうにいう。
「黒石ちゃん、ごめん。これ、実は先に鉄板が入っていて」
バカはパソコンの前に座って論文の読み書きしかしない生活の癖して安全靴を履いていたのである。
なんと実用性のない男か。
そう思う反面、私も安全靴を履いていさえすれば、爪は無事だったのかもしれない。
一度剥がれてから、切りにくくなった爪を見るたびに、若くして亡くなったバカを思い出す。
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