叱られる兄

 外に出るとき、犬たちには当然ハーネスやらリードやらをつける。

 ハーネスをこちらが取り出すと、彼らは大興奮である。

 ここからが実は長い。


 興奮した太郎丸(仮名)は部屋の中で追いかけっこをしないと気がすまない。鬼は私たちである。彼は常に逃げ回る。

 次郎丸(仮名)も、兄の姿を見て育っているので、自分も追いかけっこをしないと気がすまない。もちろん、鬼は私たちである。とはいえ、彼は限度を知っている。一周回ると満足して、素直につかまってハーネスをつけられる。

 太郎丸(仮名)は限度を知らない。追っかけるとテーブルの下に逃げ込む。追っかけるのをやめると、テーブルの下から出てきて、追っかけることを催促する。これを延々と繰り返すのだ。

 このエンドレス追っかけっこに一番最初にブチギレるのが弟、次郎丸(仮名)である。

 彼ははやく外に行きたいのだ。

 「兄ちゃん! いい加減にしろ!」

 猟犬の本能を活かして、兄を追いかけ始める。

 

 兄は弟に吠え立てられて追いかけられると、どういうわけか、大歓喜である。

 挟み撃ちされそうになる中、逃げる。逃げながら弟を投げとばす(兄はスピードはないが、力持ちである)。そして、テーブルの下に潜る。追っかけてくれなくなると、出てきて、つかまえてみろアピール(振り出しに戻る)。

 それを繰り返す。嬉しさと興奮で目が爛々と輝いている。

 

 次郎丸(仮名)は兄ほど根気がない。

 途中で飽きて、ハウスで不貞寝をはじめる。

 

 全員がしびれを切らして、「やつは置いていこう」と玄関に向かったときにようやく太郎丸(仮名)は大人しくなる。

 玄関でハーネスをつけてもらう兄を見て、弟がふんとため息をもらす。

 このため息は何を意味しているのやら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る