修羅場
男女の修羅場めいたものにニアミスしたことが二度だけだがある。
試合の日、観覧席で着替えていたら、誰かの正妻と不倫相手とおぼしき二人の女性がいて、はげしく鎬をけずっていたのだ。
「あんた、もう会わないって言ったじゃない!」
「あんたの旦那から応援に来てくれって頼まれたのよ!」
旦那(愛人)は、上の修羅場のこともおそらく知らずにコートで誰かと鎬を削ろうというわけだ。
なんだよ、この場外戦術、対戦するかどうかもわからない私が精神力をがりがりと削られているじゃないか。
ちくしょう負けてしまえ。
カジンも応援に来てくれない私は袴の紐を結びながら、どす黒い感情に包まれる。
ジェダイ並みに清貧な私なのに、フォースの暗黒面に落ちてしまっている。
試合は別のジェダイにけちらされて終わった。
若かりし日にはこんなこともあった。
とある会の懇親会の帰り道、別の大学のほとんど話したことない院生が私に叫ぶ。
「私、この人と不倫しているんです!」
彼女が指さしたのはもちろん私ではない。その院生の指導教授。
「いや、誤解だ! 彼女はすこしおかしくなっているんだ!」
不倫が事実かどうかは知らない。
しかし、そのようなことを言われたら、やばいのだ。
事実であれば不都合な真実を知ったものとして捻り潰され、事実でなくとも面倒くさいやつとしてすり潰される。
どうして、私にそのようなことを言うのだ。
私は独り身だった。フリンどころかフリーだ。半額の値札がついていようとも誰も手に取ってくれない存在だ。
甘い言葉も快楽も一つもない。私にならば、甘い言葉をいくら投げかけようと問題がないはずなのに、どうしてあなたは、あなたがたはどす黒い呪詛のなかに私を巻き込むのだ。
「わーわーわー」
私は叫びながら、夜道を走った。
おかしな酔っぱらいとして、その場を乗り切らないといけない。
「ひゃっはー、おにぎりころりんすっころりーん!」
私はしゃがみ込むと、植え込みに向けてでんぐり返しをした。アスファルトは硬く冷たかった。マナーの悪い犬飼いか、いかれた誰かが放置したとおぼしき糞ないし人糞が植え込みに転がっていた。
嫉妬の管理が一番大切であるということは、学部生向けの教科書でも書かれてたじゃん。
修羅場が去っていく中、私は泣く。糞みたいなやつらのせいで糞と並んで転がっている自分がとてもみじめだった。
どちらの例でも、後ほど腐り落ちてもげるように呪いをかけた。
リア充(?)もげておちれ。
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