太郎丸(仮名)の男塾
太郎丸(仮名)はお兄ちゃん気質である。
うちに来て最初の一年は一人っ子で、どちらかというとみんなの弟みたいな扱いであったが、立場は犬を変えるのだろう。次郎丸(仮名)が彼にのそのそと近寄ってきて以来、彼はお兄ちゃんになった。
トイレのしかた、おやつのねだり方、地面の転がり方、ドヤ顔の決め方、様々なものを次郎丸(仮名)に教え込んだ。
おかげで次郎丸(仮名)のしつけはたいそう楽だった。
太郎丸(仮名)塾様々である。
ただ、この太郎丸(仮名)塾、どうもいらないことまで教えている節がある。
あるいは師がよろしくない見本を弟子に見せているといっても良いかもしれない。
太郎丸(仮名に)は、おやつを眺めて楽しむという癖がある。
おやつはそれぞれケージの中で与えるが、もらったおやつを持って外に走り出すことがままあるのだ。
大好きなおやつをもって、ケージの外に駆け出して放り投げる。
そして、手の届く範囲において眺める。
なかなか食べない。
喧嘩になったら嫌なので、ケージに戻って食べてほしいが、なかなか戻らない。
戻らないと取り上げるよと言うと、「ぅわおん!」と叫んで、ようやくケージに駆け戻っていく。
仕草はいちいちかわいいのだが、なかなかに面倒くさい。
気がつくと次郎丸(仮名)も時折やるようになってしまった。
毎回ではないが、たまに満面の笑みでおやつをもって走り回っていることがある。
先日、風呂場に運ばれてきた彼が何かをぼとりと落とした。太郎丸(仮名)の風呂上がりのご褒美(わかりにくいのだが、片方がご褒美をもらうときは、もう片方もお相伴が我が家のルールである)のおやつであった。
お前は風呂場に何を持ち込もうとしているのだ。
次郎丸(仮名)は不器用なので、よくおやつをどこかに転がしてしまう。
不器用な癖して、太郎丸(仮名)塾でいらんことまで学んだ彼がおやつで遊び始めるのは先にも述べたとおりだ。
取れないところに入ったら最後、悲痛な顔をした彼は、爪でがりがりとやりだす。
「ぼくの! ぼくのビスケットが異次元(棚の下)に飲み込まれてしまったの! ぼくのなのにぼくのなのに!」
面倒くさいやつである。
元凶たる太郎丸(仮名)はそしらぬ顔で寝ている。
さて、太郎丸(仮名)塾、最近は外でも塾生を取ってしまった。
ドッグランで顔なじみになった米吉(仮名)くんは、同じ犬種の二歳の男の子だ。
二歳というと落ち着いてくる子も多いが、どうも犬種的に遊びまくり期間が長いらしく、彼は今でも元気印で、常に疾走している。
太郎丸(仮名)は米吉(仮名)くんがお気に入りで、彼が遊びに来ると先輩風をふかしている。
太郎丸(仮名)は走るのが遅いほうである。得意分野はレスリングな太郎丸(仮名)は弟子を投げ続ける。
投げ続けるだけだと弟子が逃げてしまうので、米吉(仮名)くんにも積極的に抑え込みや投げの機会を与える。
「おい、米坊! ボクの上にまたがってごらん」
ごろんごろんと転がされ続けた米吉(仮名)くんが、つまらなさそうにしはじめると、塾長太郎丸(仮名)は自分の尻を相手の体の下に押し込んでいく。
「そう、そうだ! そのまま、腰を激しくふれ! それがマウンティングだ!」
うちの子に下品なことを教えないでくださいと怒られるのではないか、びくびくしている。
追記
このエッセイの犬回にいつもコメントをくださる犬飼いの香坂さんに、「犬エッセイ書いてくださいよぉ」とうざがらみをしていたら、本当に書いてくださった。言ってみるものである。ちょうど本日、犬回だったので、これ幸いと勝手にリンクを貼る次第である。ワン太(仮名)ぁー(ToT)
香坂壱霧『今日も笑顔でワン太と過ごす』
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