国内の異国でたゆたう
知らない街、見慣れない光景が好きだ。
光景と書いてみたが、街並みや自然の景物よりも人が集うさまをみるのが好きといったほうが正確かもしれない。
私の慣れ親しんだものでない言葉、それを操る人々が食事の注文をし、買い物をし、笑う光景を見るのが好きだ。
私もたどたどしい言葉を駆使して、その中に入りたくなる。
だから、外国をぶらついていたときはよく市場に行った。
東京にイスラム横丁という場所がある。
色鮮やかなパッケージ、読めない文字の商品が並ぶ。冷凍庫にはヤギ肉のような東京ではなかなか手に入らない肉も入っている。
レジを守るように張られた金網越しに話を交わす人々、聞き取れない言葉で話をする人々に混じっていると、日本にいながらにして外国にいるような気分になる。
レストランに入ってもよくわからないメニューが並んでいる。
そもそもそのレストランも入り口もろくに示されていないようなところ、ここをたまにたゆたいたくなる。
街角でテイクアウトでビリヤニとシークカバブだったかタンドリーチキンだったかを売っている店があった。
列に並んで買って、その場で頬張る。
近くで頬張っていた男性がカジンに話しかけている。
「ここは◯◯◯◯人のやっている店だから本場の味には劣ります」
流暢な日本語でくさしながらも彼は串肉を美味しそうに頬張っている。その頭にはターバンがまかれている。
シク教徒かな。私はどちらかというとナショナリズム的なものの発露にいい感情を持たないタイプなのだが、こういった些細な対抗心やお国自慢、地域自慢は可愛らしく楽しく感じる。
少し歩くと、新大久保元祖エスニックタウンともいえるコリアンタウンになる。
こちらは若い子が多くて、その行列の中にはなかなか混じることができない。
それでも甘いもの、辛いもの、見慣れない美味しそうなものがたくさんある。若者に混じって並ぶことはできないが、中の商店等で見慣れぬ食べ物を購入するくらいは私にもできる。かつてブラッドソーセージを食べて、その味の虜になってしまった私はスンデなるものを買ってみる。
さらに歩くと一風変わったスーパーがある。
コブミカンの葉の近くで蚕水煮缶を見つける。
タガメもあった。どちらにも心惹かれるが、輸入品だけあって、そこそこお高い。
初体験は万全のセッティングでと思うと、まだ手が出ない。
まずはこれを食わせてくれるレストランをこの街に探さないと。
迷い迷って買ったり買わなかったり。それでも、帰り道、カバンは戦利品で一杯だ。
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