欲望のままに

 社会生活上支障のない範囲で、という限定付きながら、欲望の赴くままに行動している。

 食欲というのは少なくとも公共に迷惑をかける心配も少なそうゆえに、食に関してはかなり欲望だだ漏れである。

 十代の頃は、腹がいっぱいになれば、それで欲望は満たされたが、年を重ねるとさらにわがままになる。

 美味いものを腹いっぱい食べたいという欲望、よくよく考えてみると自分が美味くないと感じるもので腹を満たしたくないということでもある。


 私はトーストの類があまり好きではない。

 朝からご飯と味噌汁、できることならば簡単なおかずも欲しい派である。

 しかし、朝というのはとかく時間に追われがちである。

 学生の頃はおかずこそないが、一汁一菜ならぬ一汁一飯の朝食をとる余裕があったが、今はそのような余裕も気力もない。

 ならば、食べなくても良いではないかという結論にいたった。

 朝、カジンと話す時間が増えた。


 かつては昼食に悩んだ。

 空いた時間でさっと食べられて腹にたまるものを考えながら、外食先を探す。食べた後にさほど美味くなかったと後悔することもままあった。

 そのうえ、食べた後は眠くなる。ゼミで居眠りして教授に殴られた経験がある身としては、昼食後の眠気はまったくありがたくない。

 ならば、無理して食べなくても良いではないかという結論に至った。

 午後、舟をこぐ回数が減った。


 もちろん、まったく食べないというわけではない。

 むしろ、これ食べたいと思ったら、その欲望は大切にする。

 だから、食べたいものを見つけたら、たとえばランチタイムが過ぎていようとも、支障のない範囲で欲望を満たしにいく。

 とはいえ、それはあまり多くない。


 間食も欲望にまかせる。

 さして美味くもないスナック菓子を食べるのは色々無駄だと思うようになった。

 反対に見た瞬間に食べたくなるような代物を見つけたら躊躇なく買うようになった。

 ただ、そういったものに出会うのはなかなかないから、あまり間食もしなくなった。


 結果として、夕飯だけしか食べない日が増える。

 夕飯は食べたいと思うものを考えて念入りに準備する(/してもらう)。

 食べた後は洗い物とその他一つを除いて一切の仕事をしない。洗い物以外で唯一の仕事とは、次郎丸(仮名)のボール投げ係である。

 これはやらないと、犬パンチ連打をくらうのでやらざるをえない。


 七十にして己の欲する所に従えども矩を踰えず。


 七十はまだまだ遥か未来のことであるが、欲望の赴くままに行動しても、それなりに人様に迷惑もかけずに暮らせるようになっている。

 やばい、私、孔子越えちゃってねと思うが、三〇にして立つとも言えぬレベルの貧乏人だ。

 まぁ、一勝一敗引き分けということにしておこう。

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