まだ期待している
太郎丸(仮名)たちが我が家に来る前のことである。
うだるような暑い昼、当時住んでいたマンションの階段に黒い塊が落ちていた。
セミでもさらに嫌いなアイツでもないことを確認してから近づいた。
弱々しく動いたそれはよくよく見るとコウモリであった。
どういうわけか、真っ昼間にこんなところで力尽きようとしているらしい。
このようなところで力尽きられても寝覚めが悪いので、煮えない場所に移動させることにした。
通気孔をあけた牛乳パックにいれる。
自分の部屋に運ぶ。
彼か彼女かわからないが、ぐったりしているコウモリは逃げることもしなかった。
まさか死んでいるのではなかろうなと嫌なことを考えてしまう。
保冷剤で牛乳パックを囲んで涼しくする。
日が落ちて、恐る恐る中をのぞく。
元気そうである。
元いた場所に戻すと、コウモリは飛んでいった。嬉しかった。
私はたいそう現金な性格なので、恩返しを期待した。
コウモリというのは文化によっては金運をアップさせてくれる存在らしい。
札束風呂に入って、君の瞳に乾杯といえる日がとうとうくるのかと嬉しくなった。
まぁ、札束風呂は高望みし過ぎかもしれない。それでも、鶴の恩返しのように私のところに嫁いできてくれたりするのではないか。そう考えても嬉しくなった。
その頃、私はすでにカジンと一緒に暮らしていたが、それでも影のある美人が私のところに来るのに備え、一夫多妻制について書かれた論文を読んだりしてみた。
準備万端で待ち構えていたのに、いまだに私は貧乏で異類婚ハーレムも形成されていない。
しょうがない。現世利益についてはあきらめようではないか。
地獄に落ちた私のところにさっそうと飛んできてくれるのだろう。
何人乗れるかわからないが、カンダタから教訓を学んだ私だ。
コウモリが許す限りは他のものも乗せてやろうと思っている。
地獄行きという言葉を聞いて心当たりがある方は私にお布施をしておくと良い。
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