えっちなおじさんこうぶんの巻

スイカ割り

 スイカ割り、フィクションの夏の風物詩である。

 あれは皆が経験しているものだろうか。

 ビーチでスイカを割ろうものなら砂まみれになってしまうし、そもそも棒で叩き割ると、食べるときに見栄えが悪い。

 大人はそれをわかっていたのだろう。

 だから、子供の頃にスイカ割りをしたことはない。


 大人になって色々と分別はついたが、子供の心を忘れたりはしない純真無垢な私である。見栄をはってしまった。分別なぞは大人になってもついぞつかず、常に幼稚に駄々をこねるのが私である。

 スイカ割りをやりたいやりたいやりたいのだとわめいて、つきあってもらったことがある。

 一度目は夜のビーチでやった。

 一〇〇円ショップで買ったウレタンの刀を使うことを提案した大人な友人のおかげで、私がはしゃぎちらしたにもかかわらず惨事は起きなかった。


 ただ、人の頭(しっかりと味噌がつまってそうな人のが良い)かスイカでもかち割ってみたくなるのが男の子というものであろう。

 ウレタンの刀ではその欲求は満たされない。

 後年、立派なスイカをみた私の心の中にスイカ割りをしたいという欲望がふたたびむくむくと湧き上がった。

 研究室の横でやれば、砂もつかないし、夜中なら誰にも怒られない。

 「ほら、ここに木刀が! どうしてここにあるのかはわからないけれど、木刀が! スイカか君の頭をたたけと私にささやく木刀が! ああ、割りたい割りたい!」

 木刀を八相に構えながら、だだをこねてスイカ割りにつきあってもらう。近くにいたやつが頭を隠す姿勢をとったのは、おそらく私の可愛さビームにめろめろになってしまったからに違いない。


 「やーやー我こそは秘剣の使い手黒石なるぞ。とくと見よ、我が奥義! 秘剣酒のんだ俺はマーライオン! ちぇすとぉ!」

 

 ぐるぐるとまわされて平衡感覚をうしないながらも、大上段に振りかぶった私の一撃はしかと地面をとらえた。


 実は家には先が割れた木刀がある。

 捨てるに捨てられないし、使うに使えない。

 リアルで話そうものならば、出入り禁止か段位剥奪されそうなので、ここでぶちまける次第である。

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