考える犬
私はしばしばインテリぶることがある。
インテリぶったら格好良く見えて、女の子が黄色い歓声をあげてくれると思った若き日の過ちが澱のようにたまり、檻のように私を閉じ込めているわけだ。
もうここらへんは治らないので、私は一生涯インテリぶる似非インテリとして生きていくしかないことは覚悟している。
問題は、我が家の犬たちにまで私の悪癖が感染っていることである。
新聞を読んでいると、太郎丸(仮名)が膝に乗ってくる。一緒に新聞を眺めている。
「ふんふん、最近の国際情勢はこうなんですね。ボクもドッグランで緊張関係に陥ることがあるからよくわかります」
必死に読み、うにゃうにゃと言っているが、瞼はすぐに重くなり、首がかくかくと揺れだすようになる。
「いえいえ、ボクは最近の国際情勢とオヤツの芋の緊張関係が」
もう何がなんだかわからない。
早く寝なさいと言っても「大相撲のジャーキーが歯ごたえ抜群でセーフティーネットワークのプチトマトがもにゃもにゃ」と半分寝言になりながらも新聞読んでいますアピールに必死である。私が難しい本を読んでいるときと同じだ。いや、よだれをたらさない分だけ、彼のほうがマシかもしれない。
次郎丸(仮名)は一部で哲学者と呼ばれている。
眉間にシワを寄せて考え事をしている(ようにみえる)ことが多いからだ。
何を考えているか(いないか)はわからないが、考えた(としてもその)結果が「そのボールをぼくのために投げてよ。そのロープでもいいよ。円と線がアウフヘーベン」とか「氷の音でぼくの現存在とう◯ちがブリブリコラージュ」とかいう感じなので、たぶん考えているフリをしているだけなのだろう。
私もよくやるからわかる。難しいことを考えようとしながら、あるいは自分では難しいことを考えようとしているつもりで、アピールをする。その実、腹減ったなとか誰か一億円くらいくれねぇかなとかしか考えていない。
どこかの公園で難しそうな顔をしてたたずむ男と犬二頭を見かけたら、それは私と太郎丸(仮名)と次郎丸(仮名)である。芋でもあげると三匹とも喜ぶので優しく接してほしい。
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