プロの技
学生時代、アルバイトでシンポジウムの雑用をしたことがある。
時給はそれほどでもないが、どうしても聞きたい話はこっそり聞かせてもらえる他、懇親会で飯を食わせてもらえる(余ったらドギーバッグもあり)等、良いバイトであった。
登壇者は偉い人たちばかりだったが、社会的地位と気さくさの間にはなんら相関関係はない。
若い私たちと気さくに話してくれる方もたくさんいて、楽しかった。
バイト仲間とわしわしと揚げ物をほおばっていたとき、写真家の方に話しかけられた。
その方の写真集は以前見たことがあった。
言葉も通じないだろう異国の人々の素敵な笑顔がたくさんあったのが印象的だった。
同じことを思ったのだろう。
そこにいた一人が聞いた。
「どうやったら、あんな素敵な表情を撮れるんですか」
写真家先生はニコニコしながら、「お手本を見せてあげますね」と高そうなカメラを構えて、私たちに向けた。
さすがプロと思わせるような格好いい構え方、ここからすごい技が出てくるんだろうと私たちは固唾をのんで見守る。
「あれっ? あれれー? ちょっとまって? ごめん、カメラおかしくなっちゃったー」
先生がカメラを胸元に降ろして、慌てだす。
緊張していた私たちは、拍子抜けして思わず笑みをこぼす。
フラッシュが光った。
「こうするとね、ああいう表情になるんですよ」
写真家先生は破顔して言った。
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