いとしのよひんびんの巻

迎え酒

 迎え酒という言葉がある。

 あれは本当に良くない言葉だ。


 ある日のことである。金がなかったので、バカの一人の部屋で酒を飲んでいた。

 安いウイスキーを朝までもつ程度に買ったら、つまみを買う金はなかった。

 灰皿に刺さったタバコの吸い殻からまだ吸えそうなものを拾ってはリサイクルする。

 安物のウイスキーとシケモクで夜と朝を乗り切ったバカたちは当然のように二日酔いで目を覚ます。


 「喉、乾いた……」「俺たちに明日はない……」「乾杯する酒は……」


 「……彼女のおみやげ」

 部屋の主がベッドの下から酒瓶を取り出した。隠していたらしい。

 ワインボトルくらいの容量の瓶に入った透明の液体はアラックというヤシの蒸留酒であった。

 詳しくは憶えていないが、四〇%くらいのアルコール度数であったと思う。

 「色が水みたいだから、これで水分補給しよう……」

 色々と間違っているが、バカがバカ用ガソリンを相当量入れているのだ。

 ドラゴン◯ールにたとえるならば、髪の毛逆だって合体しちゃっている感じだ。実際に髪の毛は酒と寝癖で鳥の巣のようになっている。

 スーパーバカ、全員ボケの地獄絵図である。

 

 「俺たちの未来に向かって!」「のーふゅーちゃー!」「乾杯!」

 グラスを乾す。

 「やべぇ、まじで気分良くなってくる!」

 酒が進む。

 「もうなにもかにもどうでもいい」

 酒が進む進む。

 「乾杯!」

 いつの間にか眼の前の瓶に入っていた液体はなくなっている。揮発でもしてしまったのだろう。

 「よっしゃ、今なら動ける!」「ぱんくすのっとでっど!」「乾杯!」


 酒の臭いしかさせていないバカたちがそのままゼミに乱入して、カミナリを落とされるまであと一時間三〇分。

 三日酔に苦しむまであと一〇時間三〇分。

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