自律

 自律というものに憧れていた時期がある。

 憧れているということは、本来の私は極めて自堕落な人間なわけだ。

 どうして憧れたかといえば、言い訳みたいなものでしかない。皆が働き始めた中、まだ学生を続ける自分への嫌悪感を見えないようにしたかったのだろう。自分を律することで、自分ももう少し価値ある者だと思いたかったのだ。

 朝四時起床、語学の勉強をする。日中は論文をひたすら読んで先行研究をまとめる。夜はアウトプットに励み、はやめに寝る。

 こんな生活をしていれば、すれ違いになるのは当たり前だ。ふられるのも当然だろう。本当に言い訳でしかないが、相手に見合うような自分になりたかったのだ。


 その後一人暮らしをするようになってからも延々と自分を律することに熱中した。

 そのときの自分のモットーは「ゲームと同じで現実世界でもレベルアップは可能だ。だから常に経験値をため続ける」である。

 その頃には人付き合いや適度の息抜きの大切さも学んでいたが、それでもなにもない日は八時から二二時まで勉強してみた。たいしたことないじゃないかと思われるかもしれないが、炊事洗濯をやりながらだから、そこそこ大変である。

 お前は頭が悪いから、人の倍くらいではモノにならない。当時、そのようなことを言われた。とても腹立たしかったが、反論できるだけの優秀さを持ち合わせていなかった。本当に倍以上やるつもりで取り組むと、朝から晩まで机にかじりつくことになるわけだ。

 ストレスか疲労のせいでできたとおぼしき発疹をかきむしり、頭痛薬を飲み続けた。

 まぁ、結局、たいした成果は得られなくて、今、私は自堕落に暮らしている。体調は良くなり、気持ちも随分穏やかにはなった。

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