第18話
解散宣言は、何の前触れもなく行われた。
「
佑に呼ばれて集まった六人は、呆気に取られたように静まり返った。
「今までありがと」
佑はそう言うと、机の上に用意していた手紙を手に、夜雲の前に立った。
「夜雲。情報収集、いつもありがと。ほんとに助かった。俺って、そういうの得意じゃないから、できない部分をできる人がいて本当にありがたかった。夜雲は、ここが合ってると思う」
佑は夜雲に手紙を渡した。紹介状だった。
「夜雲はそこで頑張って」
次に佑は恵の前に立った。
「恵。いつもお母さんみたいにまとめてくれてありがと。先攻部隊っていう大変な役割を押し付けちゃってごめんね。家事も器用にこなすし、分け隔てなく誰とでも仲良くしてくれて助かった。ありがと」
「ま、待って、何言ってるの……?」
佑は答えることなく、恵の手に紹介状を握らせた。
次は、冬馬の前に立った。
「冬馬。いつもゲームの相手してくれてありがと。俺、めっちゃ弱いのに手加減せずに真正面から倒しに来てくれて、正直、全然勝てなくて悔しかったけど、本気で戦ってくれたのはすごく嬉しかった」
佑は冬馬に紹介状を渡した。
「南奈──」
「嫌ッ!」
南奈は逃げるようにして冬馬の後ろに隠れた。
「南奈」
「やだっ! なんで解散すんの! わけ分かんない!」
佑は「……ごめんな」と言って南奈に手を伸ばした。
南奈はその手を振り払う。
「……佑さん、なんで急に、解散なんて」
夜雲が動揺しながら聞くと、佑は口を開いた。
「こんなことになっちゃったし、もう、俺一人じゃどうにもできない」
背中を丸めた佑は一回りも二回りも小さく見えた。まるで一人で抱え込んだものに押しつぶされているかのように。
「一人って……頼ってよ、佑。ちゃんと話して。私、聞いたよね? 悩みごとはないかって。なんで言ってくれなかったの?」
恵の言葉に「俺、リーダーだから、ほら、弱いところとか見せたら駄目かなって」と寂しそうに笑って見せた。
「ねえ、解散しないでよ。もう一回頑張ろ。私も話聞くし、みんなで──」
「ごめん、もう、無理なんだ。限界なんだよ。最近ね、ずっと嫌な夢見るし、背中も痛くて」
「背中……?」
佑は混乱するメンバーに見せるように、上着を脱いで後ろを向いた。
息を呑むような気配がしたが、佑は続けた。
「父さんがね、政治家だったんだ。選挙に出るはずだったんだけど、殺されちゃった。母さんも姉さんも殺されて、俺だけが生き残った。父さんを殺したのはライバルだった政治家。顔も名前も知ってるのに、捕まらなかった」
ごめんね、変なもの見せちゃって、と言って、佑は上着を着た。
「最近、これがすごく痛くなるの。ずきずきして、どうしようもないくらい。医者に診せたら、精神的なものだろうって言われた。ストレスがかかってるんだって。家族が殺された場面を繰り返し夢に見るのも、ストレスのせいみたい」
ごめんね、ともう一度言った。
「もう、俺にはリーダーを務める気力、なくなっちゃった。ごめん」
そう言って頭を下げた佑は、小さく震えていた。
「ごめん……」
震える声でそう言われ、誰も、何も言えなかった。
「南奈」
顔を上げた佑は、南奈に紹介状を渡す。
「一緒にいてやれなくてごめんな」
頭を撫でると、南奈は泣き出した。
「ごめん……ごめん……」
佑も泣きながら、頭をぐしゃぐしゃにした。
「やだ……リーダーがいないとやだ……」
南奈は佑にしがみつくように抱き着いた。
「家族だって言ったじゃん……佑は家族を見捨てるの……!?」
そう言いながら、南奈の目からは涙が溢れてくる。
「大切に、したいから、離れなきゃいけないんだ」
佑は南奈を抱き寄せるようにして「本当にごめんな」と謝った。
「添華」
佑は泣きじゃくる南奈の元から離れると、添華に手紙を渡した。
「最後に入って、大変だったと思う。熱があるのに、急に仕事に誘ってごめん。添華がいたから、南奈のことも、ちゃんと終わらせることができた。誰にでも優しくて、意外と勇気もあるから、どこでもやっていけると思う」
添華は呆然としたまま手紙を受け取った。
「……航」
一人、睨むように佑を見ていた航。
佑が手紙を差し出すと、それを振り落とした。
「……航」
「俺は受け取らねえ。お前のわがままにはこれまで散々付き合って来たけど、今回は付き合えねえ」
「ごめん、航」
「なんで相談しなかったんだ」
「もう……これ以上、迷惑かけたくなかった」
「今だって十分迷惑だ」
佑は黙った。航はそれを見下ろすようにして睨んでいる。
「……最後のわがままだと言ったら、聞いてくれる?」
「聞かねえ」
「……どうしよう」
「どうしようじゃねえよ。発言を取り消せ。解散を取り消せ」
佑は弱々しく笑って「航は変わらないな」と言った。
「ごめんね、航」
そう言うと、床に落ちた紹介状を拾い上げて、航のすぐそばの机の上に置いた。
「みんな、今までありがと。急なことでごめんだけど、みんなは、どこに行ってもやっていけると思う。俺のことは、忘れていい。不甲斐ないリーダーでごめん」
ありがとう、と言って、佑は仮拠点を出て行った。
「どうしよぉ……」
南奈は泣きながら恵にしがみついた。
夜の闇が、街を包み始めた。
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