第101話 信仰国の首都にやってきました。
アンバルワーク信仰国はラオデール六賢国の西、ノウルクレート王国の北に位置する大陸にあった。
船もラオデール六賢国から出ていたため、大陸を渡ることも問題なかった。
といっても距離はそこそこあるうえに、魔力船じゃなかったからな。船旅だけで2週間以上は続いた。
「つか結局リュインも来るのか」
「しょうがないでしょ! あんまりきたくなかったけど……このチームのリーダーとして、マグナたちを放っておけないし」
「本気で言っているんだろうなぁ……」
国土の7割が砂漠であり、昼と夜で寒暖差が激しい。だが日中の暑さは、不快感のあるものではなかった。魔獣大陸と似ているかな。
ちなみに俺とリュインは服を新調していた。
俺は冒険者チックの服装をより通気性を高めたものに変わっている。見た目はディルバラン聖竜国にいたときとあまり変わっていない。
リュインは完全に夏服仕様になっていた。へそ出しのスタイルで、どこかチアガールを思わせる。これもリリアベル製だ。また髪をツインテールにまとめていた。
アハトは変わらず騎士服スタイルだ。髪も後頭部でまとめており、とても凛々しい。
「つか今さらだけどよ。大国って、各大陸に1つなんだな」
『そのようだ。その大陸を代表する国という位置づけでもあるのだろう』
各大陸に1つの大国といくつかの小国がある……というイメージだろうか。ラオデール六賢国のある大陸はもともと小さいし、一国しか存在していないみたいだけど。
だが魔獣大陸から運ばれてくる魔獣資源は、大国に買い取り優先権がある。小国は大国から買い取るしかないし、逆らうことなんてできなさそうだな……。
港町についた俺たちは、アンバルワーク信仰国の首都を目指す。この国の首都は〈聖都リスタリス〉というらしい。
港町では〈ウェルボード〉のレンタルも行われていたが、魔力がないので全力ダッシュで向かった。そして今、聖都リスタリスに到着したところだ。
「おお! けっこう栄えてんじゃないの!」
「〈フェルン〉も多いですね」
ラオデール六賢国ほどではないが、高い建物はそれほど多くはなかった。風が吹くたびに砂塵が舞う。だが不思議と不快感はない。
砂漠にある国だと聞いていたから、もっと砂まみれになると思ったんだが。聖都近郊は緑も多く、砂漠の中にある自然公園という印象だった。
『おいリュイン。この都市のことをおおよそでいいから説明しろ』
「ふっふふん。任せなさいっ! ここはオアシスのほとりに作られた都市なんだけど。王様のいる大神殿と、四つの神殿があるのよ!」
「ふんふん」
いつもどおりのざっくりな説明がはじまる。
四つの神殿はそれぞれ四大精霊を奉っているらしい。王は聖王と呼ばれ、大神殿長として四つの神殿をまとめる立場だそうだ。
『神殿には自由に立ち入れるのか?』
「入れるわよ。よくいろんな人が訪ねているもの。えーと、なんだっけ……ゴリヤクがどうのとか……」
「ご利益ね……」
しかしこの国の人種……褐色肌の人が多いんだな……。
なんとなくメイフォンを思い出す。彼女はもしかしたら、この国の出身なのかもしれないな。
それに勇角族が多いように見える。だが白精族はまったく見かけないな。それぞれの国で種族比率がちがうというのもおもしろい。
「とりあえず神殿に行ってみるか? 精霊についてなにかわかるかもしれねぇし」
『ああ。どこからでもいい、適当に行ってみろ』
「あいよ」
道行く人に神殿までの道をたずねながら、通りを歩く。正面に見えてきたのは風の神殿だった。
「うげ……」
「なんだリュイン。……というかお前、風のフェルンなんだよな? もしかしてここ、来たことあるのか?」
「あ……あるわよ……」
「なら案内してくれよ」
「むぅ~~……しょうがないわね……」
神殿の敷地内に入り、リュインの案内についていく。するとどこかからか歓声が聞こえてきた。
「ん……? なんか騒がしくないか……?」
「きっと風の大精霊に歌と踊りを奉納しているのよ」
「歌と踊りを……奉納……?」
「こっちよ」
リュインは神殿の中には入らず、そのまま敷地内を回るように進む。すると歓声の源が見えてきた。
「え……!?」
「ほう……」
いやぁ……我が目を疑ったね。正面にはどう見ても特設のステージがあったのだ。
そのステージの上で8人の少女たちが踊りながら歌っている。その後ろで10人の少女が楽器を奏でていた。
これは……ま、まさか……。いや、でもどう見ても……。
「ライブやん!?」
そう。目の前で行われているのはライブだった。
ステージで踊っている少女たちは全員すごくかわいい。薄着で肌の露出も多いし、衣服にはひらひらの布がついていて動きをダイナミックに見せてくれる。
歌もかわいらしいし、ダンスもキレキレだ。楽器は……弦楽器と打楽器が中心で、帝国で聞いていた音楽とはぜんぜんちがう。
なんというか……そう。
信者たちはステージで踊る少女たちに声援を送っていた。男ばかりだ……たぶんあのグループのファンなんだろう。
「感動だ……! この星でアイドルのライブが見られるなんて……!」
『あくまで四大精霊へ奉納しているだけだろう。リュイン。他の神殿でも同様の奉納が行われているのか?』
「んー、どうなんだろー。他の神殿は行ったことないしぃ。でも風の大精霊は歌と踊り好きって言われてるから。他の神殿だとやってないんじゃない?」
「だれに言われているんだ……」
予想外のものが見られたが、おかげで俺は一気にこの国のことが好きになった。
いいね……! さっそく推しを作ろうかな……!
「ねー。もういいでしょ。はやく行こうよー」
「も……もうすこし……」
『まぁこれからも見られる機会があるだろう。定期的に行われているみたいだからな。今は神殿の中を確認したい』
まだまだライブステージを見ていたかったが、いったんその場を離れる。次は最前列で見たいものだぜ……!
「こっちよ」
リュインにつれられて、神殿内へと足を踏み入れる。中には俺たち以外の人も多かった。
「みんなお祈りに来ている人なのか?」
「そうじゃない? ほら……あそこ」
「うぉ……」
神殿の奥に進むと、途中で柵があって先に進めないようになっていた。柵の奥には法衣を着た人たちがいる。おそらく一般人が入れるのはここまでなのだろう。
その柵の向こうには大きなクリスタルがあった。地面からまっすぐ伸びている。
「なんだ……あれ……」
「すっごい風の精霊が宿っているのよ」
「すっごい風の精霊って……あれか。風の四大精霊のことか?」
「ううん、ちがうわ。四大精霊がどこにいるのかなんて、だれも知らないもの。あそこに宿っているのはまた別の精霊よ」
ん……? どういう意味だ……? というか、わけがわからない部分がいくつかあった。
「なぁリュイン。四大精霊ってどこにいるのかわからないのか? 聖地にいるんじゃないの?」
「さぁ……? すくなくともわたしは聞いたことはあっても、見たことはないわ。人間たちもそうじゃないかしら?」
この世界で初めに精霊化を果たした存在。地水火風の四大精霊。だがこれを実際に見たものはいないらしい。
「それじゃ……あそこに宿っているっていう精霊は? たしか自然現象をつかさどる精霊は契約することで、貴石にその力を宿らせられるという話だったけど……だれか契約しているのか?」
「そうじゃない? んーと……各神殿のクリスタルに宿る精霊は、すっごい騎士が契約をしているとか……そんな感じだったと思うわ」
うーん……いつもどおりざっくり大味な説明で、詳細な部分までは理解できなかったな。
エルヴィットやメルナキアに聞いたら、なにか知っていただろうか……。
「つか今の話だと、他の神殿にもあんなでっかいクリスタルがあんのか……」
「やっぱり! リュインじゃない!」
「え……!?」
前方のクリスタルに関心を向けていると、真後ろから甲高い女の子の声が聞こえてきた。振り向くと、そこにはへそ出し薄着の少女が立っている。
褐色の肌に濃い金髪、どこか生意気そうな目。金髪はツインテールにまとめており、その少女にとてもよく似合っていた。
「んげ……」
どうやらリュインと知り合いらしい。彼女は俺たちの前まで歩いてくる。
「あれれれ~? どうしたのかな~? 四聖剣を見つけるまで、ここには帰らないんじゃなかったのぉ~?」
「うう、うるさい! ここに寄ったのはたまたまよ! たまたま! 仲間を案内しにきたの!」
「ふぅ~~ん……? え……てかすご……。こんな美人、初めて見たんですけど……」
その子はアハトの美貌に驚いていた。まぁこれもいつもどおりの反応だ。
というか。この子、さっきステージで踊っていた子の1人だな。
リュインはさっさとあの場を離れたがっていたし……この子に見つかりたくなかったのかもしれない。
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