第98話 久しぶりの王都でトラブりました。

 久しぶりに王都に来たが、なんかいろいろ大変だった。そもそもシグニールから王都へ転移ができなくなっていたのだ。


『設置した転移装置になにか問題が起こったのだろう』


「まじか……」


 仕方ないので、まずは森の外へと転移する。そこから猛ダッシュで王都を目指し、そして転移装置を設置した南西部へと向かった。


 そしたらそこにあったはずの転移装置がなかったのだ。これにはさすがに焦ってしまった。


『なるほど……だれかが発見し、どこかへ移動させたようだな。周辺の土を見るに、固定具ごと掘りだしたのだろう』


 転移装置は基本的に一度設置すると、そこから動かすことができない。


 座標を固定することで安定した転移ができるのであって、最初に設定した座標から外れてしまうとうまく機能しなくなるのだ。


「だれかが持っていったってことか。あんまり目立たない場所だと思ったんだけどなー……」


『都市部である以上、だれかに発見される可能性は常にある。だが王都内であれば、今どこにあるか探るのは容易だ』


「お、さすが」


 視界の右下に簡略化された地図が映し出される。さらに転移装置のある場所までを案内するルートガイドも現れた。


「うん……? 地下道か……?」


『そうなるな。転移装置をどうにかできると思わないが……バラされても面倒だ。さっさと回収しに行くぞ』


「へーい」


 そんなこんなで、俺は地下道を迷わず進む。そして謎の地下闘技場に到着したのだ。


 ここでハルトをボコってた甲冑精霊を倒し、今に至るというわけなのだが……。


「あったあった」


 転移装置は闘技場近くの部屋に置いてあった。たぶん闇組織の者が発見し、そのまま回収したのだろう。


 おそらく転移装置を設置した場所付近は、地下闘技場に続く入口の1つとして通りかかる人がいたのだ。


『ふむ……故障はしていないようだな。これなら再度設置すれば、また使用できるようになるだろう』


「それじゃさっさと設置場所を探すか。いつまでも持っていても、じゃまになるだけだし」


 組み立てを終えた転移装置はそこそこでかい。持ち運ぶのも面倒なのだ。


「ハルト。そっちは終わったか?」


「ああ」


 闘技場に戻ると、残っているのはハルトだけだった。つるされていた少女を助けにいったのだが、彼女を下ろして先に助けている女性がいたのだ。


 その女性は少女を助け出すために、秘密裏に地下闘技場に入り込んだエージェントだったらしい。


 なかなか少女を救い出せるタイミングがなかったが、ここで俺が乱入してきたことで、うまく救出ができたと礼を述べていた。


 2人の姿が見えないところをみるに、さっさとこの場を立ち去ったのだろう。


「囚われの少女と、それを助けるために潜入したエージェントか……。あの子、よっぽどのVIPなのかね?」


「この国の第二王子、その妹だという話だが……」


「え、まじ?」


 超VIPじゃん! もうすこし恩着せがましい態度をとってりゃよかった……!


「この国の王族って、獣人族なんだっけ。そういやあの子も獣人族だったな」


「ああ……」


 しかしハルトの奴。ボロボロだな。


「ケガはだいじょうぶなのか?」


「この程度、なんてことはない。それよりマグナ。助かった……礼を言う」


「いいって。で……結局なにがあったんだ?」


 ハルトはここで戦っていた経緯を教えてくれた。どうやら俺たちが魔獣大陸に行った後、組織抗争が激化していたらしい。


 そこでなんやかんやしているうちに、ギルンの組織はいくつもの組織を吸収し、〈剣狼会〉として再編された。


 で、〈フェルン〉を求めている闇組織が本格的に絡んできたと。


「1人で5人抜きの闇試合か……」


「俺もまだまだだな。自分の腕にうぬぼれていたよ」


「うぬぼれというか……まぁ精霊相手なら対処法も限られるし、仕方ねぇだろ」


 俺もフォトンブレイドがなかったら、グナ剣で殴り続けるしかないし。


 精霊化した甲冑と戦ったのは初めてだったが、フォトンブレイドで問題なく斬れると証明された。アンバルワーク六賢国で精霊に絡まれても、なんとかなりそうだ。


「あの光の刃……すさまじかったな。まさか高位精霊をああもあっさり斬れるとは思わなかった」


 そういうとハルトはバラバラになった甲冑に視線を向ける。


「あんまり人に話すなよ」


「わかっている」


 なにがなんでもぜったいに隠す! ……というわけでもないのだが。


 精霊を簡単に斬れる道具を持っていますなんて話が広まったら、いろいろ興味を示すやつらが出てくるだろうしな。


「ああ、そうそう。ハルトに話したいことがあったんだ」


「なんだ……?」


「じつはディルバラン聖竜国で玖聖会とやりあってよ。クロメにもあったぜ」


「………………!! な……! そ……それで……!?」


 やはりクロメはハルトの妹だったか。俺は聖竜国であったことをハルトに聞かせていく。


「そうか……アハト殿が……!」


「ああ。ダメージを負ったクロメは、そのまま俺が戦っていた男の側に転移してきたってわけだ」


「さすがだ……! アハト殿は? 一緒には来ていないのか……?」


「あいつはお留守番だ。つかなんでアハトだけ殿付けなんだよ……?」


 出口を目指して歩き始める。ハルトは俺の持つ転移装置にチラチラと視線を向けてきていたが、聞いてくることはなかった。


『おい。剣狼会から有用そうな魔道具を回収しろ』


 どうやら組織が大きくなっても、リリアベルから見れば財布なのは変わらないらしい。


「なぁハルト。お前、俺に助けてもらった恩があるよな?」


「……ああ」


「魔道具、くれよ。あと珍しい貴石とかあったら、それもくれ。今いろいろ集めているところでよ」


「わかった。ギルンに話を通しておく」


 お……あっさり通ったな。

 ハルトと会話を続けているうちに、地下道を抜けて外へと出る。空はすっかり暗くなっていた。


「それじゃ明日にでもよらせてもらうわ。……そういや屋敷の場所も変わったんだっけ?」


「ああ。今は貴族街の近くになる。今日は部屋を用意するから、屋敷に泊まっていったらどうだ?」


「あー……いや、こっちはこっちでやることあるからよ」


「そうか……。では明日、迎えを送ろう。待ち合わせ場所は……」


 打ち合わせを終えると、ハルトは去っていった。ケガだいじょうぶかね……。


「とりあえず転移装置を設置しなおそう。どこがいいかな……」


 設置してもすぐに使えないのが面倒なところなんだよな。今日は適当に宿でも取るか。


 このあと、転移装置を置く場所探しにかなりの時間がかかってしまった。そして次の日。ギルンとハルトから魔道具や貴石をもらう。


 ハルトからは次に玖聖会と戦うときには協力させてくれと言われたが、腕を上げたらなと答えておいた。

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