第70話 新しい大陸で語りたガールと出会いました。

「さ……! さむ~~~~~~い!!」


 事前にエルヴィットからラデオール六賢国への行き方を聞いていたため、俺たちは順調な旅路を歩んでいた。


 まずは聖竜国の港町〈カルオナーク〉へと移動する。むかし観光に訪れた町だな。ここからラデオール六賢国に行けるのだ。


 ラデオール六賢国はこことはべつの大陸にある。位置的にはディルバラン聖竜国のある大陸から北西にあたる。


 距離もかなりあるため、魔力船でもそれなりの日数がかかってしまった。ちなみに船賃は1人50万エルクだ。高い……。


 普通の船ならもっと安くできたのだが、まぁ金には困っていないしな。それにリリアベルがさっさと行ってほしそうだったから、今回は魔力船での移動を取った。


 そして港町についたのだが……この時点でちょっと肌寒かった。俺もアハトもリュインも、今はそれなりに厚着をしている。


「えぇと……ここから首都までがかなり距離あるらしいな……」


「乗り合い馬車で1週間ほどでしたか」


 そう。大図書館のある首都へ行くには、陸路でさらに北上しなければならないのだ。


 北に視線を向けると、雄大な山々が見える。すべての山に雪がかかっており、見ているだけで寒さが増してくる。


『首都リヴディンはあの山のふもとにあるのだったか』


「ああ。山のふもとといっても、北上するほど高度は上がっているみたいだし。ここからさらに寒くなるだろうな……」


「いや~~~~!! なんで! そんな! 不便な! 場所に! 首都なんか作ったのよっ!」


 リュインが全力で抗議している。つか〈フェルン〉って寒さに弱いのか……。


「フ……フフ……」


「っ!?」


 となりから笑い声が聞こえ、思わず視線を向ける。そこには銀髪の少女が立っていた。


 い、いつの間に……!? ぜんぜん気づかなかった……!


 少女は顔を下に向けながら、俺たちに話しかけてくる。


「そ……そこの、〈フェルン〉……。い、いま……どうして首都が山奥にあるのか、し……知りたがって、いました……よね……?」


「え……?」


「フフフ……か……語って……いいですか……?」


「あ……ああ……。首都の場所についてか。まぁ……」


 ここで少女は顔をガバッと上げる。おお……うれしそうな顔をしてんな。そんなに語りたかったのか……。


 その少女は左目が前髪で隠れていた。後ろ髪は雑にまとめており、すこしボサついている。そんな少女は緑の目を俺たちに向けていた。


 よく見ると肌は真っ白で、耳は長い。これは……白精族の特徴か。


「コホン……で、では。そもそもラデオール六賢国はその来歴を紐解くと白精族が興した王国に由来するのですがこの時町の建設において時の王があその時はまだ族長という立場だったのですがとにかく彼が重要視したのが都市としての堅牢さでしたそもそも時代背景からしてこの時代は戦争が絶えず起こっており2000年前もこの地はかなりの激戦区になったと伝えられていますそこで王はまず攻め込まれにくい地形というのを重要視しました寒い土地で作物が育つのかといった問題は当時の王が様々な魔道具を研究しこれがのちの学問の発展へとつながるのですが不毛の地と思われていた土地は魔力を肥料に変える魔道具の発明で肥沃な大地へと生まれ変わったのですこうなると周辺の土地はばかみたいに空いておりましたのでこれが一変して恵まれた土地へと」


「…………………………………」


「その後も~~~~~~~~~~~~~~そして時代が下ると~~~~~~~~~~~~~~~~~~またこの地は魔獣災害もなく~~~~~~~~~~~~~~~~……」


 ………………はっ!? お、俺はいったい……ここでなにを……!? なんて演技をしながら話が終わるのを待つ。


 いや口調はやっ! あとなげぇよ! どんだけ話すねん! 


 こんなにしゃべるんなら前もって言っておいてくれよ! そういや許可求めてきてたわ! 久しぶりに軍学校の授業を思い出したわ! 帝国の方のな!


「~~~~~~~……というわけなのです」


『なるほど……なかなか興味深い話だった。人の集うところに歴史あり、か』


 リリアベルさんは完全に理解したらしい。まぁ当然か。


 アハトはさすがに、こういう方面には興味ないんじゃないかな……。そう思ってチラリと視線を向ける。


「つまりもともと魔獣もよりつかないやせこけた土地だったのが、白精族の王が作った魔道具によって、豊かな土地になったのですね。こうなるとこれまで開発されていなかった大地がまるまる実りある地になる。外敵もおらず、寒さに耐えれば人は豊かに暮らしていける……と」


「…………!」


 しっかり話を理解している……!?


 ま、まぁアハトも俺とは頭の作りがちがうし! 帝国製の最新鋭戦闘用アンドロイドだし! これくらいは当然だよね!


「だってよ、リュイン! お前、ちゃんと理解できたのか~?」


 からかうようにリュインに言葉をかける。すると彼女はうんうんとうなずいていた。


「豊かな土地を目指して、山奥に人が集いだしたことで、白精族の長は正式に王として国を興したのね! でも港は凍らない場所に作る必要があったから、首都から離れた場所に建造されたと……。なるほど~! だからここから首都までは遠いのね!」


「………………っ!!?」


 え……り、理解……してらっしゃる……!? いまのこの子の話を……!? 


 ま……まさか……。理解できていなかったのって……お……おれ、だけ……!?


「リュイン……! お、お前だけは……! お前だけは俺を裏切らないと信じていたのに……っ!」


「急になんの話よ!?」


『……やれやれ』


 くそぅ……! その小さな頭でしっかり理解していたのかよ……!


「す……すみません。わたし……知っていることはついつい話したくなる性格……でして……」


「いえ。たいへん勉強になりました。申し遅れました、わたしはアハト。先人の知恵を学びたく、首都にあるという大図書館を目指してこの国にやってきたものです」


「リーダーのリュインよ!」


「……マグナだ」


 つか今回のアハトはなにキャラなんだ……。毎回ロールプレイを変えやがって……。


「あ……わ、わたしは、メルナキアと言います……。その……めずらしいですね。〈フェルン〉がこんなに人になついているなんて……。…………? あ、でもリーダーだから……みなさんがリュインさんの仲間……?」


「そこは本気にしなくていいよ~」


 メルナキアは海水調査を行うためにここにいたらしい。それもひと段落ついたので、首都に帰ろうとしていたそうだ。だがここで重大な問題が起こる。


「財布を……なくした?」


「そ、そうなんです……。も、もしかしたら、すられたのかも、しれないんですけど……。わ……わたし……ドジだから……」


「それで乗り合い馬車に乗るお金もなく、途方に暮れていたと……」


「はい……」


 なるほどね……。どうしようかと悩んでいると、人と一緒にいる〈フェルン〉を見かけたから、ついつい近寄ってきたらしい。


 そこでリュインの疑問を聞き、話したくてうずうずしていたそうだ。


「あ……あの……。首都についたら、お金はお返ししますので……。の……乗り合い馬車のお金……貸して、いただけませんか……? あ、も、もちろん、首都の案内もできます! はじめて、なんですよね……? どど、どうでしょうか……」


 そうか……この子、首都に住んでいるのか。見知らぬ土地だし、いろいろ話を聞けるのはわるくないかもしれない。大図書館の場所もわからないしな。


(でもなぁ……馬車で7日はいくらなんでも遠いよなぁ……)


 たぶん俺とアハトが走れば、2日目には到着できる。魔獣もいないなら余裕だろう。


「すすす、すみません……やっぱり、いや……ですよね……。見知らぬ女に……お金なんて……」


「それくらい構わないわ! わたしたち、たっくさんお金持っているもの!」


「え……」


「ね、マグナ! いいでしょ!? せっかくいろいろ教えてくれたのにさ! この子、このままだと身売りしないとお金作れないよ」


「身売り!?」


 メルナキアが驚いた表情で目を見開く。見えているのは右目だけだけど。


「……まぁいいか。それじゃたまには馬車でゆっくりと行くか」


「おや……てっきりメルナキアを抱いて走るかと思ったのですが」


「走る!?」


「あー、それでもいいんだけどよ。寒くなるし、たぶんメルナキアの体感温度がえらいことになるんじゃないかと思ってよ……」


 ほとんど休まず、すんごい速さで走り続けるからな。いくら防寒着を着ていて身体を動かさないにしても、体力を消耗するだろう。


 それにノウルクレート王国に魔獣大陸、聖竜国ときて、さすがに土地によって習慣や文化がちがうというのは学んだ。


 首都につく前に、この国の話を教えてもらうのもわるくないと思ったのだ。


 ……教え方はともかく、知っていることは話したくてたまらないみたいだし。


(なつかしいな……今では物理的にも絶縁関係にあるが。妹も昔はこんな感じだったんだよなぁ……)


 まぁあいつがかわいかったのは本当に幼少のときだけだが。


 そんなわけで、俺たちは乗り合い馬車でのんびりと首都リヴディンを目指すことになった。

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