第69話 リリアベル・レポート 3

 わたしの名はリリアベル。ディルバラン聖竜国での活動が一区切りついたので、ここらでまた情報をまとめておこうと思う。


【ディルバラン聖竜国】

 五大大国の中で最も歴史のある国だ。建物もふるくさ……伝統的なものが多い。


 身分制度が厳格であり、貴族と平民で血が混じることはすくない。そのため魔力持ちも貴族に集中しているようだ。


 国王は〈聖竜公〉と呼ばれており、王を支える竜公家がいくつか存在している。それらの当主はいずれも竜魔族が務めている。


 竜魔族の見た目は人種とそう変わらないな。瞳の色がそれぞれ青かったり赤かったりとはしているが。シグニールの機器を用いれば、もうすこし詳細なデータが得られるのだがな。


 貴族間でも上下関係は強く、血統もコントロールされてきている。そのため高位貴族ほど強い魔力を有している傾向が強いようだ。


 かつては大国の中でも頭一つ抜けていた時代もあったようだが。だんだん他の国に追いつかれつつあるようだ。



■カイネスラーク・アルドブルー

 〈青竜公〉として知られる、竜公家の当主だ。二大派閥の一つを率いている。わたしは計測できないが、相当強い魔力を有しているのだろう。


 すこし話したくらいだが、話は通じそうなタイプに思えたな。どうやらマグナたちをうまく利用したいようだが。


 それに見合う餌は用意しているところを見るに、やはり人の使い方をよく心得ているのだろう。



■エルヴィット・アルドブルー

 カイネスラークの娘だな。軍学校に通っており、そこの〈魔戦科〉に所属しているようだ。


 薄緑の髪に青い瞳が特徴的で、いつもニコニコとしている。身長は148センチ、胸のサイズはEだ。


 竜魔族の血を引いているからかはわからないが、世にも珍しい〈星〉属性の魔力を有している。力を発動させると、妖精めいた姿に変身して樹木を操れるようだが……詳細は不明だ。


 だが変身後の姿は、仮に人が精霊化すればこうなるのかも……と思わせるものだった。


 マグナにはすこし思わせぶりな態度を見せている。おかげで単純なマグナはうまいこと利用されているな。



■グアゼルト・アルドブルー

 エルヴィットの弟だな。カイネスラークの正妻の子であり、次期青竜公と目されている少年だ。こちらもエルヴィット同様、青い瞳を持っている。


 竜魔族としての力を持っているらしいが、事件当時はその片鱗を見ることができなかった。それどころかガイヤンに蹴飛ばされ、目の前でエルヴィットがさらわれていたな。


 さらに筋肉の怪物が人を殺し、また怪物が首筋を斬られて血を吹き出すシーンも目撃している。高確率でトラウマになっているだろう。



■ロンドベルン・ガルムレッド

 〈赤竜公〉の第三夫人、その子にあたる。赤い瞳に赤い髪をしており、後ろでくくっているな。顔立ちは整っている方だろう。


 普段は身分を隠して下町で遊び歩いている。そのありあまる資金力と魔力の強さから、アウトローな連中とも繋がりがあった。


 中には賞金首もいたが、アハトによって知り合いの賞金首が星となった。


 その時の縁がきっかけでアハトは一時的にロンドベルンの護衛となったわけだ。面白そうなイベントに首を突っ込むアハトの習性を見事に利用したと言えるだろう。


 ちなみに評判はかなりわるく、赤竜公も手を焼いているとか。



■レンベルト・リキアパープル

 〈紫竜公〉として知られる人物だ。高齢だが覇気があるらしい。かつては他国との戦争や外交の場において、大活躍を見せた。


 聖竜国が強国として存続できているのは自分の働きが大きいと思っている。


 その時代は軍閥貴族も強く、レンベルト自身も派閥を形成していたらしい。


 だが魔獣大陸における取り決めが大国間で交わされ、武力衝突がなくなってからというもの、青竜公と赤竜公が派閥を形成して頭角を現しはじめた。


 彼から見ると、今の聖竜国はかつてみた国とちがう存在に思えるのだろう。また自分が大国間でも強い地位を作り上げたのに、今の政治方針ではそれが瓦解すると危機感を抱いている。


 事件の首謀者と目されておるが……二大派閥のやり方とレンベルトの考え。聖竜国にとってどちらが正しいのかは結論が出ないところだろう。



■アバンクス・ライトルド

 普人種の下級貴族だ。しかし魔晶核を買い取ってマグナを雇いはじめたところから人生の転機が訪れた。


 魔晶核を献上して上への印象をよくし、またマグナを軍学校〈セルビアン〉の教官補佐にすることもできた。


 派閥内では平民を見る目があるという評価を受けている。仕事はそこそこできる方だが、バリバリできるタイプではない。愛妻家だが、その妻は娘のためにもちゃんと働けと思っている。


 派閥内で多少の存在感を出せ、城勤めにもなった。まだまだ上を見て階段を駆け上がっている最中だ。



【軍学校〈セルビアン〉】

 聖竜国では軍人の地位がそこそこ高い。一種のステータスでもある。軍学校はそのブランド性を高めると同時に、将来有望な軍人を育てる場となっている。


 だが入れるのは貴族か、聖竜国の市民権を持つ平民のみ。その平民も多額の授業料を支払う必要があるため、入学できる者はかなり限られてくる。


 また貴族も含め、入学には筆記や実技のテストが行われる。形だけの軍学校ではなく、生徒もまじめな者が多い。



■ダイクス

 軍学校内で剣術の成績トップの実力者。だが女生徒や教官に対し、度重なるセクハラを繰り返していた。


 どうやら魔獣狩りの実習から帰還して以降、性格が横暴になったそうだ。エルヴィットの話によると、暗殺者が彼に化けていたらしい。


 親が赤竜公派閥であり、グアゼルトの誕生日パーティーでテロを起こそうと画策していた。が、マグナによって阻止される。


 その後は体が膨張し、筋肉が異常発達を起こした。さらに強力な魔力も有し、身体能力が跳ね上がっていた。



■ブルバス

 元教官。今はアバンクスへの恨みを募らせている。



■ルアメリア

 ブルバスの後任であり、騎士団から出向してきている。いいところの家の出らしい。


 まじめな性格をしており、横柄な態度をとっているダイクスを指導しようとしたが、彼には一度も勝てなかった。以降、ダイクスからのセクハラに耐え続けていたらしい。



■ブレン

 〈普通科〉に所属する平民の生徒だ。〈普通科〉生徒の中では一番筋がいいのではないかな。


 マグナのことを師だと認識している。この点だけ見れば悪趣味だな。いや、純粋と言うべきか。



【魔晶核】

 魔力を持つ魔獣から採取できる魔獣素材。今回はいろいろ明かになった。どうやら魔晶核には〈エーテル〉という成分が含有しているらしい。


 〈エーテル〉には火や風、光や雷など、さまざまな種類があるのだとか。またその大きさと色の濃さで、おおよその品質やどういった〈エーテル〉が含有しているのかを測ることができる。


 詳細な計測は専用の機器が必要になるが、どうやら高純度かつ複数の〈エーテル〉が含有しているほど価値が高いようだ。


 魔道具作成にはこれらの〈エーテル〉を絶妙なバランスでかけ合わせ、作りたい魔道具に沿って調合を繰り返すのだとか。


 ううむ……わたしが一番研究したいのがこのあたりになるのだが……。魔力がなければ満足に行えないというのが惜しい限りだ。


 これに関して実は今、秘密裏に新たな研究を続けている。だがこれには数多くの魔晶核や魔獣素材が必要になる。


 まだまだ完成は遠そうだが……大図書館で参考になる文献など漁れることを期待している。



【暗殺組織〈アドヴィック〉】

 知る人ぞ知る暗殺組織らしい。規模や実態は不明だ。今は玖聖会に取り込まれているようだが……実質的な実行部隊となっているのだろう。



【玖聖会】

 ついに接触を果たした謎の組織。ハルトいわく、その目的は魔人王の封印を解くことらしいが……。詳細は不明だ。



■ガイヤン

 玖聖会の一員である勇角族の男だ。レッド同様にガタイがいい。素手での戦いはマグナが圧倒していたが、左腕を精霊化して見せた。


 その際になにかの文様が背後で輝いておったな。怪物化した左腕といい、無関係ではあるまい。幸いフォトンブレイドであっさりとかたをつけることができた。



■クロメ

 見た目は10代前半の黒髪少女。ハルトと同じくカタナを持っているが、その刀身は白く陶器めいていた。身長は145センチだ。


 怪物と化したダイクスたちの後始末に登場。アハトとも交戦したが、さすがに適わなかった。どうやら転移能力を有しておるようだが……どういう原理なのか、非常に気になるところだ。




 ひとまずこんなところか。次の目的地はラデオール六賢国。議会が選出した6人の賢者によって運営されている国であり、大図書館がある国だな。


 大国の中では最も研究者や研究機関が多く、学問を貴ぶ気風らしい。どのような知見が得られるのか、今からわたしも楽しみだ。

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