第67話 久しぶりにシグニールに帰ってきました。
青竜公とエルヴィット、2人と情報交換を終えた後、俺たちはアバンクスに挨拶するため顔を出した。
そして今。王都に設置した転移装置を発動させ、久しぶりにシグニールへと帰ってきていた。
「なんだかんだシグニールに戻ると安心するな……」
食材のレパートリーは乏しいが、その他機能と設備は十分にそろっているからな。実質我が家みたいなものだ。そもそも艦長だから、俺の城なんだけど。
俺たちはフロアに集まって、今後の方針を話し合っていく。
「次はラデオール六賢国よ! そこの大図書館で、四聖剣に関する情報を集めましょう!」
「俺としてはルシアの様子を見に行くのもいいと思うんだが……」
『転送装置を起動させるのもエネルギーを消耗する。どうしても様子を見に行きたいのなら、まずはお前単独で行くのだな』
前に魔獣大陸にいたとき、俺だけシグニールやノウルクレート王国の王都に行ったことがあったが。あれもエネルギーの消耗を考えてのことだった。
そのエネルギーを確保するために、シグニールの光子リアクターをリリアベルが修理しているわけだが。まだまだ望む出力は得られていないようだ。
「リリアベルたちの希望は?」
『わたしもラデオール六賢国だ。四聖剣にこだわらず、大図書館にあるという資料には目を通しておきたい』
「わたしはどこでも。また玖聖会の者に会えることを期待しましょうか」
「戦闘意欲が高くてらっしゃる……」
まぁどんなに強い敵が出てきても、本気を出したアハトには適わないだろう。その一方でもし本気を出せば、アハトの稼働寿命を削ることになる。
アハト自身、まだ起動したてのアンドロイドだし。べつに本気を出したから今すぐどうにかなる……というわけではない。
それでもメンテナンス設備が不十分なうちは、なるべく消耗を抑えさせておきたい。
俺と同じく、特殊な立場でありながら自由を得た身なんだ。この星で生きていくしかないが、どう生きていきたいのか。アハト自身の望みを見つけてほしいと願っている。
「まぁいいや。ならラデオール六賢国、そこの大図書館を目指そう。その前に俺だけ一度魔獣大陸に行ってみようかな」
『アハトを同行させない以上、あくまで様子見にとどめろよ』
「あいよ」
心配性だねぇ……。まぁわりとシャレになっていない怪物どもと戦ったし。この星にはまだまだ未知の脅威が存在しているからな。
『その前に一度これまでの情報を整理しておくか』
「聖竜国では大事件に巻き込まれたもんね!」
「お前は今回、アバンクスのとこの子供と遊んでいただけだったよな……」
べつにリュインになにか役割を求めているわけではないのだが。しかし情報の整理は俺もしておきたかった。
「たぶんクロメはハルトの妹だよな」
「でしょうね。外見の特徴と使用している武器、それに玖聖会に所属しているというガイヤンとのつながりから、そう断定できるかと」
ディルバラン聖竜国は五大大国の中でも、最も歴史がある国だ。そして国力も高い。
厳格な身分制度が敷かれ、貴族中心の政治が行われているわけだが……その中心にいるのが2つの派閥だ。
青竜公派閥と赤竜公派閥は殺人事件をきっかけにして緊張状態にあったわけだが。これには暗殺組織〈アドヴィック〉が関わっていた。
「すげぇな暗殺組織。ガチで存在してんのかよ」
「ええ。組織を壊滅させて注目されるイベントの匂いがします」
「え。これそういうイベントだったの?」
『話を進めるぞ』
知る人ぞ知る暗殺組織だが、こいつらは今、玖聖会という組織に取り込まれていた。
玖聖会の目的は各地に封じられている魔人王の封印を解くこと。そのメンバーの1人が、左腕を精霊化させたガイヤンやら、ハルトの妹であるクロメになる。
「筋肉怪物を作り出した点といい、謎の技術を持ってやがんな……」
『あれだけ特異的な能力を保有しているのだ。それをサポートする人員も多いのだろう。〈アドヴィック〉もその中の一つではないか』
エルヴィットの読みでは、二大派閥を争わせたい者が今回の事件を引き起こしたのでは……というものだった。
たしかに二大派閥は日ごろ、さまざまな権益をめぐって対立している。だが魔獣大陸や各国に対する考えなど、政治面では共通している部分もある。
それを面白く思わない者……紫竜公をはじめとする過激派思想の者も一部いるとのことだった。
どうにもエルヴィットや青竜公は、事件の背後に紫竜公がいると考えているようだ。証拠はなにもないけど。
「貴族同士のいざこざに、別の貴族がガチで仕掛けてきたわけか」
「そうなりますね。ぜひともアバンクスには、これをチャンスと捉えてがんばってほしいものです」
「ねぇねぇ! ちょっと気になったんだけど!」
下級貴族アバンクスの野望に期待していると、リュインが元気よく声をあげる。
「もし紫竜公が〈アドヴィック〉を使っていたとしたらさぁ。玖聖会はその親玉なんでしょ? どうして紫竜公に協力しているのかなぁ?」
「え……そりゃ金とか報酬をもらえるからじゃねぇの?」
「それなら〈アドヴィック〉だけでよくない? 傘下の組織に働かせておけば、お金は稼げるんだし。でも玖聖会の一員が直接関与してきたわけでしょ?」
り……リュインのくせに……! なんだかまともな指摘をしている気がする……!
『その点はわたしも気になっていた。あのガイヤンという男……おそらく最初は姿を見せる気がなかったのではないか?』
「え?」
『お前とアハトがテロを未然に防いだだろう? うまくことが運んでいれば、あのまま二つの派閥に決定的な溝ができていた』
ところがそれが不可能になってしまった。そこでどこかで見ていたガイヤンはなんらかの手段を用いて、2人を怪物に変容させた。
その混乱を突く形で、ガイヤン自らエルヴィットをさらいに来た……と。
「そういえば最初にわたしが倒した賊は警備兵に扮していましたね。もしあのまま騒動になれば、警備兵がエルヴィットと弟のグアゼルトを連れて会場を出ていたでしょう」
「で、どさくさに紛れてエルヴィットをさらう……か」
つまりガイヤンは〈アドヴィック〉の奴らが失敗したので、その尻ぬぐいを兼ねて直接現場にやってきたのか。
もしかしたらダイクスは、どちらにせよ怪物化させられていたのかもな。あわれダイクス……。
『玖聖会の目的は魔人王の封印を解くこと……もしかしたら紫竜公の成そうとしていることと、どこかで関係しているのかもしれんな』
「聖竜国に魔人王の封印の1つがあるとか?」
『さぁな。そもそも玖聖会の目的にせよ、ハルトの情報しかないのだ。他にも目的があるかもしれん』
それもそうだ。だがもしかしたら、玖聖会と紫竜公が協力し合うことでメリットがあるかもしれない……ということか。
まぁまだ紫竜公が首謀者だと決まったわけでもないし。どれも憶測の域は超えないんだけどな。
ここまで話を聞いていたアハトが無表情でうなずく。
「エルヴィットが狙われた理由も、彼女の持つ魔力と関係しているのかもしれませんね」
「ああ……それはあるな。まぁさらってどうするつもりだったのかは、まったくわかたないが」
「特殊な力を持つ、見目麗しい若い娘をさらってすることなど、一つしかないではないですか」
アハトが「そんなこともわからないのか」という空気間をバリバリに出している。
「え……?」
「無理やり孕ませてサラブレッドを作るのですよ。普人種とはいえ、希少な〈星〉属性の魔力を持つのです。父も竜魔族ですし、サラブレッドの母胎としては十分では?」
「ちょぉぉぉぉぉおい!?」
発想が野蛮すぎる……! いや、ありえるのか……!?
血統主義は帝国にもあるし。……うん、ありえるかもしれない。
『ふむ……その線もなくはないな』
「さすがはアハトね!」
「フ……」
ま、まさか……本当に……!?
くそぅ! 俺に気があるエルヴィットちゃんを、他の男に奪われてたまるか……! やっぱり俺がちゃんと守らないとな!
(でも本当に紫竜公が裏で糸を引いていた場合。エルヴィットの力についても報告を受けているだろうし……)
あらかじめエルヴィットの力を知っていたのか。それとも報告を受けるまでまったく知らなかったのか。あるいは報告を受けたことで確信を得たのか。
前提次第で変わってきそうな部分ではある。ま、やはりあれこれ考えるには情報が足りていないな。
「とりあえず半年後だな。敵がまだエルヴィットをあきらめていなければ、その時になにか動きがあるかもしれないし」
『そして実際に動きがあろうがなかろうが、報酬として輝竜石が手に入るわけだ。今もサンプル品を解析しているが……はやく報酬を得たいものだな』
それから……と、リリアベルは言葉を続ける。
『ラデオール六賢国は雪国らしいからな。新たに防寒着仕様の服を作成中だ』
「えぇ!? ねぇねぇ! もちろんわたしのもあるのよね!?」
『…………まぁそのサイズならついでで作れる。明日にはできるだろう』
「やったぁ!」
防寒着か……。アハトは必要ないだろうが、1人だけ薄着だと余計に目立つだろうしな。
そんなこんなでこの後、俺は魔獣大陸へと転移する。だがルシアファミリーとはマルセバーンの町で会うことはできなかった。
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