第64話 青竜公たちと情報を交換しました。

「え……?」


 なにを聞かれたのだろうかと考えていると、青竜公がうなずきを見せた。


「今回の事件にかかわっておった者が所属している組織だ。今後の対策を検討するうえでも、なにか知っていることがあれば教えてほしい」


 聞けば〈アドヴィック〉というのは、その筋ではすこし名の知れた暗殺組織らしい。


 どうやらそこの一員が、赤竜公派閥の貴族を殺したと目されているようだ。


(あ、暗殺組織……! すっげぇ! そんなのまでいんのかよ……!)


 アハトは無表情だが、きっと強い興味を持っていることだろう。


 だがあまり表に出てこない連中であり、実態も不明な点が多いため、直接やりあった俺たちがなにか情報をもっていないか確認をしたいとのことだった。


 しかしなるほどね……。赤竜公派閥から見れば、その暗殺者を青竜公が雇ったのではないかと考えられるわけだ。


「ん~~……これまでアドヴィックという名は聞いたことないけど……。きゅう、せいかい? これはどこかで聞いたことがあるようなないような……?」


「ハルトが話していた組織名ですね」


「え……?」


『各地にある魔人王の封印を解いているという組織だな。ハルトの妹も所属しているという』


 ………………。ああ! 思い出した……! そうだそうだ、たしかハルトのやつがそんなことを言っていた!


「ほう……知っているのか?」


「知っているというか……名前だけだけど」


「マグナさん。わたくしをさらったガイヤンという男は、玖聖会に所属していると話していたんですよ。どういった組織なのか、知っていることを教えていただけませんか……?」


 エルヴィットがかわいらしく聞いてくる。つかあの男……玖聖会の一員だったのか……。


「まぁ又聞きなんだけど。なんでも2000年前に封じられた魔人王の封印を解いている連中らしいぜ」


「魔人王の封印を……?」


「ああ。それと関係あるのかはわからねぇが……ダイクスが筋肉の怪物になっただろ? そういや俺、魔獣大陸であれと似たようなのを見たことがあったわ」


「え……!?」


 俺は青竜公とエルヴィットに筋肉の怪物について話していく。


 海賊聖女さんが出てきたとき、ルシアが2人の怪物を銀の鎖で縛っていた。そのあとに出てきたダインルードによって、消し炭になって消えたけど。


「おそらく〈アドヴィック〉の暗殺者は、ダイクスと入れ替わっていました。そして玖聖会に所属するものが、なんらかの方法で怪物へと姿を変貌させた……」


 ガイヤンはエルヴィットに対し「玖聖会はアドヴィックをまとめ上げる組織だ」と話していたらしい。


 つまり暗殺組織を丸々抱えているというわけだ。……めちゃくちゃ物騒だな!


 ここで青竜公がアハトに視線を向ける。


「怪物化した者たちを倒したのはそなただったな。すさまじい魔力を発現させていたのに、素手で押さえ込んだとか」


「フ……我が愛槍を持ち込めていれば、もっとはやく決着がついたのですが」


「平民は貴族街で武装ができんからな。……おそらくその怪物への変貌は、魔力が向上する薬物を摂取したことによる結果だろう」


 ああ……レッドが言っていたな。そんなあやしいクスリがあるとかなんとか。


 なるほど……それで体が怪物になった挙句あげく、とてつもない魔力で身体能力を強化できるようになったのか。


 しかし眉唾かと思っていた魔人王、その開放を掲げる組織とじかに接触していたとは……。


「なぁ。魔人王ってなんなんだ? 2000年前の伝説ってくらいしか知らないんだが」


 で、聖剣を持った〈フェルン〉や英雄たちによって7つに裂かれ、封印されたんだったか。ざっくりとしかしらねぇんだよなぁ……。


 俺の知っている範囲の魔人王伝説を聞いたエルヴィットはうなずきを見せる。


「そうですわね。一般的におとぎ話として語られているのは、そういうお話かと思いますわ」


「一般的に……?」


 ひっかかる言い方だ。これに答えるようにエルヴィットはニコリとほほ笑む。


「紙など記録できるものが、今よりも普及していなかった時代の出来事ですもの。ですが当時の記録を資料として保管している所もあります」


「え……」


 どうやら庶民に伝わっているのは、口伝がベースになったものらしい。しかし一部では、口伝ではなく資料として記録が残されているのだとか。


 そしてそれらは誰もが見られるというわけではない。そもそも昔は今ほど識字率も高くなく、文字を扱ったり資料を編さんできるのは、教育を受けた身分の高い者……貴族に限定されていた。


「それじゃエルヴィットは、資料に記載された内容に基づいた魔人王伝説を知っているのか?」


「詳しくはないのですが、すこしなら。こう見えて読書好きですので」


「見た目どおりだけどな」


 自称文学美女さんにも見習ってもらいたいものだ。


 ……いや、文学美女という自己紹介はあっているのか? ラノベもある意味で文学……だよな……?


 そんな疑問が深まる前に、エルヴィットは笑顔のまま言葉を続ける。


「魔人王は5人の英雄と、四大精霊の加護を受けた4人の〈フェルン〉によって、封印されたと記録されております」


「精霊の加護……?」


 2000年前、この世界には6つ目の種族……魔人族というのが存在していたらしい。魔人王とはその名のとおり、彼らを率いる存在だったようだ。


「5人の英雄とはすなわち、普人種。獣人族に白精族、勇角族と竜魔族の戦士だったと伝えられています」


 5つの種族は手を組み、4人の〈フェルン〉とともに魔人族と戦った。つまり2000前の戦いというのは、種族間抗争だったというわけだ。


 なんだかヤバそうな魔王を討伐した伝説……と聞くより、こっちのほうが信憑性があるな。


 種族間抗争というか、星人間せいじんかん抗争なんてこの銀河ではめずらしくもなんともないし。


「ん……? でもなんで対魔人族戦線なんて築かれたんだ? それに他の魔人族はどうなった?」


「さぁ……。我が国の資料にはそこまで詳細なものはございませんので」


 エルヴィットの話のおかげで魔人王伝説に対する捉え方は変わったが、詳しいことはわからずじまいか。まぁ大昔の話だし、それも仕方がない。


「ですが。おそらくラデオール六賢国には、そのあたりに関する詳細な資料も残っているのではないかと」


「え……」


 ラデオール六賢国。五大大国の中では最も魔道具発明やら魔獣、古代遺跡に関する研究が盛んだという国だ。


「昔は別の国名で王政を敷いていたのですが、今は議会が選出した6人の賢者によって統治されている国です。他国と比べると、やや特殊な統治政策を執っている国ですね」


 ラデオール六賢国には世界最大規模の大図書館があるらしい。


 途中で君主が変わって国としての歴史は一度途切れたが、王政が敷かれたままであれば、ディルバラン聖竜国と同じくらいの歴史がある国だったとか。


 つまり大昔の資料やそれを研究したレポートなんかが、今も数多く存在しているということだ。


 他国よりも研究者や研究機関も多く、学問を崇高なものだと尊ぶ気風があるらしい。


「うげ……。俺とは肌が合わなさそうだな……」


『ほう……! そのような図書館があるのか……! 一次資料の他、研究者が多いのもすばらしい。一度行ってみるべきだろう』


 こっちの研究者さんも気になるようだ。


 まぁこの世界に対する理解を深めるという意味でも、どこかで立ち寄ってみるのもわるくないだろう。


「ねぇねぇ! 四聖剣に関する記録もあるかしら!?」


「どうでしょうか。でも大図書館にはおおよその資料と記録が収められているかと思いますわ」


「ほんと!? よぉし、みんな! さっそく向かうわよ!」


「気がはえぇよ!」


 次の目的地については、また話し合いだな。このぶんだとラデオール六賢国になりそうな勢いだけど。


(とにかく情報共有のおかげで、いろいろわかったな……。暗殺組織〈アドヴィック〉に、それをまとめ上げる玖聖会。ハルトと因縁がある、魔人王の封印を解こうとしている組織か……)


 玖聖会は高確率で、人を筋肉の怪物にする手段を有している。魔獣大陸で見た筋肉怪物と同種かはわからないが、無関係と断定することもできない。


 玖聖会と俺たちの目的は、同じではないものの似通った箇所もある。どちらも魔人王が関係してくるのだ。


 ただの2000年前の伝説かと思いきや、種族抗争の可能性が出てきた。だが四聖剣や魔人族といった謎は解明できていない。


 ……そういや四大精霊の加護を受けたとかいう〈フェルン〉も気になるが。これも大図書館とやらに行けば、なにかわかるのかね。


「とりあえずお互いの情報は交換できたかな?」


 俺たちもいろいろ知りえたが、エルヴィットたちにも有益な情報を提供することができた。


 少なくとも玖聖会や魔獣大陸で見た筋肉怪物などは、青竜公も強い興味を示していたし。


 それに俺とアハトが見たカタナを持つ少女。たぶんあのクロメと呼ばれていた子が、ハルトの妹なのだろう。


 あの見た目でハルトの故郷の住民を殺しまくったのが信じられないけど。


「話もひと段落ついたところで。あらためて、教官補佐と警備兵の仕事をやめさせてもらうわ」


「あら……」


「旅立つのか?」


「ああ。まだまだこの世界をいろいろ見て回りたいんでな」


 王都に転移装置も設置したし、ここには来ようと思えばいつでも来られる。


 急にやり始めることになった仕事だったが、十分楽しんだだろう。それに希少金属探しの旅もしたいしな。


「ふむ……半年後、お前たちを護衛として雇いたいのだが。どうだろうか」


「……え?」


 なんとなくさっき、青竜公が俺たちを引き留めようという空気を出していたことを思い出す。どうやらその狙いが姿を現したようだ。


「半年後に竜公家が集まっての催しがある。そこでお前たちには、我が青竜公家の護衛として参加してほしいのだ」

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