第46話 聖竜国の首都にやってきました。
「おおー……これはまた……なんというか……」
「すっごくキレイ~!」
俺たちは目的地であるディルバラン聖竜国の王都ディルムスタッドに到着した。
王都は港町カルオナークを北上したところに位置しているのだが、意外と近かった。
あれかな。やっぱり港町が近い方が、魔獣大陸からたくさん魔獣素材を運びやすいからかな。
輸送コストも考えると、大都市ほど港町から近いにこしたことはないだろうし。
「なかなか趣のある都市ですね」
アハトも王都をしっかりと観察している。王都ディルムスタッドは、これまで見てきた都市と比べて歴史を感じさせる建築物が多かった。
古めかしい……と言ったら語弊があるかもしれない。たしかに築年数がけっこう経っていそうな建物は多いが、どれも清潔感が感じられる。ゴミもほとんど落ちていないし。
なにより遠目に見える城が、かなりでかかった。ありゃノウルクレート王国で見た城よりもでけぇな……。
「しばらくはここを拠点にしつつ、四聖剣の情報でも集めるか」
「さんせーい! 今のところ、まったく四聖剣の情報がないわねぇ」
「やっぱり存在してないんじゃね?」
「なんてこと言うのよ!?」
リュインが耳元で騒ぐ。うるせぇ……!
住民たちも〈フェルン〉が珍しいのか、リュインに視線を向けている者もいた。アハトが注目を集めているのもいつもどおりだ。
『明るいうちについたんだ。とりあえず金を作りに行けばどうだ?』
「そうだな。そうしよう」
シグニールからは5つほど魔晶核を持ってきていた。まずは3つくらい売って、まとまった金を作ろう。
カードに金をチャージできなければ、金なんてたくさんあっても手荷物になるだけだし。
適当に道行く人や小物屋の店主に話を聞きながら、魔獣素材を買い取ってくれそうな店へと向かう。お店自体はメインストリートから一本ずれたところにあった。
「ごめんくださいよっとぉ」
店自体はそこそこ大きく、主に家具を扱っていた。ここの店主が貴族とも伝手があるらしく、たまに魔獣素材の買い取りなんかもしているらしい。
「……客かい? この辺りでは見ない顔だが……」
若い青年が顔を見せる。青年はとくにアハトに視線を向けていた。
きっとまたどこぞの貴族様とでも思っているのだろう。もう慣れたけど。
「ああ、実は魔晶核の買い取りをお願いしたいんだ。ここなら買い取ってくれると聞いたんだが……」
「………………? 魔晶核……?」
あれ……。まさか初めて聞いた単語ってわけでもねぇよな。
「ああ。これなんだが……」
そう言いながら袋から青い魔晶核を取り出す。それを見た瞬間、青年は両目を驚きで見開いていた。
「な……!? こ……これ……ど、どこで……!?」
「どこで……て。普通に魔獣を倒して手に入れたんだけど……」
「………………っ!? これほど高品質な魔晶核を……!?」
ああ……ずっと魔獣大陸にいたから感覚がマヒしてた。
そういやレグザさんも最初、キルヴィス大森林産の魔晶核を見て驚いていたわ。なんならギルンも荷物を狙ってきたし。
「あんたら、一体……!? き……騎士の実習で、狩ってきたのか……!?」
「…………? いんや、俺たちはただの旅人だよ。ここへ来る途中で魔獣を狩ったからよ。とりあえず金が必要だから、売りにきたってだけだ」
騎士の実習……? この国の騎士様は、実習で魔獣を狩ってんのか?
青年は再度、魔晶核を観察する。そして俺の持つ袋に視線を移した。
「もしかして……まだ他に持っているのか……?」
「ああ」
「い、いくつだ……?」
「……あん?」
なんだ……なにを聞きたがっている……?
「さぁなぁ。とりあえず買い取り価格次第で、また別の魔晶核が隣に並ぶかもしれないが……」
暗に他のお店にも持っていくかも……というニュアンスを滲ませる。
べつに読み取ってくれなくても問題はなかったが、青年はそのニュアンスを感じ取ったようだ。
「…………わかった。ちょっと待っててくれるか?」
「ん?」
「実は旦那様はいま、二階で貴族様の応対をしていてさ。これは俺では値段を決められないよ」
おや。どうやらこの青年が店主というわけではなかったらしい。たしかに立派な店を持っている商人にしては若いな。
「へぇ。貴族が直々にお店に来るのか。繁盛してんだなぁ」
「いや……普通は貴族様のところへは商人が訪ねるもんだ。うちはこの通り、家具を中心に扱っているんだけどさ。この間、納品した椅子をえらく気に入ってくれたみたいで……」
この店は王都にいる家具職人たちと契約を結んでおり、彼らから物を仕入れて貴族や金持ちを中心に商売を行っているらしい。
また店主の親の代から商売を続けており、貴族の中にお得意様もいるとのことだった。
その中の1人が、たまたまこの近くを通ったので、そのまま顔を出してくれたようだ。椅子の使い心地が素晴らしいと、たいそう喜んでいるとか。
「なるほどねぇ……お客さんとの関係も良好というわけだ」
「ああ。もうすこししたら終わると思うから、待っていてほしい」
どうするかね……まぁ急ぎの用事はないし。家具サンプルでも見ながら、時間を過ごそうか……。
そう考えていたタイミングで、リリアベルから声が届く。
『ふむ……なるほど。おいマグナ、ちょっとその貴族と交渉できないか?』
「ん……?」
『思い出してみろ。魔晶核を主に欲するのは、魔道具を作る者だ。その中には貴族が多い。もしいま二階にいる貴族が魔晶核に興味を持てば。商売の話をしつつ、どうやって魔道具を作るのかを聞き出してほしい』
なるほどねぇ……。ここで魔晶核を売っても、店主の手から他の貴族へ移る。それならここでダイレクトに交渉を行い、ついでに魔道具作成についてのデータを取りたいってとこか。
やはり不思議道具には興味津々らしい。ま、俺もだけど!
「それじゃしばらく待たせてもらうぜ」
そう言った直後だった。二階から2人の男性が下りてくる。どうやら待つ必要もなかったみたいだな。
「ん……? フリック、客か?」
「あ、旦那様。実はこちらの方が……」
2人が会話をはじめる前に、俺は袋からもう一つ魔晶核を取り出す。今度は黄色いものだ。
そしてそれを、最初に出した青い魔晶核の真横に置いた。わざとらしく、ゴトッと音を立てて。
「な……!?」
2人ともすぐにそれに気付く。そして俺とアハト、リュインにあらためて視線を巡らせた。
「それは……魔晶核か……!? なんと高品質な……!」
店主がやや駆け足でおりてくるのに対し、貴族はゆっくりとこちらへ向かってくる。だがその目は魔晶核に向けられていた。
俺はあらためて2人に聞こえるように口を開く。
「どうも、はじめまして。俺たちは旅の者でしてね。王都へ来る途中で魔獣を狩ったので、この魔晶核を買い取ってほしくてこの店に来ました。……いかがでしょう? ここなら買い取ってくれると聞いたんすけど……?」
『慣れない敬語を使いおって。かえってうさんくさいではないか』
うるせぇ! こちとら貴族さまは初見なんだ、ちょっと様子は見るだろ!
青年の反応から、この魔晶核が相当レアな品質だというのはわかっていた。そして予想どおり、やはり貴族も食いつく。
「ほう……この魔晶核を持つ魔獣だと、相当強い魔力を持っていただろう。それを……お前たちが狩ったと?」
「こう見えて昔、魔獣大陸で冒険者をやっていたこともありましてね。まぁ今も半冒険者ですけど」
自分で言っていて半冒険者の意味がわからない。魔獣大陸以外でも魔獣狩ってますよ……というのを端的に言おうと思って、こんな単語が出てきてしまった。
まぁ意味は通じるだろ。それに冒険者自体をやめたわけでもないしな。
貴族はもう一度俺たちに視線を向けると、今度は店主に顔を向けた。
「トーマス。もう一度2階の部屋を借りるぞ。お前たち、ついてくるがいい。私が直々に話を聞こう」
どうやら狙いどおりに話が進みそうだな。ま、いつもリリアベルには世話になっているし。たまには要望に応えてやりますか。
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