第44話 拠点のレベルが上がりました。

「よし! 目指すはディルバラン聖竜国の王都だ!」


『その前にいろいろ準備を整えると言っただろう。いいからお前は黙ってテストを行え』


 あれから俺たちは観光ツアーで、ディルバラン聖竜国の港町〈カルオナーク〉へ行った。高速魔力船でもまる1日、港町についたらガイドに従っていろいろ巡る。


 結論から言うと、けっこう楽しかった。同行したイルマさんは「タフですね……」と言っていたが。


 〈カルオナーク〉は綺麗な港町だった。さすがにマルセバーンほど大規模な町ではないが、道は石が嵌め込まれて、こぎれいに整理されている。それに景色もいい。


 町の歴史など聞かせてもらいながら、夜はすこしいい宿で食事を済ませる。そして翌日も港町ならではの料理を楽しみ、魔獣大陸への帰路へとついた。


 もちろん転移装置を設置するのも忘れていない。これがメインで観光ツアーに参加したんだからな……!


 そんなわけで魔獣大陸に戻ってさっそくディルバラン聖竜国に渡ろうとしたのだが。その前にリリアベルから待ったがかかったのだ。


 なんでもシグニールの光子リアクターの出力をすこし上げることに成功したらしい。


 これまで持ちこんだ素材の成分分析を行い、あれやこれやと加工し、修理に使用することができたとか。


 できることが増えたので、リリアベルはさっそくいろいろ作成したようだ。俺は今日1日、そのテストに付き合うことになった。


 ちなみにアハトとリュインの2人は今、魔獣大陸でルシアたちに同行している。つまりシグニールにいるのは、俺とリリアベルだけになるのだ。


 俺はさっそく指定のウェアに着替え、トレーニングルームへと移動する。つかシグニールにトレーニングルームとかあったのか……。


「んで、リリアベルよぉ。テストって、なにすんの?」


『まずはこれだ』


 ドローンが金属の筒を持ってくる。


 これは……昨日リリアベルに預けたフォトンブレイドだな。すこし形状が変わっている……?


『出力をより細かく調整できるように改良した。刀身の長さを抑えることでエネルギーの消耗を低くしたり、あるいは以前よりも強い出力で刀身を形成できる』


「どれどれ……」


 スイッチを入れると、ヴォンッと音と共に光の刀身が伸びる。続いて金属筒にあるホイールを操作すると、刀身の長さが調整できた。


「おお、すげぇ! いい感じじゃね!?」


『うむ。いろいろ振ってみろ。刀身形成時の安定性を見たい』


「おうよ!」


 刀身のサイズを変えつつ、ヴォンヴォンと振り回す。刀身に乱れはないし、まったく問題はなさそうだ。


『では対レーザーライフル戦のシミュレーションを起動するぞ』


「んえ?」


 トレーニングルームの明かりが落ちたかと思えば、目の前からレーザーの光が走る。俺はそれをサッとかわした。


「なにこれ!?」


『あくまでトレーニングだ、レーザーに殺傷能力はない。フォトンブレイドで弾け』


「耐久テストかよ……」


 トレーニングルームにこんな機能があったとは……。まぁ宇宙艦の中で、危険なレーザーがビュンビュン飛び交うわけがないけど。


 俺は言われた通りに四方八方から飛んでくるレーザーをフォトンブレイドで弾いていく。


 そういや魔獣狩りもぬるかったし。最近はこんな感じで動いていなかったな……。


『ふむ……耐久値も問題ないようだな。それにしても……並のヒューマンであれば10秒生存率2%のモードだというのに。まだまだ余裕そうだな』


「知らない間にすっげぇハードモードを受けさせられていた……!」


 たしかにレーザーの数がせわしないと思ったけど! あっちこっちから絶え間なく飛びまくってくるんだもん!


『腐っても純血の帝国人か……』


「腐ってもは余計だ! テストが終わったなら止めろ!」


 レーザーが止まり、部屋に明かりが灯る。まったく……俺のトレーニングまでさせやがって……。


「……て、さすがに使い過ぎたか」


 フォトンブレイドの刀身が消える。エネルギーの再チャージには時間がかかるだろう。


『ふむ……持続時間も伸びているな。フォトンブレイドのバージョンアップには成功したと言っていいだろう』


「そいつはよかった」


 今のところあまり出番はないけど。


 でも現状、対精霊においてこいつは強力な切り札になる。この間も海賊聖女さんが操る水の高位精霊を相手にしたところだったし。


「……って、そうだ! 忘れてた……!」


『なにがだ』


「精霊だよ精霊! 契約すれば自由にあんな魔法が使えるんだろ!? いいなぁ、俺も精霊と契約してぇ! あと肝心の契約がなんなのか、まったくわからねぇ!」


『あれはたしかに興味深かった。今アハトを通じて、ルシアに聞いてもらったところだ』


「今聞いてたんかいっ! 教えてくれよ!?」


 リリアベルもやはり気になっていたらしい。ヘルミーネはあの時、明らかに自分の意思で水の精霊を俺にけしかけてきたからな。


 精霊にあんなことができるなんて、思いもしなかった。どうしても精霊のイメージは骸骨だからな。


『どうやら自然現象が精霊化したものに限り、人種は個別に契約を交わせるようだ』


「自然現象……?」


『うむ。地水火風といったものだな』


 ああ……前にも聞いたな。この世界で初めて精霊化を果たしたのが、地水火風の4つだったか。


 最初の精霊は四大精霊と呼ばれており、この世界にはそれらとは別に、いろんな地水火風の精霊が生まれているとかなんとか。


「なるほど。ヘルミーネは水の精霊と仲良しになったわけだ」


『うむ。精霊は下位、高位と分けられるようだが。これらは生まれてからの期間のほか、〈フェルン〉を狩るなどして位を上げているようだ』


「そういや以前、リュインが話していたな。風の精霊は風の〈フェルン〉をあんまり襲わないとか……」


 つまり他の精霊からは狙われるということだ。なんたって高レア経験値精霊だからな。


「んで……どうやって契約すんの?」


『最もポピュラー方法は、貴石を用意するところからはじまる』


 精霊の中には位を上げることに積極的なものがいる。位が上がる条件はいろいろあるらしいが、他者から魔力を得るというのも1つの方法らしい。


 精霊との契約を望む者は、精霊に自分の魔力を捧げることを誓う。了承した精霊は貴石に宿る。


 だが貴石との相性によっては、そもそも宿れないことも多いらしく、契約は貴石を用意するところから慎重に行う必要があるそうだ。


「んだよ、魔力持ちじゃねぇと契約できねぇのかよ。俺関係ないじゃん」


『あくまで一例だ。ちなみにグランバルクも高位精霊と契約していたが、魔力は捧げていなかったらしい』


「え!? それ以外に方法あんの!?」


『だがなにを代償として契約を交わしていたかは謎とのことだ。基本は魔力を捧げることにちがいはない』


「かぁー! 希望を持たせたと思ってらこれだよ!」


 せっかく俺も魔法使いデビューができると思ったのに! 


 まぁ契約というくらいだし、ギブアンドテイクが成り立つことが前提なのはわかるが。


 しかし契約ができるのは、自然現象が精霊化したもののみ……ねぇ……。


 リュインのような〈フェルン〉という精霊もいるし、きっと一言に精霊といってもいろいろ違いがあるんだろうな。


『ちなみに自然現象由来の精霊は、そもそも人とコミュニケーションが取れること自体が稀らしいぞ』


「契約以前の問題じゃねぇか……!」


 だからこそ海賊聖女さんが水の高位精霊を見せたとき、みんな驚いていたのか。たしかに戦闘能力も高そうだった。


『まぁ精霊との契約はわたしも興味がある。どこかで契約している者がいれば、いろいろ話を聞いてみればいい』


「そうだな。話を聞く感じ、かなり珍しいみたいだけど」


『ああ、それから。服を新調しておいた。それなりの冒険者っぽく見えるように仕立てておいたから、感謝するように』


「ありがとう、リリアベル!」


 これはうれしい。これまでずっと一般人と同じ服装だったからな……! 無駄に防御性能が高かったのがまた腹立つ……!


 そんなわけでこの日、俺はシグニールで1日をすごしたのだった。





■シグニール 拠点レベル2

 光子リアクターの出力が上がったことで、いろいろできるようになった。フォトンブレイドもバージョンアップを果たす。


 また距離制限はあるが、森の外でもアハトの武装を転送できるように。転移装置も新たに1つ作成、今はエアボードを作成中。

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