第43話 リリアベル・レポート 2

 わたしの名前はリリアベル。大変興味深い惑星に舞い降りた天才美少女AIだ。


 魔獣大陸での活動がひと段落したので、簡単に記録をまとめようと思う。


【魔獣大陸】

 この星の大陸で唯一、全域に渡って魔獣が生息する地になる。魔獣は貴重な資源となるので、各国はギルドを通して冒険者を使い、この資源を安定して流通させている。


 接舷できるのは北側の一部のみであり、この大陸に渡る者は最初、誰もが港町マルセバーンへとやってくる。


 南に行くほど魔獣の脅威度が増す傾向があり、まだ全域は解明されていないのだとか。遺跡もあるようだし、いつかわたしも行ってみたいものだ。


【ファルカーギルド】

 各国が資本と人を出して運営している国際機関になる。冒険者たちは基本的にこのギルドを中心に活動することで、金銭を得ることができる。


 冒険者を冒険者という職業として成り立たせている機関と言ってもいいだろう。


 いわば魔獣大陸において、ルールを策定できる側のポジションにいるわけだ。冒険者たちをファルクという組織単位で管理している点といい、枠組みの組み立ては見事と言える。


 この地では徹底して、冒険者はフリーで活動しにくいように制度が敷かれているからな。


 その目的は、各国に魔獣資源を安定供給させることに加え、特定の国が貴重な資源を独占できないようにするものでもある。その中には遺跡で見つかるというオーパーツも含まれている。


 ギルドとしても、グランバルクの残した数々のオーパーツのありかは気になっているだろう。


 ギルドの背後にいる大国も欲しているはずだし、それが他国に流れることも警戒しているはずだ。それに魔獣大陸に住まう賊が独占することもよく思っていないだろう。


 おそらくルシアを使って、ファルクたちの間で秘宝探しブームを巻き起こそうとしているな。わたしがギルドの立場ならそうするからだ。


 これにより無数のファルクどもに自発的に動いてもらい、隠し財産を探させる。


 ルール次第で明日からでも秘宝探しはさせられる……が。押し付けらえたルールの中で、やらされ感を感じつつ動くファルクがどれだけいるかはわからない。


 なにせ冒険者たちを統率できるのはマスターのみで、基本的にはまともな教育を受けていない者どもだからな。


 あくまで自発的に動いてもらう。ギルドが介入するのは途中からで、より秘宝探しブームに火を付けられるタイミングにする。これが最も効率がいいだろう。


 冒険者どもをその気にさせるエサなど、いくらでも用意できるのだから。


 余談だが「ファルク」というのは、古代語で「鷹」を意味するらしい。鷹のように魔獣大陸を駆けることをイメージして名付けられたのかな。



【陸上船】

 一部のファルクが所有している大型魔道具だ。地面から一定距離浮いて移動ができる。


 この船を所有するファルクは、長期遠征がしやすい。物資も詰め込めるし、大型魔獣も持ち帰られる。これを持っているかいないかで、仕事の幅がかなり変わるだろう。


 一方で動かすには複数人の魔力持ちが必要なようだ。また魔獣の血を精製した〈カイエンリキッド〉というものも消費するらしく、移動コストもそれなりといったところだろう。


 そもそも購入費用も並のファルクでは手が出せない価格のようだしな。


 要するに船を所有できるのはファルクでも限られた存在だということだ。これを持っていれば一流ファルクの仲間入りができるといったところか。


 だが樹海には入れなかったりと、航行できる地形にも条件があるようだな。



■グランバルク

 伝説の大冒険者といったところか。ファルクのマスターであり、いくつものファルクを傘下に治めていたらしい。


 その気になれば魔獣素材の流通をコントロールできる立場にあったため、大国も彼を無視できなかった。


 最後の遠征時に死亡。その後、彼のファルクは解散し、無数の新たなファルクが生まれた。


 もともとグランバルクファミリーは彼がトップだったからまとまっていたのであり、いなくなった途端、それまで仲間だった者同士で抗争が激しくなったとか。


 どこかに彼の遺産と、もう一つの船があるといううわさがあるが……。さて、実際はどうなのだろうな。シグニールが飛べれば、一瞬で見つけられるのだが。



■ルシア

 グランバルクの孫だな。肩で切りそろえた紺色の髪に、赤い目が特徴的な少女だ。推定年齢は15、身長152センチ。


 杖を持っており、〈月〉属性の魔力を持つ魔術師だと言っていた。不可思議な鎖を操っていたし、これがどこまで本当なのかはわからないが。


 グランバルクの遺産を交渉材料に使い、ギルドにファルク設立を認めさせたようだ。


 ギルドからすれば渡りに船だっただろうな。……いや、そうなるように仕向けていた可能性もあるか。


 いろいろ背負っていそうだが、魔獣大陸の冒険者やギルドは今、彼女に注目をしている。しばらくは時の人としてその動向を見られ続けるだろうな。



■レッド

 元グランバルクファミリーで、頭に角を生やした勇角族の男だ。〈空〉属性の魔力を持っており、パワー重視の身体能力強化できる。


 身体を鍛えており、見るからに頑健だな。戦闘時には両手にそれぞれ斧を持ち、軽々と振り回している。典型的なパワーファイターだろう。


 グランバルクの最後を見た唯一の人物でもある。ルシアをマスターとして仰ぎ、彼女のファルクの一員として活躍中だ。


 長年の付き合いも有り、ルシアも信頼しているのがよくわかる。



■オボロ

 レッドと同じく元グランバルクファミリーの男だ。〈空〉属性の魔力を持っており、速度重視の身体能力強化ができる。


 武器はハルトと同じカタナだな。対人戦はハルトの方が強そうだが、魔獣戦だとオボロに軍配が上がりそうだ。


 グランバルクの最後の遠征に付き合っていた冒険者の1人になる。


 現在はルシアファミリーの一員として働いているが、どうやらマスターと呼ぶのはグランバルクだけらしい。ルシアはレッドと同様、信頼を寄せている。



■ラング

 マルセバーンで店を経営している男だ。昼間はランチ、夜は本格的な酒場という店だな。


 どうやら昔、グランバルクファミリーの一員だったようだ。ただし冒険者ではなく、料理人として働いていたとか。


 ルシア自身、彼の作る料理を食べていたようだ。彼女が幼いころからの付き合いらしく、ファルクのマスターとなったルシアを心配していた。


 ルシア自身はマルセバーンに家を持っているが、店の二階にある個室は今や、ルシアファミリーの会議室扱いになっている。



■リメイラとカルク

 ギルド職員だな。ギルドは指名依頼を受けたファルクに対し、見届け人を派遣することがあるようだ。


 それなりに魔力の扱いに精通したものでなければ務まらないだろう。どうやら見届け人としての仕事をこなすと、特別ボーナスが得られるようだ。



■メリク

 ファルカーランク3のメリクファミリーを率いるマスターだ。ルシアに共闘を持ちかけるも断られた。


 結果的に共闘することになったが、賊討伐の際に仲間の1人が死亡。1人が重傷になっている。


 グランバルクに憧れており、過去には彼の傘下のファルクで見習いとして働いていたらしい。そこから独立して自らマスターとなるファルクを結成した。


 実は現場の下積みからしっかりと駆けあがってきた冒険者である。


 仲間の1人に〈月〉属性の魔術師がいるが、優秀な冒険者として他のファルクにも名が知られているようだ。



■アリアシア

 〈フェルン〉の冒険者にして、アリアシアファミリーのマスターだ。


 彼女のファルクは現在最高位であるランク8。過去にこのランクに到達していたのはグランバルクファミリーだけらしい。


 グランバルクファミリーの傘下ではなく、彼のファルクが隆盛を誇っていた時代もとくにつるむことがなかったとか。


 また遺跡の発見や調査を主な活動軸に置いており、基本的に大陸南部に滞在している。


 うわさではリュインと同じく、四聖剣を探しているらしいが……。〈フェルン〉と四聖剣はなにか縁でもあるのかもしれないな。


 もっともわたしは、その存在を信じているわけではないが。



■ダインルード

 ダインルードファミリーのマスターであり、かつてはグランバルクファミリーの傘下に入っていた。骸が精霊化した存在であり、相当強力な魔力を有しているようだ。


 普段は素肌……というか、骨を見せないような着こなしをしている。


 精霊の生態はまだよくわからないが、おそらくは魔術師タイプだろう。魔道具職人としての一面もあるようだ。


 さすがに長くマスターをしているだけあり、キルヴィス大森林で遭遇した骸とはちがい、話し方や態度に威厳があった。


 どことなくルシアを気にかけているようにも思えたが、真偽は不明である。冒険者の間では決して評判がいい方ではない。


 黒い船を拠点にしているようだ。今はマルセバーンに滞在しているが、また南へ遠征に行くのかな。



■カミラとユン

 ダインルードファミリー所属の冒険者だ。カミラはそこそこの使い手だな。


 ユンは風の下位精霊と契約を交わしているようだ。2人とも詳しいデータはない。



■ヘルミーネ

 通称〈海賊聖女〉。普段は大陸南部で略奪行為を働いており、ギルドも手を焼いているとか。苛烈かつドSな性格で知られる、白精族の女性である。


 どうやら魔獣を操る能力を有しているようだ。それが魔道具やオーパーツによるものなのか、あるいは本人の能力によるものなのかは不明だ。


 ルシアに対して執着心のようなものを見せていたが、決して親愛の情からではないだろう。


 どうやら今もグランバルクの遺産を探しているようだし、ルシアにはそのありかを聞きたかったのではないかな。わたしの読みでは、ルシアも知らないだろうが。


 かつては〈聖女〉ヘルミーネと呼ばれていたらしい。今の姿からは想像できんな。海賊を行うようになったきっかけでもあったのか。


 身長は168センチと、女性にしてはやや大きい。ただ白精族は種族としての特徴で、胸があまり育たないようだ。当然、この女もそれほどない。



■イルマ

 ディルバラン聖竜国の観光組合で働く女性だ。だが身のこなしから見て、ただの一般人ではないだろう。


 正体はいろいろ予想できるところはあるが……この先、マグナたちに関わってくるのかはまだわからない。だがルシアに営業を仕掛けてきたのは、偶然ではないだろうな。




 さて……次はディルバラン聖竜国に向かう予定だが。なにが待っているか楽しみだ。

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