第40話 みんなで話し合いをはじめました。
翌日。俺たちはラングの店で昼食を取りながら、昨日のことについて情報を共有していた。
「メリクとの勝負は結局お流れか……」
「ああいう状況じゃあ仕方ないよな」
「お仲間さんからも死人が出たんだっけ?」
メリクファミリーに所属する冒険者は5人。いちおう物資管理などを任せている非戦闘員が1人いるらしいが、基本的に現場に出てくるのは昨日も見た5人だ。
その中の1人は死亡。もう1人は生きているものの、重傷とのことだった。再起にはすこし時間を要するようだ。
「しっかしあの鎖で捕まっていた奴ら。そんなにヤバい連中だったのか……」
「俺の振るった斧がほとんど通らなかったからなぁ。両手持ちでなかったにせよ、ありゃ悔しかったぜ」
2人とも正気を保ているようには見えなかったらしい。さらに魔力も普通では考えれないくらいに高まっていたのだとか。
「ん? でも普通に強い魔力を持っている奴らもいるんだろ? 異常に魔力が高まっているって、なんで判断できるんだ?」
「その質問がくるということは……本当にマグナたちは魔力を持っていないのね……」
「それであの大型魔獣の首をたやすく落とせるのだ。大した腕だな」
「まぁな!」
魔力というのは、生まれた時点でどれくらい成長するのか。そのポテンシャルがおおよそ決まっているらしい。
言いかえれば、筋肉とちがって後天的に成長させられる余地がほとんどないのだ。
「一般的に女性の方が男性よりも魔力は強いと言われているわ。そういう性差も多少はあるんだけれど。どちらにせよ強い魔力を得られる人というのは決まっているものなのよ」
「それは聞いたことあるぜ。あれだろ、人種は貴族とかがだいたい強い魔力を持っているんだろ。あとは精霊化を果たした奴らか」
後天的な成長が見込めないからこそ、血統をコントロールして強い魔力の素養に恵まれる家系を残す。
国にもよるが、大国ほどしっかりその辺りは考えられているとか。
「あの時の賊は、高ランクの魔力を発揮していたわ。それこそ大国の高位貴族並のね。普通の賊にそんな魔力が目覚めるなんてこと、まず考えられない」
「……ああ、なるほど。だいたいわかったぜ」
どう見ても他国のお偉いさんに思えない奴が、高位貴族並の魔力を発揮したことがおかしいってことだ。
その辺の野良が強い魔力に覚醒できるのなら、貴族たちが行っている血統コントロールが無駄になっちまう。
ここ魔獣大陸にはさまざまな人間が集まってくるが、その中で強い魔力を持つ者は稀だ。そして外から魔力持ちが流れてきてこの地で代を重ねることで、魔力持ちの数自体は増えていく。
一方で血は薄まるので、強い魔力を持つ者はすくない。だからこそ昨日の賊は異常さが際立つ。
外から来た強い魔力を持つ者であれば、そもそもあんな場所で賊などしていない。実力があれば冒険者として、それなりのファルクで厚遇されるからだ。
この地で生まれた魔力持ちだったとしても、強い魔力に覚醒していることに違和感が出る。
ない話ではないが、これも「そもそも強い魔力を持っている奴が、なぜ賊を……?」という話になるのだ。
この地で魔力を持っているというのは、とても大きな意味を持つ。それこそ自分の人生を決める要素にもなり得るくらいだ。
賊をしている強い魔力持ちという言葉は、違和感の塊なのだろう。……海賊聖女ヘルミーネを除いて、だけど。
ここでオボロは難しい表情を作る。
「昔、うわさで聞いた程度のものなのだが……」
「うん?」
「副作用は強いが、魔力を高めるクスリがあると聞いたことがある」
おお……いかにもあやしげなもんが出てきたな。だがこれに待ったをかけたのはレッドだった。
「その手の話はずっと昔からあるもんだろ? 俺も昔、ガキだったときによく近所の婆に商売かけられたぜ? こいつを飲めば、魔力が強くなるよー……てな」
うわぁ……。魔力増強薬詐欺商売が成り立っていそうだな……。
まぁこの世界は魔力を用いて文明が発展しているし。後天的に魔力を高める……あるいは得られる研究というのは、もうずっと昔から誰かがやっていそうなテーマではある。
「そういった占い師まがいがやっている商売ではない。なんでも外大陸には、魔力の研究を行っている者が多いらしい。そうした者たちが開発した薬は、魔獣大陸にいる冒険者で試される……といううわさを聞いたことがあるのだ」
「それが昨日の賊ってこと? その線もないわけじゃないんでしょうけど……それならヘルミーネとの繋がりが見えてこないわ」
「……そうだな」
ヘルミーネとルシアの間で交わされた言葉を整理すると、異様な魔力を持つ2人の賊は海賊聖女がけしかけてきたように聞こえたらしい。
いろいろ可能性は考えられるが……どれも憶測の域を出ないな。
「やっぱり考えていてもわからねぇな。話を変えよう。ギルドからの依頼は達成ということでだいじょうぶだったのか?」
「ええ! 結果的にはメリクファミリーとの共闘で達成したということになったわ」
最初に賊の多くを倒したのはメリクたちだが、その後に出てきた手ごわい賊はルシアファミリーが片付けたことになる。メリクたちでは敵わなかった相手だ。
その後もヘルミーネやダインルードの登場でいろいろ騒がしい事態にはなったが、ギルドからはそれぞれに対して報酬を出すという結論に落ち着いた。
またイノシシ型の巨大魔獣から得られた魔晶核も、そのままギルドに売ったらしい。それら諸々合わせた報酬から、俺たちにも分け前が配られることになった。
「マグナたちには100万エルク渡すわ」
「え!? そんなにいいのか……!?」
「ええ。今回の依頼でけっこうまとまったお金が入ったのよ。それにマグナたちがあのタイミングで駆けつけてくれなかったら、巨大魔獣をあんなりあっさりと倒せていなかったでしょうし……」
そう言うとルシアは俺にカードを差し出してくる。俺はそれを手に取ると首を傾げた。
「……これは?」
「エルクカードよ。マグナたち、持っていなかったでしょう? これがあれば、わざわざ大金を持ち歩く必要がなくなるわ」
エルクカードには金銭をチャージしておくことができ、カード払いに対応している店では支払いにも使用できるらしい。
またカード同士で金銭のやり取りもできるとのことだった。
ルシアはカードを作成し、そこに100万エルク入れておいてくれたようだ。
「おお……便利……」
「外大陸ではあんまり使えないし。魔獣大陸内でもチャージの際にはいろいろ制限があるけどね」
たしかに。王都に住むレグザさんも、このカードを使用しているようには見えなかった。魔獣大陸は変なところで便利な道具が浸透しているな……。
「これも魔道具なんだよな? 俺たち、リュイン以外は魔力を持っていないんだけど。それでも使えるのか?」
「定期的に魔力を充填していれば問題ないわ。魔道具には魔力充填型で、使用者の魔力の有無に関係無く使える物と、魔力持ちしか扱えない物とで分かれるのよ」
たしか前にもそんな話を聞いた気がするな……。
「そういや魔道具とオーパーツってなにがちがうんだ?」
「え?」
「昨日メリクに聞いたんだよ。グランバルクの残した遺産がどうのやら、そこにオーパーツがあるって話とかをさ。でも魔道具とのちがいがなんなのか、全然わからなくてよ……」
ルシアはしばらくなにかを考えこんでいたが、ふぅと息を吐いた。
「魔道具というのは、魔晶核をベースに魔力持ちが目的に合わせて作成する道具のことよ。魔晶核をベースにするのも、理由があるの」
魔力持ちの魔獣から採取できる鉱石状の物体、魔晶核。これは魔力との親和性がとても強く、その品質に応じて実にさまざまなものを作成できるそうだ。
魔術師の持つ杖や俺も一度くらった〈黒室〉なんかもそうだが、どれも作成にあたり、どんな魔晶核でも構わない……というわけではないらしい。
同じ魔道具でもベースにした魔晶核で性能に違いが出るのだ。しかし便利な物が作れることには変わりない。
魔道具作成にこだわっている者ほど、たくさんの魔晶核を集めているとか。
「ダインルードも、魔道具作成の第一人者として有名ね」
「へぇ……」
「でもね。オーパーツというのは、魔晶核がどこにも使用されていないの。それでいて魔道具と類似した性能を持っていたり、ものによっては魔道具では実現不可能な性能を発揮するものもある……」
古代遺跡から時折見つかるオーパーツ。ほとんどは壊れていたり、用途不明のものが多いらしい。
だが稀に戦闘に有用なものが見つかることもあるとか。
「古代遺跡って、結局なんなんだ? だれかが作ったものにはちがいないんだろ?」
「そうね。一説では魔人王の存在していた2000年前に作られたと言われているわ」
「おお……久しぶりにその名を聞いたな……」
なんにせよ遥か昔の遺跡にちがいはない。しかし古代遺跡にオーパーツか……。
もしかしたら四聖剣というのも、オーパーツなのかもしれないな。年代的にも合致しているし。
2つの違いについてはおおよそ理解できた。ちなみにグランバルクの隠し財産について、ルシアの口からとくに言及はなかった。
うぅん……気にはなるけど。直球で聞いていいかはすこし悩むところだな。
なんて考えていると、ここでリュインがルシアの近くまで飛んでいく。
「ねぇねぇ! グランバルクの隠し財産って本当にあるの!? そこに四聖剣があったりしない!?」
……こいつは本当にいつも、空気を読まねぇな! ナイスだ!
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