第29話 ルシアのファルクについて、考えてみました。
まぁここまで事情を教えてくれたんだしな。俺もしっかり返答させていただきますか。
「ありがたい誘いだと思う。でもやっぱりむずかしいな」
ルシアが俺たちに声をかけた理由も、今なら正しく理解できる。
もちろんミミズ魔獣に対して見せた強さもあるだろうが、なにより旧グランバルク派閥と無縁だったからだろう。
魔獣大陸に来たばかりで、まだ右も左もわからない新参冒険者。他ファルクと繋がっている可能性も低かったから、勧誘しようと思えたんだ。
「むぅ。そんなに待遇が不満なのかしら?」
「そこじゃねぇって。なんというか……俺たちはさ。特定の組織に所属して働く……というのがむずかしいんだ」
明日からしばらく魔獣大陸にいないから~……なんて自由が許されるのならまた話はかわってくるのだが。
まだまだ精一杯楽しみながら自分らしい生を模索する旅の途中なのだ。
冒険者という生き方に希望を見出せる可能性はあるが、これだと決めるにはまだはやい。そう結論づけられるほど、この星を回れていない。
「マスター。マグナたちにはマグナたちの事情があるんだろうさ」
「……そうね。決して強要できることではないわ。でも次に会ったとき、他のファルク所属になっていたら、とても気まずい思いをするのはマグナたちよ?」
「その可能性はなさそうだけどなぁ……」
これまで黙って聞いていたアハトが口を開く。
「かつての大冒険者、その孫がマスターとしてどのような生を紡ぐかは興味ありますね」
「……そうなの?」
おや。意外とアハトは、ルシアのファルクに所属することについて乗り気だったのかな?
それならそれで、また考えもかわってくるけど……。
「ですが我らにも四聖剣を探し、いずれ復活する魔人王を倒すという使命があります」
「え!?」
「アハトさん!?」
いつそんな使命が生まれたんだ……!
ルシアたちはアハトの言うことを冗談なのか、本気なのかを推し量るような目をしている。
「魔人王って……2000年前の?」
「ええ。7つに分かたれた魔人王ですが、その封印のいくつかはすでに解き放たれているのですよ」
「な……!?」
それも10年以上も前にな! ここでオボロはすこし前のめりになる。
「……その話。どこで聞いた?」
「さて……。ですが我らがこの地に寄ったのは、あくまで使命の途中だということです」
「……………………」
オボロがこれまでとはまたちがった雰囲気で俺たちを見てくる。
アハトさんはあれだな……実は伝説の存在を倒す使命を帯びてましたロールプレイがはじまっているな……。
リュインも自信満々な様子で胸を張った。
「そうよ! わたしたちはなにより、四聖剣探しを優先しているの! ルシアのファルクに入るのもわるくない話だけど。しばらくはいろんな大陸を行ったり来たりするもの! 特定のファルクだけで働き続けることはできないわ!」
俺はそんな使命を帯びていないが、結果として言いたいことはリュインが話してくれた。
要するに自分たちのことで忙しいから、ルシアの元に居続けることはむずかしいという話だ。
「え……マグナたち、冒険者になるために魔獣大陸に来たんじゃないの?」
「いや、まぁ……。冒険者になりにきたのは間違いないが、それが目的というわけじゃないというか……」
うそです! 冒険者になるのが目的で来ました! そしてすんごい冒険者として、名を馳せようと考えていました!
だが渡りに船とばかりに、俺も魔人王やら四聖剣絡みでここに来たんだ感を出しておく。
く……いつの間にかアハトのロールプレイに付き合わされている……!
「そう……冒険者を本分としているというわけではなかったのね……」
ルシアはすこし残念そうに目を伏せる。そこにアハトは優しく声をかけた。
「ええ。ですがわたしたちはこれから何度もこの地へ来るでしょう。その間であれば、特別に手を貸しても構いませんよ」
「え……」
「いいですよね? マグナ」
ああ……なるほどね。つまりアハトははじめから、この落としどころに持っていくつもりだったのだ。
常にルシアに協力することはむずかしい。ずっと魔獣大陸にいるわけではないからだ。
しかしこの地にいる間でよければ、ルシアファミリーの一員として働くことは構わないと。
まぁそれならたしかに問題ないかな。俺自身がファルクを結成するのは、かなりハードルが高そうだし。
それにルシアの夢に手を貸してやるというのも面白そうだ。たぶんアハトもそう思ったんだろう。
「そういうことなら構わないぜ! いつも協力できるわけではないが……魔獣大陸にいる時であれば、ルシアに手を貸してやるよ!」
「ほんと!?」
自由出社でいいってことだもんな! べつに金には困っていないし、冒険者もこれくらいの距離感でやるのがちょうどいいかもしれない。
「それじゃあ……あらためて。よろしくね、みんな!」
俺とアハトはルシアと握手を交わす。リュインとはハイタッチをしていた。
「3人はまだしばらく魔獣大陸にいるのかしら?」
「そうだな……」
できれば他大陸への足がかりも作りに行きたいんだが。それもべつに急いでいるわけではない。
どう答えようかと考えていたら、耳元に声が届いた。
『もうすこしこの地で情報を集めておいた方がいいだろう。ここには各大陸からさまざまな人種がやってくるからな』
リリアベルはまだここにいるべきだと考えているようだ。
たしかにノウルクレート王国以外だと、他にどういう国があるのかまったく知らねぇしな。
『それにもうすこしここで得られる魔獣素材をシグニールに運んでおきたい。研究資料はいくらあっても邪魔ではないからな』
シグニールへの転送装置だが、この広大すぎる町のはずれにセットしていた。
たまにリリアベルのリクエストにこたえる形で、いろんな素材をシグニールに送っているのだ。
「……もうすこしだけここにいるつもりだ。ほら、まだ冒険者として知らないことが多いし」
「そう! なら明日も魔獣を狩りに行きましょう!」
「はいよ」
その後も食事を進めつつ、明日の段取りも決めていく。
ちなみにラングは昔、グランバルクファミリーに所属する料理人だったらしい。解散になってから、この地で店を構えたそうだ。
そうして時間も過ぎたところでお開きとなり、俺たちは宿へと向かった。
■
宿に向かって歩きながら、俺はさっそく気になっていた点をアハトに確認する。
「なぁアハト。人を相手にしている方が向いているとかなんとか言っていたよな? あれってどういう意味だ?」
俺が冒険者のいいと思う部分を語っていたときだ。
アハトは魔獣を相手にするより、人を相手にする方がいいみたいなことを言っていた。
彼女は顔はいつもどおり無表情のまま、なんてことのないように口を開く。
「そのままの意味です。魔獣は相手をしていても、人のように感情豊かではありませんから」
「……ん?」
「その点、ハルトの相手をしたときはよかったです。自分の腕に絶対の自信を持つ者が、圧倒的な格上を相手にして絶望を抱くその様は、なんど思い出してもいいものですから」
「うわぁ」
つまり戦闘相手に対し、強者感を出したいのだ。それも思いっきり。
たしかに魔獣だと、そうした感情の機微はなかなか読み取れないな。
……そういやこいつ、炎の槍を出す魔獣と初めて戦ったときも、そんなムーブをして遊んでいたわ。
「フフ……今から玖聖会の連中と戦うのが楽しみです」
「……楽しそうでなにより」
ちなみにリュインは右へ左へフラフラしながら飛んでいる。酒飲みすぎたな……。
「おいリュイン。あんまり離れんな」
「うぅ~~……なんだか空飛んでいるみたいぃ……」
「実際飛んでるわ!」
彼女はそのまま俺の側まで飛んでくる。そして肩に乗った。
「ふぅ~~……しばらくここで休ませたもらうわ……」
「はいはい。んで、よかったのか? ルシアに協力することになってよ」
あらためてアハトに確認すると、彼女はうなずきを返した。
「ええ。魔獣大陸にいる時限定でルシアファミリーに所属するというのは、わるい話ではないでしょう」
『それなりに注目も集めているみたいだったな。下手なファルクに入るより、持っている界隈の情報も多そうだ』
ああ……たしかにそれはあるな。なにせ伝説となったファルク、そのマスターの孫だし。
レッドとオボロも、グランバルクファミリーにいた冒険者だったというわけだ。
「それに……ルシアの近くにいれば、おもしろいことが起こるかもしれません」
「…………ん? なにかあんのか?」
「ええ。今日狩りに行ったとき、巨大魔獣が出る前に空気振動を検知したのを覚えているでしょう?」
「ああ! そういやあったな! あれ、結局どういうことだったんだ?」
あのミミズ型魔獣が出る直前、アハトはたしかにそんなことを言っていた。
そのあとが急展開すぎて、すっかり忘れていたぜ……。
「異様な空気振動は上空から発生していました。発生源では四枚の羽を持つ鳥が、笛を吹いていたのですよ」
「…………鳥? 笛ぇ?」
「はい」
アハトの話では、その鳥の吹いていた笛こそが空気振動の発生源だったらしい。
いや、笛を吹く鳥とか意味わからん……と思ったけど、この星で起こる出来事だから今さらか。
彼女は俺が魔獣と戦っている間、その鳥を観察していたそうだ。鳥はさっさと北へ向かって飛び去ったらしい。
「で……鳥はその場にいた謎の男に、笛を渡したと」
「はい。かなり距離が離れていましたが……その男はレンズ状の道具を使用して、こちらの様子を伺っているみたいでしたね。おそらくは魔道具かと」
望遠鏡みたいな機能があるんだろうな。
だがそうなると、その男がなにを目的に鳥を寄越してきたのか……だが。
「もしかして……その笛が原因で、あの気持ちわるいミミズ魔獣が現れたのか?」
「さぁ……。魔道具と思わしき笛と、魔獣の関連性はなにも。わたしたちはとても悔しいことに、魔力を持っていませんからね」
「ああ、まったくだ!」
まだなにも情報はないが、ルシアの事情を知った今、いくつかの仮説は立てられる。
もしあのミミズが意図してけしかけられたものだとすれば。狙いは十中八九、ルシアだろうな。
「……ん? それじゃその男、もしかしたら俺の強さをしっかり見ていたかもしれないってことか!?」
「その可能性はありますね。なんにせよルシアの近くにいれば、ああした手合いと衝突するかもしれません。そのときはこの星光のアハト、全力で彼女を守る所存です」
「全力で相手を叩き潰す……の間違いだろ?」
アハトがルシアに限定的とはいえ協力する理由がわかってしまった。
彼女を守るという名目で、屈強な冒険者たちと戦えるのを期待しているのだろう。物騒な戦闘用アンドロイド様だこと……。
その時だった。肩に乗るリュインから、不気味な揺れを感じとる。
「う……うげえぇぇぇ……」
「おおおおおい!? お前、そこで吐くんじゃねええぇぇぇ!」
結局この日は宿ではなくシグニールまで戻り、俺はリリアベルに新たな服をもらったのだった。
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