第10話 遭難した惑星の王都に初めてやってきました。見慣れない人たちがたくさんいます……。
「はぇ~~……すっげぇ町だなぁ……」
「わたしも王都に来たのははじめて!」
『想像していたよりも人が多いな』
「〈フェルン〉も何体か確認できますね」
ノウルクレート王国の王都、クレートブルク。俺たちはその往来を歩いていた。
「マグナさん、アハトさん。魔晶核を譲っていただき、ありがとうございました。またなにかございましたら、いつでもたずねてきてください」
「ああ! レグザさんもありがとな! 王都まで連れてきてくれて!」
レグザさんに魔晶核を手渡し、代わりに金を受け取る。また彼には、ものすごく簡易的な王都地図も譲ってもらえた。俺たちはさっそくその地図を覗き込む。
(……なに書いてんのか、ぜんぜんわかんねぇ!)
当然だが俺はこの国の文字などまったく読めない。だが地図の絵でおおよその雰囲気は伝わってきていた。
「北にはお城、そしてそれを取り囲むような壁……と」
『レグザの話によると、壁の中が貴族街なのだったな』
そういやレグザさん、貴族に魔晶核を売りにいくんだよな。壁の中に入るんだろうか。
買い取った貴族は、魔晶核を魔道具作成に使用するのだろう。魔道具についてはレグザさんも、リュインと同じ理解度だった。
すなわち魔力を持つ者が使用する道具、という認識だ。
「…………つかさ。さっきからめっちゃ気になっていることがあるんだけど……」
『奇遇だな。わたしもだ』
「ええ。この光景……心躍るものがあります」
王都は広大で、どこも活気がある。数は少ないが、〈フェルン〉も飛んでるしな。
だが目の前を歩いているのは、人間と〈フェルン〉だけではなかった。
「け……ケモミミ!? 獣人がいんのかよ!?」
『頭に角を生やした種族もいるな』
そう。どう見ても亜人がヒューマンタイプと同じ生活圏で暮らしているのだ。
通常、複数種の知的生命体が同じ星で文明を発展させることはない。最初期はありえても、時の経過とともに弱い種族は淘汰されていき、やがて一つの種族が反映するものなのだ。
だというのにこの光景を見ると、異なる種族同士が同じ文明圏にいるようにしか思えなかった。
「え? マグナたちの世界では、獣人や勇角族はいないの?」
「なにそれ!?」
「ふふん。しょうがないなぁ。ここはリュインお姉さんが教えてあげるわ!」
「お前がお姉さんを名乗るには100年はやい」
リュインの話によると、いわゆる人種は5つに分類されているらしい。
俺たちのようなヒューマン……普人族、獣耳と尻尾を持つ獣人族。頭から角を生やした勇角族に、白い肌と長い耳が特徴的な白精族。そして竜の力を継承しているという、竜魔族だ。
「そんなにいんの!?」
「昔は他にもいたらしいんだけどー。あ、そうそう。この国の王族は獣人なのよ」
「へ……へ~ぇ……」
酒場らしき店の前で、セクシーな服を着た姉ちゃんが客の呼び込みをしている。その姉ちゃんも頭から耳が生えており、クルンと丸まった尻尾も見えた。
か……かわいい……! なかなかわるくないじゃねぇか……!
「いいですね……魔法のある世界です、やはりこうでなくては……」
アハトさんもなにに納得したのか、うんうんとうなずいている。
「そこのすんごい美人を連れたお兄さーん! うちで飲んでいかない!? 今日は肉盛りセットがなんと1200エルクよ!」
セクシー獣耳お姉さんがこちらに声をかけてくる。これに反応したのはリュインだった。
「いいじゃん、マグナ! もう夜だし! ね、ね! お肉食べてお酒飲みましょ!」
「そ……そうだな。この世界の酒ってのがどういうものか、俺も気になるし……!」
「やったぁ! 3名様ごあんな~い!」
そんなわけで、俺たちはお姉さんに案内されて酒場へと入ったのだった。
■
酒場に入っていったマグナたちを遠くから見ていた男がいた。レグザの護衛をしていた剣士、クザである。
彼は駆け足で王都を駆ける。そして薄暗い路地裏へと入った。
(このこと……! はやくボスに報告しねぇと……!)
路地裏を抜けると、表通りとは大きく雰囲気が変わる。気だるげな目をした女性や、見るからに気性の荒そうな男たちが舌打ちしながら歩いていた。
クザはそのまま迷わず一つの屋敷へと向かう。見るからに古そうな建物が多い中で、その屋敷は一際大きかった。門の前にいる男がクザに気づく。
「おうクザ。ご苦労だったな。仕事終わりの報告か?」
「ああ。それと至急ボスに伝えたいことがある」
「……なんだと?」
「例の優先事項に抵触すんだよ」
「…………! すぐボスに確認する!」
クザはそのまま門番の男と共に屋敷へと入る。しばらくしてボスの部屋へと呼ばれた。
「失礼します……」
「おうクザぁ。商人の護衛、ご苦労だったなぁ」
その男は腰に布を巻いただけの恰好で、椅子に座っていた。隣のベッドでは裸の女が寝ている。きっと借金かなにかで連れて来られた娘か誰かだろう。
「んでぇ? 俺になんの報告があるってぇ?」
「は……はい。レグザの護衛をしている最中で、気になる奴らと会いまして……」
その男は、界隈ではすこし名の知れたアウトロー……暴力組織を束ねる立場にあった。名をギルンという。
彼は王都において、自分の縄張りで商売をする商人に対し、一定の金額を要求していた。
レグザも彼の組織に金を納めている商人の1人だ。ギルンはそうした商人が王都の外へ出る際には、特別価格で護衛を融通したりもしていた。
「ものを知らねぇアホそうな男と、これまで見たことないくらいにとびきり美しい女……それに〈フェルン〉です」
「…………! ほう……!」
クザはマグナたちの特徴を事細かに話していく。とくにギルンが興味を示したのは、アハトとリュインだった。
「そんなに美しい女だったのか……」
「はい。白に近い薄紫の髪は結い上げていましたが、下ろすと高貴なオーラがよく出るでしょうね。ありゃどう見ても貴族です」
「で……そいつらがあのキルヴィス大森林で魔獣を狩っていたと。そして実際に高品質な魔晶核を持っていた……」
「魔晶核も本当に見事なものでしたぜ。レグザが買い取りましたが……おそらくアハトの力で討伐した魔獣から採取したものでしょう」
ギルンはクザの情報から、頭の中で2人の関係性を推察していく。
「アハト……いかにも偽名っぽいな。あの森で高レベルの魔獣を狩れるんだ、おそらくは強い魔力を持つ高位貴族……」
「へい。マグナという男は荷物持ち兼、魔獣を解体するために雇われた平民か従者でしょう。レグザとの会話も、率先して行っていましたし」
「主人の意を汲んで、直接レグザの応対をしていたわけか」
あれほどの魔晶核、キルヴィス大森林の奥地へ入らなければ手に入れることができない。そしてそんな場所で魔獣と遭遇し、それを降せる者となれば、強力な魔力持ちにちがいない。
魔力は貴族に多く発現する力だ。とくに血統をコントロールしてきた高位貴族ほど、より強い魔力に覚醒しやすい。これは一部の種族を除いて、共通の認識である。
「マグナの持っていた袋には、他にもいろいろ戦利品が入っている感じでした。狩りを終えて、目ぼしいものは全部荷物持ちとして整理していたのでしょう」
「ふん……魔力自慢のお貴族さまの道楽か。しかも〈フェルン〉まで手懐けていると……」
基本的に〈フェルン〉というのは、自由気ままな者が多い。中には人間に懐く者もいるが、そうした例は多いわけではない。
数こそ少ないが、王都にも〈フェルン〉は飛んでいる。しかし彼女たちは、不用意に人間が近づくとすぐ空へ逃げてしまう。鳥のようなものだ。
(王都を仕切る闇組織……最近あそこから、〈フェルン〉を連れてきた組織には、莫大な報酬を用意すると通達があったな……)
ギルンの束ねるような組織は、王都にはそこらじゅうに存在している。彼らはときに縄張り争いをしながら牽制し合っていた。
だが地域振興会の域は出ない。本気で犯罪に手を染めれば、それこそ騎士団が嬉々として出張ってくる可能性があるからだ。
貴族や彼らとうまく付き合っていくのも、ここで長く稼業を続けていくためのコツである。
しかし中には、完全に犯罪に手を染めている闇組織もあった。そこから接触があったのだ。〈フェルン〉を捕えたら、望む報酬を用意すると。
(ふん……〈フェルン〉を求める闇組織だ、幹部連中に精霊化を果たしたバケモンでもいるんだろうが……この王都で人に懐いた〈フェルン〉というのは珍しい……)
「連中、今は酒場で飯を食っています」
「………………」
どうするか……とギルンは考える。正直言って報酬はかなり魅力的だ。貴族への賄賂を含め、金はいくらあっても足りないくらいなのだ。
またアハトたちも、高品質の魔晶核を安値で渡せるくらいには戦利品に余裕があるのだろう。〈フェルン〉と合わせて、荷物持ちのマグナが持つ袋の中身にも興味がある。
「なんだ? なにを迷っている? そこに大金が転がっているんだ、さっさと腕を伸ばせばいいだろう?」
「………………!?」
後ろから声をかけられたことで、クザは即座に首をまわす。いつのまにかそこには、背の高い男が立っていた。
「は、ハルト……!」
「あん? ハルトさん、だろぉ? 元一番さんよぉ」
「く……!」
ハルトは最近ギルンに雇われた剣士だった。クザはその来歴を知らないが、腕はたしかだ。
クザはこれまでギルンの組織内で最も腕の立つ剣士として名を馳せていたが、新参のハルトとは天と地ほどに実力差があった。
ギルンはハルトが部屋に入ってきたことに気づいていたのか、落ち着いた様子で話しかける。
「聞いていただろぉ? 相手はキルヴィス大森林の奥深くで、魔獣を狩れるほどの魔力持ちだ。……お前ならいけんのかぁ?」
「だれに言ってんだ? ……おいクザよ。そのアハトって女。体格は? 指はどんな感じだったよ?」
「…………体格はどちらかと言えばやせているが、身長は女にしてはすこし背の高い感じだ。指は細いし、手に傷や染みもまったく見えなかったな」
「だろぉ? 魔力自慢の貴族令嬢ってのはな。身体は鍛えないし、実戦経験も少ねぇもんなんだよ」
そう言うとハルトはなれなれしくクザの肩を叩く。
「ところで……だ。ここに高位貴族並の魔力を持ち、実戦経験も死ぬほど豊富な男がいるんだが……お前なら俺とアハトという女。どっちが勝つと思うよ。ん?」
「……………………ハルト……さん、だ」
クザとてアハトが直接戦ったところを見たわけではない。だがだれがどう見ても、ハルトの方が強いと答えるだろう。
「そういうわけだ。ま、俺に任せとけって」
「ふん……いいだろう。だがしくじっても、俺の名は出すなよぉ?」
「しくじらねぇよ。くく……たまにはそこそこレベルの奴とヤらねぇと、腕が鈍っちまうからなぁ……」
そう言うとハルトは、腰に挿したカタナの柄に手をのせる。
「〈フェルン〉も捕まえてきてやるよ。ついでに平民の荷物持ちが持っている袋もな。だがアハトという女は俺がもらうぜ?」
「いいだろう。クザ、お前も何人か連れてハルトを手伝ってやれ」
「了解です」
指示を受けたクザは部屋を出ると、さっそく何人かに声をかけはじめる。彼の声を遠くに聞きながら、ハルトは笑みを深めた。
「くっ……くく……。さてさて、楽しみだねぇ」
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