第8話 いよいよ森を出ていく決意をした。

 骸骨との遭遇、そして翻訳機が完成したことで、リュインからかなりの情報を得ることができた。


 そしてその日の夜。いよいよこの森を出るにあたって、リリアベルがミーティングを開いていた。といっても参加者は俺だけなのだが。


「明日でよくない? だいたいなんで俺だけなんだよ」


『話す内容は決まっているからな。アハトにはあとでデータを送れば済む話だ』


「こういうとき、アンドロイドはうらやましいと思うわ」


 翻訳プログラムも完成と同時にインストールできるし。報告連絡も顔を合わせずとも、ぱぱっとできるからな。


「それで? なにを話すんだよ?」


『森を出るにあたって、これまでと大きく環境が変化することになる。まずは具体的になにが変わるのか。それを認識しておいてもらう』


 そう言うとスクリーンに文字が映し出される。そこにはリリアベルが話す内容についての要点がまとめられていた。


「これは……」


『書いているとおりだ。まず〈クルシャス〉を含むアハトの武装は転送できない』


 骸骨の群れを一瞬で粉砕したガトリング砲〈クルシャス〉。シグニールには他にもアハト専用武装が搭載されているが、その転送範囲はあくまで森の中に限られるらしい。


『単純な話、転送範囲に距離制限があるのだ。シグニールをここから動かせない以上、森を出るとアハトの武装は使用不可能になる』


「……なるほど」


 シグニールの動力である光子リアクターの出力を上げることができれば、転送範囲の拡大は可能らしい。


 だが現状修理の目途はたっていないし、やはりアハトの武装には頼れそうにないな。


「また精霊化した奴が襲いかかってきたら、面倒になるかも……か」


『リュインを狙ってくる奴はいそうだからな。あの骨みたいな奴が相手になると、お前のフォトンブレイドで対応するか……もしくはアハトがスペックでゴリ押すかだ』


 骸骨にしても、あの程度なら脅威にはならないだろう。ただ面倒だというだけだ。


「まぁいいんじゃねぇの? あれだ、機動鎧と同じ理屈だろ? 森の外でアハトが兵装使いまくったら、わる目立ちするとかいう」


『そうだな』


 リリアベルも俺に対し、アハトの武装を切り札にするなよと言いたいだけだろう。アハト自身が切り札なところがあるし、ここはなにも問題ない。


『それとこの数日で、簡易転移装置を作成した』


「ん? なにそれ」


『このシグニールを起点にした移動装置だ』


 それを使えば、いつでもシグニールに転移可能らしい。つまり艦の様子を見にきたり、便利な倉庫としても使用可能になるというわけだ。


「めちゃくちゃ便利じゃねぇか……!」


『設置にあたって、いくつか制限があるがな』


 リリアベルが言うには、一度設置した転移装置はその場から動かせないらしい。最初に設定した座標で固定し、シグニールと転移装置を個別で紐づけする必要があるためのようだ。


「なんだってそんな玄人仕様に……」


『ここが未知の惑星であるためだ。一応、墜落前に惑星外周や自転速度などは計測しているが。有機物の転送に、事故のリスクは可能な限り下げる必要があるからな』


 言っている意味はよくわからなかったが、要するに転送確率を安定させるための処置らしい。


「つまり設置場所は慎重に選べと言いたいんだろ」


『そうだ。今作成できている分だが、ちょうど3つになる。1つは森を出た場所に設置すればいいだろう』


 リリアベルは転移装置を使用するにあたって、いくつか注意点も述べていく。


 まず転移できる対象は登録した人物のみ。また持ち運びできる荷物の大きさにも制限があるとのことだった。


『この辺りも後々の改良次第で、より大きな物も転送できるようになるだろう』


 ちなみに連続使用にも限りがあるようだ。俺やアハトがそろって使用すると、次に使えるようになるまでタイムラグがあるらしい。


『設置した転移装置間での移動も不可能だ。どこから転移しても、移動先はここシグニール艦内に固定される』


「逆に言えば、シグニールを経由すればいろんな場所に一瞬で移動可能というわけだ」


 引き続きシグニールを活動拠点として活用できそうだな。ここでしかできないことも多いし、これはありがたい。


『それと。シグニールを完全修復する必要はないが、動力はある程度確保しておきたい。具体的には光子リアクターを、一定基準値以上の出力が出せるようにしようと考えている』


「転送範囲拡大のためか?」


『それもある。他にもフォトンブレイドの強化やアハトの武装メンテナンス、またわたし自身の研究にも活用したい』


 まぁ魔力や魔術、精霊なんてものが存在する世界だからな。フォトンブレイドは切り札になるし、シグニール自体の機能拡張はしておいて損はないだろう。


(拠点のレベルが上がると、普段の活動全般に恩恵が受けられるようになる……というイメージかね)


 またリリアベルの話によると、機動鎧エルベイジュの転送も可能になるらしい。つまり俺の切り札が増えるというわけだ。


 ……実際に使う機会があるのかは別として、だけど。


「わかった。なにをすればいい?」


『修理に使えそうな素材サンプルを集めるんだ。成分分析や精製はこちらでやる』


「なんでもいいから、使えそうなものをどんどんここに運べというわけだな」


 シグニールでできることが増えて、一番恩恵を受けられるのは俺だからな。リリアベルもなにかやりたいことがあるみたいだけど。


「森を出たらまずは転移装置の設置。それと人とコミュニケーションを取りつつ、いろいろ情報を集める。あとはリュインの聖剣探しに付き合いつつ、溜まった素材をシグニールに送る。同時に冒険者も目指す……こんなところか」


 こうして並べてみると、やることが多いように感じるな! 


 まぁまだこの星のことをなにも知らない状態だし。情報収集が一番大変そうではあるが。


『それとこの星で活動するための服を用意した』


「……服ぅ?」


『その恰好では目立つ。今日の襲撃で、骨どもが身につけていた服があっただろう。あれとリュインの服を見て、この星の文明レベルでどういった服飾が作られているのか、あたりをつけることができたからな。アハトの分も用意しておいた』


 なるほどね! さすがリリアベルさん、細かいところに気がつく。


 たしかにこの服……帝国宇宙軍の軍服やパイロットスーツでは、かなり目立つことになりそうだ。


「くく……いよいよここから、マグナ様の冒険がはじまるってわけだ……!」


『いいか。くれぐれもその辺に生えている得体の知れないキノコを勝手に食べるなよ』


「お前、俺をなんだと思ってんの?」


 リリアベルとのミーティングを終えて、俺は自室に戻る。そして明日からのことに胸を躍らせつつ、眠りについたのだった。





「おお……! いい感じじゃねぇの!」


 次の日。俺はさっそくリリアベルが用意してくれた服に袖をとおしていた。


 鏡を見ると、そこには封建時代を舞台にした映画の登場人物が着ていそうな……どこかレトロな服を着た俺が映っていた。


 腰には皮のベルトを巻いており、そこに剣を挿せるようになっている。


 派手すぎず、まさに庶民という感じだ。正直言って軍服のほうがかっこいい。だがこの星に溶け込んだような気がして、わるい気はしていなかった。


「おまたせしました」


 アハトがリュインと一緒にフロアへ入ってくる。その姿も大きく変わっていた。


「お……おお……!」


 アハトは一言で言えば、ミニスカ騎士という出で立ちだった。


 どことなく軍服っぽいジャケット、それに黒いミニスカート。上着の下に見える肌着は、水着のようにぴったりと身体にフィットしている。


 また太ももまで伸びる白いソックスが、とてもいい味を出していた。


「ジャケットとスカート、それに靴下を脱げば、すぐに泳げますね」


「いや、本当に水着なんかい」


 水着として作られたというわけではないのだろうが、どうやら肌着は、ハイレグレオタードなデザインをしているようだ。


 アハトは髪を後頭部でまとめており、やはりどう見ても女騎士風という雰囲気だった。その美貌もあって、とても凛々しい。というか。


「アハトはハルバードなんだな」


 彼女はその手に、自分の身長よりも長い斧槍を持っていた。


 これもとても様になっている。本当に服装と髪型で、雰囲気がガラッと変わる奴だな。


「フ……。わたしは武器は選びませんが。剣だとマグナと被るので、リリアベルにリクエストしてハルバードにしてもらいました」


「ほぉ……いいじゃないか」


「うんうん! ほんと、アハトったらなに着てもすんごい美人よねぇ!」


 たぶん素手の方が強いだろうけど。素材的に。


『昨日遭遇した骨どもだが、使用している武器は剣にメイス、槍と斧だったからな。おそらく恰好と合わせて違和感はないはずだ』


「つかアハトはいかにも凛々しい感じなのに、どうして俺は一般庶民のような服装なんだ?」


『お前はなに着てもだいたい印象は変わらん』


「どういう意味でぇ!?」


 失礼な……! 一級帝国民にして名門生まれのボンボン育ちだぞ。銀河でも上から数えた方がはやいくらいには、カースト上位の存在だというのに。


「よぉし! とにかく準備は整ったんだ! さっそく行こうぜ!」


 いよいよだ。いよいよ自分の意思で、俺は不時着地点から大きく離れ、この星の知的生命体が築くコミュニティに接近しようとしている。


 まぁ転移装置もあるし、すぐ戻ってこられるんだけど。


 まだまだ謎の多い星だし、きっといろんな発見がまっているだろう。なんだか冒険がはじまるみたいで、年甲斐もなくドキドキしているな。


「さぁみんな! 四聖剣を見つける旅に出るわよ!」


「フ……。星光のアハト、いざ参ります」


『最低でも解剖用、観察用、実験用、保管用の〈フェルン〉を各5体は確保したいところだ』


「ヒッ!?」


 ボソッと呟かれたリリアベルさんの言葉を受けて、リュインはビクリと肩を震わせる。


 まぁまさかリリアベルも本気で言っているわけではないだろう。……ないよね?


 なにが待っているかはわからねぇが……! 行くぜ! 森の外へ!





【みんなの装備とか】


■シグニール 拠点レベル1

・まだアハト武装の転送範囲は森の中限定であり、できることも限られている。光子リアクターはものすごく低出力で稼働できるようにはなった。


■マグナ・ウォルゼルド

・武装

〈フォトンブレイド〉

 だいたいなんでも斬れる。一度展開すると再使用に時間がかかる。


〈グナ剣〉

 リリアベルがシグニールの廃材から作成した、グナディウム製の剣。略してグナ剣。おおよそなんでも斬れる。


〈機動鎧エルベイジュ〉

 専用機。純帝国人くらいの頑健な身体の持ち主でなければ、まともに操縦ができないくらいの性能。


・防具

〈普通に見える服〉

 一般ピーポーの着ていそうな服。耐熱、防刃性に優れ、難燃性である。


・その他

〈翻訳機〉

 首飾り状になっており、身につけているだけで自動翻訳してくれる。


〈軍用コンタクトレンズ〉

 ドローンやリリアベルと連携することで、視界に様々な情報を映し出せる。また夜でも周囲をくっきりと見られる優れもの。


■星光のアハト

・武装

〈ボディ〉

 最強。帝国科学者のロマンが詰まっている。


〈外部兵装〉

 ガトリング砲など。他にも危険な武装がいっぱい。今は森の中でないと使用できない。


〈内蔵兵装〉

 いろいろ。どれもすごいが、外部兵装と違って自分の動力からエネルギーを消耗する。


〈閃星煌刃アークマルド〉

 アハト命名。リリアベルがシグニールの廃材から作成した、グナディウム製のハルバード。必殺技である七星雷轟刃が使えるが、技名はその時の気分で変わる。


・防具

〈ボディ〉

 最硬。帝国科学者のロマンが詰まっている。


〈騎士っぽい服〉

 ジャケットとミニスカートを脱げば、水着としても使用できる。らしい。撥水性もばつぐん。


・その他

〈ボディ〉

 いろいろできる。帝国科学者のロマンが詰まっている。


■リュイン

・武装

〈針〉

 普通の針。腰に剣っぽく挿している。


〈魔術〉

 いちおう使えるらしい。


・防具

〈かわいらしいドレス〉

 防具としての性能は皆無。

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