第7話 妖精さん……リュインが仲間に加わった。歌と踊りが得意らしい。
「…………パーティだぁ?」
あれだな。チームを組もうという意味だよな。しかしリュインの意図が読めない。
「なんだそれ。お前と組んでなにするってんだ?」
「ふっふっふ……実はわたしには、大いなる野望があるのよ……!」
リュインは背中の羽を輝かせると、俺たちの中心で高く飛ぶ。そして両手で自分の腰を掴み、ない胸を張ってみせた。
「ずばり! ものすんごい魔術師になって……! 四聖剣を手に入れ、大精霊様に願いを叶えてもらうのよ!」
「………………はい? しせーけん……?」
「あ! そういえば魔神王の話も知らないのよね」
「ほう……魔神王、ですか……」
またアハトさんがすっごく興味を示してらっしゃる。まぁ俺もだけど!
「約2000年前だけど。魔神王と人間の間で、ものすんごい戦いがあったのよ!」
「すっげぇざっくりしてんな」
「で、その時に人間の味方をした4人の〈フェルン〉がいたんだけど……。彼女たちは全員、すんごい聖剣を持っていたの! それが四聖剣よ!」
「いやだからざっくりしすぎだろ」
四本の聖剣は行方知れずになっているらしいが、〈フェルン〉たちは聖剣に込められた力を用いて大精霊とやらを召喚したらしい。
なんでも大精霊にはどんな願いも叶える力があるとか。
説明が大味すぎるのは、たぶんリュイン自身もくわしく知らないんだろうな。
「わたしと組むことで、マグナたちにはいくつものメリットがあるわ!」
「なんだ、言ってみろよ」
「1つ。異世界から来てなにも知らないマグナに、いろいろ教えてあげられる」
「お前も物事にすっげぇくわしいわけでもなさそうだけどな」
しかし精霊や魔術など、この星に住む者にとっての基本知識が俺たちに欠けているのも事実。
おおよその情報は聞き出せたが、リュインがいることで邪魔になることはない。
「2つ。わたしはこれからどんどん強力な魔術を使えるようになるわ。つまり将来性抜群な戦力というわけよ!」
「その魔術でアハト並のことはできんの?」
「う……。あ、あれはちょっと規格外よ……」
たぶん〈フェルン〉は短命だ。外敵が多いからな。長く生きられる個体は少ないが、そうした者は強力な魔術の使い手として知られている……か。
それがいつになるのかはわからないが、将来性があるのは確かなんだろう。まぁアハトがいる時点で、戦力には困っていないのだが。
「3つ。いつでもかわいいわたしの姿を見られるし、この美声も聞けるわ! 歌も踊りもすっごくうまいんだから!」
「…………なるほど」
正直、これは俺にとってポイントが高い。いやだってモノホンの妖精だし! こんなかわいい妖精を連れてファンタジー世界を旅するとか、すっげぇ魅力的やん!
前2つはわりとどうでもいいが、この3つ目の条件だけでパーティを組んでもいいと思える。
「そして4つ目! 大精霊様を召喚できたら、特別にマグナたちの願いも叶えてもらえるように、わたしからお願いしてあげる!」
「……………………」
これが一番マユツバなんだよなぁ……。いや、魔法のある世界だってのは理解しているが。2000年前の伝説かなにかだろ?
だいたいなんだ、魔力を持つリアル魔獣のいる世界で魔神王って。
「世界のどこかに封じられた四聖剣……! これを最初に見つける〈フェルン〉はこのわたしよ!」
「……2000年も経っているんだろ? これまでいろんな人間が探してきたんじゃねぇの?」
「そういう人間もいるでしょうけど。でも四聖剣は〈フェルン〉にしか扱えないし、大精霊召喚も同じく〈フェルン〉にしかできないのよ」
「そうなの? なんで?」
「さぁ?」
知らねぇのかよ! だがまぁリュインが俺たちと組みたい理由はなんとなく理解できた。
リュインには叶えたい夢がある。それに俺たちを巻き込むことで、その夢をより確かなものにしたいのだろう。俺たちの実力は見たばかりだしな。
あとは単純に、別世界から来た人間に対する興味もあるだろう。リリアベルがこの星に興味を持つように、リュインもまた自分の知らないことを知りたいという欲求があるのだ。……たぶん。
そしてリュインは自分の提案が、本気で俺たちが彼女とチームを組む上でメリットになると考えている。顔見たらわかる。すっげぇ自信満々なんだもん。
アハトに視線を向けるが、相変わらずの無表情だった。続いてリリアベルにも視線を向ける。
『お前の好きにするといい。わたしはべつにどちらでも構わん……が。古代遺物には関心があるな』
こういう世界のモノともなれば、なおさらだろう。
ま、とくに邪魔になるわけでもねぇし。ここであったのもなにかの縁だ、これくらいはいいか。
「ま、そういうことならべつに構わないぜ。これからよろしくな、リュイン!」
「ほんと!? やったぁ!」
こうして素直に喜んでもらえると、まぁわるくない気分だな。
「くふふ……! これでちゃんとしたご飯にありつけるわ……! それに腐れアンデッドが来ても、サクっとやっつけられる……! ふ、ふひ……! 伝説の四聖剣を手に入れ、あの生意気な女を思い知らせてやる……!」
「邪悪なオーラが隠せてねぇな……」
ひとしきり邪悪な笑いをしたところで、リュインはこちらを向く。
「コホン……。まぁあれよ。大精霊様にお願いすれば、マグナも元の世界に戻れるかもしれないでしょ?」
「あー……だったらいいねぇ……」
宇宙の概念もない星の精霊様が叶えてくれるには、かなり無理がありそうだけどな!
『ときにリュイン。この森を出て、どこか人里はあるか?』
「ん~、そうね。東に行けばノウルクレート王国領だし、適当に歩けばいい感じの町があるはずよ!」
「お前、だいたいの説明が大味だよな……」
常にざっくりしているんだよなぁ……。
『西はどうなっている?』
「あー、なんとかっていう国がたくさんあったような……?」
「あ、曖昧すぎる……!」
とりあえず森を出たら、東にあるという王国に行ってみるか。そう結論が出たところで、アハトがそういえばと口を開いた。
「リュイン。この辺りの魔獣からは時折、謎の石が採取できるのですが」
『ちょうどわたしもそのことを聞こうと思っていた。リュイン、魔獣の体内にある石について、なにかしっていることはあるか?』
おお……すっかり忘れてたぜ! そういやそんな謎石があったわ。
ん……? たしかリュインも、あの石を見て驚いていたような……?
「魔晶核ね! びっくりしたわ~、まさかあれほど高純度かつ大きなものがあるなんて」
『ほう……魔晶核というのか。どういうものなんだ?』
驚いた。あの石、ちゃんと名前があったらしい。だがリュインから出てきた言葉を聞いて、さらに驚く。
「魔晶核というのは、魔力を持つ魔獣から取れる魔獣素材の一つよ。だいたいの魔道具はこれがないと作成できないの」
「…………! ま、魔道具……!」
これまた心くすぐるキーワードだ。
リュインの話によると、この世界には魔力持ちにしか扱えない特殊な道具……魔道具なるものが存在しているらしい。
「魔晶核には属性と品質があるの。色のキレイさで属性の強さがわかるんだけど。ここにあるのはすべて高品質なもので間違いないわ!」
「……ちなみに金になったりは?」
「もちろんするわ。魔獣大陸で活動する冒険者たちも、こうした魔獣素材を卸すことで稼ぎを作っているもの」
なるほどね……! 換金できるというのはありがたいな……!
俺たちが持っていてもただのキレイな石ってだけだし。
『ふむ……? 魔獣大陸というのは、その名のとおり魔獣が生息している大陸だな? ここにいる魔獣はなんだ?』
「えぇと……たしかアレね。普通は魔獣の生息する地域って限られているの。でも魔獣大陸は、全域に渡って魔獣が生息している……とか、そんな感じ……?」
「なんで自信さなげなんだ……」
ここで疑問を持ったのはアハトだった。
「リュイン。おそらく魔晶核というのは、魔力が強い個体……つまり討伐難易度が高い個体ほど、高品質なものが採取できるのではないですか?」
「うん、そうよ」
「ここにある魔晶核は、どれも高品質とのことでしたね。この辺りの魔獣は、他の地域に生息する魔獣と比較して強力なのですか?」
強い魔獣ほどより価値のある素材が回収できる。これもまぁお約束だが、どうやらこの星でも通じていたらしい。
「とても強力よ。この辺りはキルヴィス大森林と呼ばれていて、大陸でも有数の危険地帯として知られているわ。わたしは飛べるから、こうして森の奥深くまで入って来られたけど。普通の人間だともっと浅い部分までしか潜れないわね」
ああ……なるほど。あの魔獣、たしかに並のヒューマンだと一人で狩れないだろうとは思っていたが。そもそも人がよりつく地じゃなかったのか。
それならそれでシグニールも隠し通せるし。とくに問題はないか。
「魔獣大陸に生息する魔獣よりも、ここの魔獣の方が強力なのですか?」
「それはわからないわ。わたしも魔獣大陸には行ったことがないし。たぶん最深部に行けば、魔獣大陸の方がより狂暴な魔獣がいると思うけど……」
聞いている限りだと、魔獣は狩れば金になる。それに魔獣素材として人々の生活に活用もされている。
だからこそそんな魔獣が広い地域で生息している魔獣大陸に、冒険者と呼ばれる者たちが集まるのだろう。
ではそれ以外の大陸で、なぜ冒険者が活動していないのか。
おそらくまったくのゼロというわけではないのだろう。しかしどうせなら、目的を同じくする者たちが集う地で活動した方がメリットが大きいのだ。
商人からすればどういった層が集まっているのか、マーケティングの必要もない。商人は商売がしやすいだろうし、冒険者に需要のありそうな物を持ち込んでくる。
冒険者側も同業者間で情報の共有や共闘など、活動しやすい環境が整っていると推察できる。
同じ魔獣狩りを行うにあたって、リスク管理とメリット、それに冒険者に有利なインフラも整っているのが魔獣大陸なのだろう。
おそらく素材買い取りのルートも構築されているだろうし。
「人間の中に、この付近に現れる魔獣を単独で討伐できる者はいますか?」
「それはいるわ」
「え……」
まじで!? そんな奴、いないと思っていた……!
「もちろん多くはないけど。強力な魔力持ちや、冒険者のトップランカーなんかは単独撃破できるでしょうね。……あ、でも。さすがにアハトみたいに、腐れアンデッドの大群を一瞬で消せるのはそうそういないけど。あとマグナみたいに、スパッと位の高い精霊を斬れる人もね」
まぁありゃリリアベル特製フォトンブレイドのおかげだが。
ああ……そういやあの時、リュインはフォトンブレイドを見て聖剣だと言っていたな。見たことのない剣だったから、自分の探し求めている四聖剣の一つだと思ったのか。
『ふぅむ……やはりこの星は興味深いな。森を出るのが楽しみだぞ』
「おう。そりゃ俺もだな!」
「フ……わたしもです」
あらためて方針を立てたところで、俺たちは飯にする。アハトはとくに食べる必要がないのだが、普通に肉を食っていた。
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