第12話 カエデ
「レノン、ツバキ……」
「どうしたの、」
「カエデ、最近……、」
「お父さん、死んじゃったんだよね」
「え」
「死んじゃった。」
「一番大好きだったの、お父さんが。」
「私のお母さんは、音楽しか目にない」
「どうしよう、これ以上はなにもできないよ、」
「嫌いになったら殺されちゃうよ」
「死んじゃうよ!」
「どうしたらいいの、!」
そう話した数日後に、顔色が悪くなったカエデが来ていた。
「親が、再婚した」
「お父さんが、死んだから……、」
「カエデ、落ち着こうよ、」
「だってほら、」
「新しいお父さん、できたんでしょ」
「違うの、そういうことじゃない!!」
「私の家は……、」
「音楽に、すべてを尽くしてる」
「音楽しか、頭にない」
「もう、嫌だよ、こんな家族。」
「この前もコンテストに出て、」
「準優勝、しちゃったの」
「だから、もう、逃げられない」
「優勝目指せって、言われた……、」
「音楽を嫌いになったら、」
「私はもう、生きられなくなる」
今まで以上に、
掠れた声でカエデが言った。
「助け……て……っ」
ふと、プレーヤーに目が行く。
もう、軋み始めていた。
「カ、カエデ!」
「嫌いになっちゃダメ、」
「カエデが死んじゃう!!」
「もういいよ、」
「こんなの望んでなかった!!」
「もう、私はなにもできない、」
「死ぬことしか、できない」
「お願……い……っ助……けて……っ」
カエデが泣きながら私たちに言う。
そして、問いかける。
助けて、と。
なにもできなくて、悔しかった。
自分の醜さに、気付きたくなかった。
カエデが死んだら、私はもう「無力」になる。
役に立ちたくて、
それで産まれてきたはずだった。
カエデがなんとか気持ちを整えることができたから、安心した。
もう3月になるのだから。
もう少しで終わりなのだから。
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