第11話 12月

一面雪景色に染まった街に、

一滴、また一滴、

水滴が落ちてくる。


一滴が強さを増して雨になり、

一滴が集まって水たまりになる。


当たり前のことだけど、

普通のことだけれど、

「当たり前」とか、「普通」とか、

存在しないことを、決めつけてしまう私たち。


いつも勝手に笑って、

笑って。


レノンのことを笑って、

笑って。


誰も助けてくれない世の中に、

産まれてきてよかったと思ったことは、

一度もない。


ただただ、望まなかったことが

叶ってしまうことが、一番悔しかった。


誰もが助けてもらえるわけでもなく、

理不尽な境界線を引かれて、


今日も1人、

「無」の世界を、彷徨っている。


いつも、いつも。

彷徨っている。


プレーヤーの音が、軋みだしても。


いつまでも、迷えない道に迷っている。


誰かの悲鳴が聞こえても、

誰かの声が聞こえなくなっても、

彷徨い続けている。


私たちはいつも、

彷徨い続けている。


「……、!」

言葉にならない声が、

私の喉から吐き出される。


「今の……、」


「レノン、そろそろお母さん、」

「仕事行くから~!」


「いつも通り……、?」


「レノン、?」

「なに言ってるの」


「いつも通りってなによ、」

「今日はなんにもないし」


「夢でも見たんじゃないかしら?」

「夢は無限大だからね」


「好きなだけ想像できるから」

「夢は無限大……、」


「レノン、どうしたの?」

「ううん、なんでもない」


「そう?仕事行ってくるね」

「……うん」


一瞬、思った。

もしかしたら、全部嘘なんじゃないか、と。


オトも、カエデも、ツバキも。

ただ想像していただけなのじゃないか、と。


よく考えてみれば、

レノンのことを助けてくれる、

そんな都合のいい話は、あるはずなかった。


だから、これはなにかの間違いだ。

今度、また音楽のセカイに行ったら、

写真を取って、確かめてみよう。


そうすれば、わかるはず。

全部、わかるはず。


もしも、本当だったら。

それが、紛れもない事実だったら。


レノンは、どう行動すればいいのか。

お母さんに言うべきか。


隠しておくべきか。

全部、言わないでおくほうが、

やっぱりいいのだろうか。

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