工藤蓮①
「れんちー大丈夫?体調悪い?」
今日は朝から凄く眠い。趣味の武器作りに熱中しすぎたせいだ。ついつい夜更かししてしまった。
学校への登校路、俺の隣で肩を並べて歩く彼女の名前は木下雫。
物心付いたときから、一緒に遊び過ごしてきた幼馴染だ。
気だるい顔をしていたのだろうか。雫はいつもとは違う俺の様子に気付き、心配そうに顔を覗き込んできた。
「ちょっと夜更かししてな。でも少し眠い位だから大丈夫だよ」
俺の言葉に安堵する雫。心配される程酷い顔してたのか。
「あ、もしかして私の貸した本読んでくれたの!?ねぇねぇどうだった?どのシーンが一番好きだった?私の体で再現してみて!!」
急に鼻息荒く俺に詰め寄る雫。
何のことだ?
あー、そう言えば一週間前位に借りた本があったな。やばい読むの完全に忘れてた。
雫に読んでないこと伝えるとがっかりするだろうな……
でもそこはちゃんと伝えるべきだろう。
「わ、悪い雫。実はまだ読んでないんだ」
「なぬ!?ぶーー!期待させないでよ」
頬を膨らませて本気で怒る雫。
かわいい。ほっぺをツンしようかな。って馬鹿!俺は雫を怒らしたんだぞ。謝らないと。
「ごめん、今日読むよ。必ず!明日感想を伝えるから!」
「それなら良し!期待して待ってるね」
先程とはうって変わって満面の笑みを見せる雫。今日帰ったら読まないとなー。本当に忘れてた。
「お詫びはハグで許してやろう!」
「うっ………」
雫は俺のことが好きだ。そりゃあもう疑いようもなく。
自意識過剰に聞こえるかもしれないが、今まで何十回と告白されてきたので、俺の勘違いではない。
そして俺も……雫の事が大好きだ。
即ち両思いである。
「愛情込めて全力でだよ。ふわっとした感じだと私は認めない!」
「わ、分かった!」
雫は一度言い出したら止まらない。こう言ったからには決定事項だ。拒否権は無い。
今まで何度もハグしたけど、何度やっても緊張する。俺って何でこんな奥手なんだろう。
しかし公の場でやるのは本当に恥ずかしい!雫はいつもどこでも学校でも関係なしだ。外国の血でも入ってるのか?
そんな俺の迷いはお構いなしに、雫は両手を広げて待機している。覚悟を決めろ!
「れんちー、くっつこ」
雫のそんな一言と同時に俺は抱きついた。
全力で優しく愛情を込めて。
雫好きだ!
「あっ……あぁん。んっ…………最高」
変な声を出す雫。
そんな声出さないで!もっと恥ずかしくなるから。
しかし女の子ってなんでこんなに柔らかいんだろう。抱きつくと安心感に包まれ幸せな気分になる。ずっとくっついていたい。
「ひぃ!……あふぅ」
突如耳が悲鳴を上げた。
何が起きたぁぁふぁっ!?
ハミハミ、ペロペロ
気が付くと雫が俺の耳を食べていた。これは駄目だろ!俺が耐えきれない!
俺は雫の事が好きだ。そんな雫を抱きしめただけでドキドキするのに、こんな事されたら理性が飛んでしまう。
雫の唇が、舌が……何これ気持ち良すぎる。……っっじゃない!何考えてるんだ俺は。
このままじゃやばい!
「れんちー、耳だけじゃ我慢できない。そこにダブルホースっていうラ○ホがあるから行こ」
耳元に届く吐息が艶めかしく、俺の理性という壁を剥がしていく。一枚、そしてまた一枚。
こうやって人は大人になっていくのか。
俺の体は限界を迎えていた。もう冷静な判断は出来ない。
でも大好きな雫と一緒なら大丈夫。行こう、まだ見ぬ刺激に満ちた楽園へ。
「なに朝から盛ってるのよ。せめて見えないところでしてよね」
へ?
声がした方に振り向くと、そこには奈々実が腰に手をやり、仁王立ちのポーズで立っていた。奈々実は小学校から付き合いのある仲の良い友人の一人だ。
「奈々実!?!?な、何故っ!いつから!?」
正気に戻った俺は直ぐ様、周囲の状況を確認した。ここは何処で、俺は何をしていたんだ?
それに体中に違和感を感じる。体が動かない。重力が1.5倍になったかのように体が重い。
あれ?雫はどこに行った?
さっきまで雫が居たのに……それにしても、何故こんなに体が重いんだ!
「蓮、このタコ引き剥がすわよ」
オクトパスがなんだって?
奈々実の言葉で気づいた。
背中から絡みつき、ピッタリ張り付いて俺の耳を食べ続ける存在に。
「ハモハモムー!ハムムハーモムー!(ななみん!邪魔しないでよ!)」
「何言ってんのよこの変態。蓮が困ってるじゃないの。ほら、早く離れなさい!」
「マムーーー!(やだーーー!)」
奈々実の協力の下、俺は何とか雫を引き剥がす事に成功した。手足に絡みついた触手が非常に厄介だったが、流石の雫も二対一では分が悪かったようだ。
「卑怯者ーーー!!ばーか、ばーか。うぇーーん」
俺の体から引きずり降ろされた雫は、納得出来ない捨て台詞を吐き、泣きながら走り出した。
「待て雫!違うんだ!」
反射的に雫を掴もうとした手は空を切り、雫の背中が遠くなっていく。不味い追わねば!
「ほっときなさいよあんな変態」
「そうはいかん。助けてくれてありがとうな。俺は雫を追うよ」
俺はそう言葉を残し、奈々実に背を向けて走り出した。
"相変わらず過保護なんだから"という声が呆れた口調で聞こえたが、気にも止めず追いかけた。
って雫足早えーー!っくそ。
「雫待ってくれーーー!!」
全力で走ること無いだろ!おらーーー!
足の早い雫に追いつくにはこちらも全力を出すしかない。俺はアスファルトに恨みでもあるのか、と思えるほどに強く地面を踏みつけ駆け出した。
何この時間。
ーーー
やっとのことで追いついた俺は、"お詫びはハグで許してやろう!"と言われた。デジャブー!
え?ループすんのこれ?
ーーー
眠い……
昨日は夜ふかししたせいか凄く瞼が重い。
付け加えると、朝から雫と追いかけっこしたせいで体力の消耗が激しい。
授業の合間の休憩時間、俺は自身の席に着いたまま、頬ずえをつきうつらうつらしていた。
次の授業は英語か……無理だな。確実に寝る。
普段授業中に寝る事は殆どない。だけど……今日は本当に眠い。
「どうした蓮。眠そうだな。ゲームのしすぎか?」
突如現れたそいつは、俺の頭上から言葉を振り下ろすの同時に、ドンッと音を立て俺の机に腕を置いた。
こいつは……まぁ俺にとってはどうでもいい存在で生徒Aとしよう。
「この前俺のスマホ壊れちゃってさー。修理代で9000円掛かったんだよなー。そのせいで今金欠なんだよね。お前金持ちだろ?ちょっと貸してくんねーか?」
生徒Aはやぶからぼうに俺に恐喝してくる。こんなことは取るに足らない出来事だが……問題は起こしたくないんだよな。
教室の視線が集中する。
明らかな恐喝だが、誰も助けるものはいない。皆見てるだけだ。まぁ、それが普通か。誰もとばっちりは受けたくないだろうしな。
生徒Aは金髪ピアスでガタイもいい。THE不良なやつだ。
「何黙ってんだ?優しくお願いしてるうちにだせよー。俺も気がみじけーんだからさ」
「お金は持ってない。ほら見てみろ」
俺はポケットから財布を取り出すと、広げてそいつに見せた。そこには昼ごはん用の小銭が少し入ってるだけだ。
「テメー殺されてーのか!!」
生徒Aは声を張り上げながら俺の財布を叩き落した。顔面スレスレで広げて見せたのが邪魔だった様だ。
生徒Aは財布を払った手で、そのまま俺の胸ぐらを掴み上げた。
そいつの乱暴な行動に驚いたのか、机や椅子がガタガタと音を立てる。周囲のざわめきが増し、中には先生を呼んだほうがいいんじゃないかという意見も聞こえる。そうしてくれると俺は嬉しいんだけど。
「なんだこの騒ぎ」
「蓮いるかー」
この喧騒の中で、二人の声が割って入ってきた。小心者の声色と間抜けの声色。マー坊とかっちゃんか。
二人は騒ぎの中心である俺と生徒Aの側まで歩いてきた。
「や、やぁマー坊とかっちゃん。蓮に用か?よ、よかった丁度今話が終わったところなんだ。なぁ蓮」
二人の登場で急にしおらしくなる生徒A。
マー坊とかっちゃんにビビってるのか。
「誰だおめー。気安く名前呼んでんじゃねぇよ」
「もしかして蓮に絡んでたのか?おめー死んだぞ」
冗談半分で二人は言ってるのだが、生徒Aは顔面蒼白で体を震わせている。本気で怯えているのか……マー坊とかっちゃんに?
中々に謎な現象だが、助けてくれたのは素直に嬉しい。喧嘩はしないって雫と約束してるからな。
「ごごごごめん!蓮には何もしてないよ!そうだよな!蓮!」
「そうなのか?」
「じゃあなんでこんなに教室が騒がしいんだよ」
こんなにビビってる生徒Aを見てるとちょっと可哀想になってきた。少しうざかっただけで何も被害はでてないし。許してやるか。殴られてたら許さなかったけど。
どちらにしても躱せるだろうから殴られる事はないか。結局生徒Aが俺を怒らすことは出来ないわけだ。寧ろ眠気を飛ばしてくれたから感謝すべきかもしれない。よし無罪!
「何もされてないよ。だから生徒A……じゃなくて金髪君は行っていいよ」
俺の言葉に顔をしかめて、一瞬苛ついた表情を見せる生徒A。しかし自身が置かれている状況に危機感を感じている様で、一目散に去っていった。
俺にはマー坊とかっちゃんという用心棒(笑)がいるから手を出すのを諦めるんだな。そう心の中で呟き、二人に向き直った。
「お前喧嘩しないんだから喧嘩売られない努力をしろよ」
「そうそう。陰キャなんだから大人しくしとけ」
「そう言わずこれからも助けてくれよ。ところで何しに来たんだ?」
「たっちゃんのスマホの画面が割れちゃったみたいで、今から修理に行くからカネ貸してほしいそうだ」
「なんでも、奈々実に殴られて3メートル位吹っ飛んで、壁にぶつかった衝撃で割れたらしいぜ。死ぬかと思ったってさ」
「意味わからん。それでなんで竜也じゃなくてお前らが来るんだよ」
たっちゃんこと竜也は、小学校からの幼馴染で俺の親友だ。エロ細胞と喧嘩細胞で構成された体を所持しており、非常に短絡的でヴァイオレンスな猿である。奈々実に殴られたのも何かエロいことをしたんだろう。
「じゃがいも※に追われてるから頼む!お前らが蓮から借りてきてくれ!ってお願いされたからよー。まぁしょうがねぇべや」
※生徒指導の先生
「そんな回りくどいことしなくても俺にスマホで連絡してくれれば届けてやるって。あ、スマホ使えないのか」
「あそこを見てみろ」
そう言うマー坊の顔案内に従い、教室の入り口ドア付近に目をやる。するとそこに顔を半分覗かして、俺を見つめるじゃがいもの姿がそこにあった。
監視されてるのか!?
っていうか。それならさっきの恐喝の時に助けてくれよ!
「恐らくたっちゃんがお前に接触するだろうと疑ってんだよ」
「そうなのか……そもそも何で追われてるんだ?」
「それがよお。最近問題起こし過ぎてるから親父さんを呼び出したらしい」
「竜也のやつ終わったな」
喧嘩三昧してるからなー
遂にじゃがいもも怒ったか。それにしても師匠(親父さん)を呼ぶなんて……そりゃあ逃げるわな。命に関わるもん。
「ったく。しょうがないな。ほら、これを竜也に渡してくれ」
俺は財布が入っていたポケットとは別のポケットから、マネークリップで纒められたお札を取り出し、そこから2枚抜いてマー坊に手渡した。財布にお金を入れてないのはリスク分散のためである。
「2万円も!?金持ってるなー」
「俺にもくれよー蓮ー」
「馬鹿言うな。竜也にあげてるわけじゃないぞ。あいつはちゃんと返してくれるから貸すんだよ。それに俺も色々と入用だし、余裕はないよ」
理解してくれたのか、マー坊とかっちゃんは少し名残惜しそうな顔をしながら教室を後にした。
二人が教室を出るのと同時に、教室の空気が軽くなった気分に陥る。いや、確かに軽くなった。安堵のため息と共に、さっきまで聞こえなかった周囲のざわめきが戻ってきたのだ。
「れ、蓮君凄いね。昌次(マサツグ)君や海斗(カイト)君達と普通に喋れるなんて。僕なんて怖くておしっこチビリそうだったよ」
話しかけてきたのは同じクラスの直人(ナオヒト)君だ。背が低くちょっと小太りで、丸メガネを掛けている。
彼から漏れ出る平和的オーラは俺を心地よく癒やしてくれる。出会った時の第一印象は、無害なハムスターである。
……ハムスター飼おうかな。
「蓮君はどう見てもこっち側の人間なのに、どうやってあんな怖い人達と友達になれたの?」
「別に大したやつらじゃないよ。直人君に紹介しようか?すぐに仲良くなれるよ」
「いやいやいや!それは駄目だよ!絶対にだめだからね!僕なんてスクルールカースト最下位……生態系ピラミッドの最下層だよ!?いってもハムスター程度の存在だよ!?ひまわりの種をかじってるだけで満足なんだよ」
やはり彼はハムスターだったらしい。ハムスターを飼う必要がなくなったな。いや、流石に友達を動物に例えるのはよくないか。
しかし癒やされる。
ーーー
「お、死んでなかったかー」
「よくここまで来れたな。てっきりもう来ないかと思ったぜ」
俺とマー坊とかっちゃんの3人は、校舎の屋上で昼飯を食べていた。そこにたっちゃんが現れた。
「俺がそう簡単にくたばるかよ。じゃがいもや親父なんて敵じゃねえよ」
「逃げてるだけのくせに強がんなよ」
「それよりスマホは修理できたのか?」
「あぁ、修理に一、二時間かかるみてーだから放課後回収してけーるわ。わりーけど金は明日返すな」
「いつでもいいよ。それよりも直せて良かったな」
竜也は俺達に話しかけながら、手持ちのビニール袋から弁当を取り出した。
そのまま俺の真向かいに座ると弁当箱の蓋を開き、中から湯気が登る熱々の牛丼が顔を出した。
「全くだぜ、あれには俺のオカズが大量に入ってるんだ。もし直せなかったら、奈々実に責任を取ってもらおうと思ってたが……」
「お前な……」
「責任を取るって具体的にはどうすんだ?」
「そんなもん剥いて突き立てるしかねーだろ。奈々実の意思なんてかんけーねぇ。ヒーヒー言わしたらあ」
「クソ野郎だな」
「フンまみれ野郎」
「竜也、奈々実となら別に無理矢理する必要ないだろ。お前はバカなんだから何も考えずに告白したら成功すると思うぞ」
「うるせー!皆して俺を貶めるな!ぶっ殺すぞ!」
犯罪予告をしておきながら逆ギレする竜也。お前ってやつは……
「確かに奈々実とたっちゃんは仲良いもんなーあ、そう言えば話変わるんだけどよ」
ご飯を頬張りながら、マー坊は別の話題に柁を切った。
「どうもクズ高の奴らが人数集めてるらしいぜ。前回の轍を踏まないために、今回は倍の数は集まるだろうな。今日の放課後たっちゃんを凸るつもりだぞ」
クズ高とは頭が逝っちゃってる奴らが跋扈している高校だ。
いつだったか覚えてないが、竜也に喧嘩を売ってボコボコにされていたな。実力差がありすぎる。
達也にしてみたら児戯のようなもんだろう。ボコボコというよりポコポコにしたって表現が正しいかもしれない。遊びみたいなもんだし。
「めんどくせー。誰か手伝ってくれよ。俺一人では面倒くさすぎるし途中で飽きる!つーかスマホも回収しないといけないしな」
心底面倒くさそうに顔をげんなりさせながら俺達に手伝いを求める竜也。
いつもなら一人で行くのに珍しいな。本当に面倒くさいんだな。
時には友を助けも必要か……雫にお願いして俺も付いていこうかな。
「飽きるってお前……相変わらずたっちゃんだなー」
「俺等は構わねーぜ。なぁマー坊」
マー坊とかっちゃんは互いに頷き、竜也との同行を決めた。雫への報告は後からでもいいか。俺も付いていこう。
そう決断した俺は、少しばかり気持ちの高ぶりを感じる。心を決めると体が震えたのだ。
久しぶりの喧嘩だもんな。これが武者震いってやつか。
「俺も行くよ」
そう一言告げると、驚いた表情で三人が一斉に俺の方に顔を向けた。
「自殺……したいのか?」
「乱戦になったら助けきれねーぞ」
何言ってるんだこいつ等。誰が誰を助けるって?
心底何言ってるか分からないマー坊とかっちゃんはさておき、たっちゃんの反応も意外なものだった。てっきり中学の時を思い出してテンション上がるのかと思っていたが……
当時は敵がかなり多かったしな。背中合わせでよく喧嘩したもんだ。
「雫との約束があるだろ」
「心配するな。お前が手伝ってくれって言ってるんだ。友として立ち上がらないわけにはいかないだろう。なあに、雫にはちゃんと説得するから心配するな」
「うーん、それでもだなぁ……」
いまいちぱっとしない受け答えをする竜也。バツ悪そうな顔つきで困った様子である。
なんだ?俺に来てほしくないのか?
「そう言えばちょいちょい聞くけどよー。蓮って本当に喧嘩できるのか?どうも信じられないんだよなー」
俺と竜也のやり取りに、痺れを切らしたマー坊が口を挟んできた。
俺高校に入ってから殆ど喧嘩してないもんな。隠してるわけじゃないけど、知られてないのも事実か。
「そうか、おめーら中坊時代の蓮をしらないんだもんな。どう言えばいいかなー」
竜也が説明してくれるらしい。
俺の武勇伝をかっこ良く紹介してくれよな。
「簡単に説明すると、目が合うやつ全員殺してたぞ。たまに目が合ってないやつも殺してた。マジで」
マジで!?
じゃねぇ!
ただのイカれたやつだからそれ。
そんなはずがないだろ!
竜也の言葉を真に受けたマー坊とかっちゃんが後ずさってる。いや嘘だからそれ!
もっとかっこいいエピソード出せよ!ほら、修学旅行のときに友達を助けた事とか、友達の大事な物を取り返した事とか、他にも色々とあるだろ!
説明が雑なんよ。なに目が合ってもいない奴殺しちゃってるの?
「蓮……俺お前のこと信用していたのに」
「眼鏡のくせに調子乗るなよ」
かっちゃんのそれただの文句だからな。それに伊達メガネだよ!
「待て、語弊があるぞ。竜也、説明するならもっとちゃんと説明しろよ。俺の人間性が疑われるだろ」
俺の言葉に竜也はキョトンとした顔をしている。いや、お前の中で俺そんな奴だったの?
「そんなことはいいからよー。結局、蓮はどの程度動けるんだ?今度の喧嘩は人数多いからよぉ、多少喧嘩出来るくれーじゃ生き残れねーぞ?」
「め、眼鏡のくせに調子乗るなよ!」
かっちゃんの眼鏡に対する偏見がすごいな。昔なにかあったのか?
「少なくともおめーらより強えって。前からそう言ってるだろ」
「それって本気で言ってたのか。信じられん」
「蓮はどう思ってるんだ?俺とマー坊に喧嘩で勝てると思うか?」
「え………?マー坊とかっちゃんってお笑い枠じゃないのか?逆に負ける要素が無いんだが」
正直な所、本気でやったら喧嘩にもならない。多分素手でも勝てるだろうし。
「わははは。蓮も冗談きついぜ…………マジ?」
「め、め、眼鏡のくせに調子乗るなよ!」
苦笑いを見せるマー坊に、語彙力が底辺なかっちゃん。大丈夫かこいつ等。
「じ、じゃあよ。そこまで言うならよ。たっちゃんと蓮はどっちが強えーんだ?」
動揺を隠しきれないマー坊。
お笑い枠と言ったのは傷付いたかな。悪い事を言ってしまった気がする。
しかしたっちゃんと俺か……
「「まぁ俺だろ」」
お互いが被せ気味に同じセリフを吐いた。
その瞬間、俺と竜也は同じ目をしていた。威圧的な目だ。プレッシャーを感じる。それは竜也も同じだろう。
「蓮、よせよ。俺には敵わねーだろ。引け」
「どうかな。俺には武器がある。ルール無しの本気勝負なら俺が勝つ」
「俺にとってはおもちゃみてーなもんだ。いくら出したところで効かねーよ」
「最新作を見せてやろうか?おもちゃかどうか試してやるよ」
俺と竜也の喧嘩スタイルはまるで違う。竜也は素手だが、俺は武器を使用する。
素手ゴロも出来なくはないが、確実な勝利を勝ち取るために武器を使用しているのだ。俺は絶対に負けるわけにはいかないからな。
最善の手を考えて最善の手を尽くす。それが俺のやり方だ。
だが相手が竜也だと、事はそう上手く運ばない。
仲間だと頼りになるが、敵だと限りなく厄介極まりなく、人間の常識は通用しない。
本人も自分の強さを人外だと言い切っており、リアルに強すぎるのだ。
だがそれ故に猪突猛進タイプであしらいやすい面もある。そこを逆手に取れば俺にも勝機を見いだせる。
俺と竜也は目線を逸らさず、互いに火花を散らし合う。
これは……始まるかもしれんな。
周囲に緊張感が立ち込め、動きが抑制されていく。
俺と竜也は、こと戦闘に於いては戦国時代に生き、数々の修羅場を潜り抜けてきた猛者。呼吸や間合い、そしてタイミングは物凄く重要だと理解している。さながらカウボーイの早撃ちの如し。
軽はずみな動きは見せない。目を逸らすな。来るぞ。
今にも切れそうな緊張の糸…………そして!
「俺を差し置いて頂上決戦たーいい度胸だ」
「…………」
「…………」
「何黙ってんだよ。俺も混ぜてくれよ」
「…………」
「…………」
「ふぅーーー。やめだやめだ」
竜也が深く息を吐き出した途端に、体中の拘束具が外れ自由に動けるようになった。
かっちゃんの空気を読まない発言により、竜也はやる気を失ってしまったようだ。
「お前ら、仲間同士で喧嘩するなよなー」
「蓮が引かねーからついな」
「まぁ、いずれ決着つけようじゃないか」
どっちが強いかで争うなんて子供かと思うかもしれないが、俺と竜也には引けない理由がある。いつかは白黒つける日が来るだろう。
「おーい。俺を無視するなよー」
しかし今日の俺は準備不足だ。竜也とやるならそれ相応の準備がいる。今手持ちの武器では勝てなかっただろう。
「おーい。俺を無視するなよー」
「話は戻るけどよ。蓮、お前は来なくていい。いや、寧ろ来んな!」
「どうしてだ?俺に来てほしくないのか?」
「お前は雫を説得するって言ってたけどよお。回り回って俺が奈々実から怒られるんよ。"蓮を巻き込むな"って。どうしても手伝いが必要ってわけじゃねーんだ。わりーけどマー坊とかっちゃんの3人で行ってくるわ」
「……そうか。それならしょうがないな」
確かに。
どうしても助けが必要なわけではないだろう。そこまで言うなら諦めるしか無い。
久しぶりにちょっと暴れたかったんだけどな。
「それより早く飯やっつけようぜ。昼寝したいんだからよー」
「授業中も寝てるんだろどうせ。マー坊、お前は寝すぎだ」
「竜也、お前人のこと言えないだろ」
「おーい。俺を無視するなよー」
竜也は小さく"うるせぇ"と口にすると、牛丼を口に掻っ込み頬張った。
残念だけど仕方ない。今日はいつも通り雫と帰ろう。
しかし俺自身も以外だな。暴れたいと思う日が来るとは。これじゃあ竜也と変わらん。平和が一番だよ。
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