絶対なる悪の美学〜親友キャラに転生した悪役に憧れる青年の場合〜

エレオノール

第一章 異世界転生

第1話 俺が悪役を好む理由


「主人公になりたい」


きっと多くの人が思っていることであろう。しかし、俺は違う。"彼ら"の魅力に気づいてしまったからだ。故に俺は主人公よりも"彼ら"に憧れている。それは―――――――――――――




超鬼畜ゲーム『New World Story』


20XX年に発売された、特殊な力を持った主人公を育成し、魔王を討伐するというありきたりなゲーム。しかしあまりにも高い難易度により、発売後半年経っても全シナリオクリア者は出ておらず、世界中でクソゲーと話題になったゲームだ。


そんなゲームをついにクリアした者が現れた。

その人物の名は、御堂聖河みどうせいが。アニメ・漫画・ラノベ・ゲームをこよなく愛する生粋のオタクであった。



「はぁ。育成システムがクソすぎるだろこのゲーム。地道に訓練してステータスを上げても、経験不足とやらで序盤から死にゲー並の難易度とか、絶対バランス調整ミスだろ。おまけにイベント数も少ないし。ここまで来るのにこの主人公何回死んだんだろ。」


彼の目の前には、小さなアパートには不釣り合いなほど大きなテレビ画面があり、その画面に

「Congratulation」という文字が表示されていた。


「とりあえず全クリできたけど、やっぱりこれはクソゲーだな。大量の経験値が貰えるバトルイベントが少なすぎるから、1度参加しなかっただけで後々の展開に響いてきやがる。」


(いや、イベントに参加しなかっただけで詰むゲームとか、初見クリアさせる気ないだろ。)

心の中でそんなツッコミを入れながら、俺はこのゲームをクソゲーたらしめる最大の欠点(聖河にとって)について思い浮かべる。


「"悪"が足りない...」





俺は昔から悪役が好きだった。

悪と言っても、他者の犠牲を顧みずに私利私欲のために行動する者や、理不尽な行動で他者を殺める。そんな魔王のような「絶対悪」ではなく、俺が好きなのは「噛ませ犬」などと呼ばれる者たちだ。

友人にこんな話をしたら敬遠されそうで今まで誰にも言ったことがなかった。


俺は彼らの在り方が好きだった。

理由はどうあれ、揺るぎない信念のもと、主人公の前に立ち塞がる彼らの在り方が。何度倒してもまた現れる意志の強さが、俺は好きだった。


ここまで熱弁しても、まだ他人からの奇異の視線は消えないだろう。だが、俺が彼らを愛する最大の理由はそこでは無い。






俺は思う。彼らは『必要悪』であると。




彼らの存在は、少なからず主人公の成長に繋がるのだ。

だってそうだろう?自分や周りを脅かす存在が近くに居ると居ないとでは、日々の鍛錬の質も大幅に変わってくるだろう。


主人公は彼らに負けないように、越えられるように訓練する。魔王討伐〜などと言った初期の頃ではあまり現実味のない目標よりも、身近な存在を超えるといった目標の方が具体性を帯びている。目標が明確である方が訓練にも身が入るだろう。そうして主人公達は成長していくのだと思う。


故に、他の人からしたらただの噛ませ犬であっても、俺からしたら物語に欠かすことのできない必要悪なのだ。


まぁ、俺の方が上手く悪役を演じられる自信はあるのだが、異世界に転生でもしない限りそのような事態に陥ることはないのだから、語る必要はないか。



俺の、"悪の美学"については。






話を戻そう。このクソゲー、『New World Story』には、前述した必要悪が出てこないのだ。


だからほとんどプレイヤーは、序盤にヒロイン攻略などを進めたりして、最初の魔物の襲来イベントで皆死んでいく。


必要悪を作らないことによって、プレイヤー達は平和ボケし、そこを魔物に強襲させ、初見殺しコンボ完成。正直言って、このゲームの製作者は相当いい性格をしていると思う。だって、必要悪を作ろうと思えば簡単に作れるキャラがいたからだ。それも、主人公のすぐ隣に。




「ふぁぁ。やべぇ眠いわ。全クリ近かったからって寝ずにやってたからだな。さてと、明日に備えてさっさと寝るか。」


そんなつぶやきと共に立ち上がった俺に、強烈な頭痛が襲ってくる。そして、俺の意識は闇に落ちていった。






___________

《作者コメント》

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