第47話 メンヘラちゃんは再会した
【メンヘラゴスロリ娘
――え……この着信はユウ様の番号の個人設定の曲……
亜美はお姉様のことなど一瞬で眼中からなくなり、慌てて携帯の画面を見た。
【♡ユウ様♡】と、文字が出ている。
それを見た瞬間、亜美は嬉しさと、胸が苦しくていっぱいになって、手が震えた。
お話したいことが沢山あるんです。聞きたいことも沢山あるんです。
お身体は大丈夫なのですか? ごめんなさい。亜美のせいで危ない思いをさせてしまいました。
好きです。大好きです。1日も忘れたことなんてありません。
心臓が激しく打つ中、通話ボタンを押した。
「ユウ様……?」
***
こんなに懸命に走ったのって、いつ以来だったかな。
あぁ、ユウ様の携帯を取り戻してユウ様に渡しに行ったときかな。
違う。病院から逃げようとした時だったかな。
それも違う。ユウ様が好きな人がいるって言って、ショックのあまり飛び出したときだったっけ。
思えばあの時、亜美が逃げ出したりしなかったらこんなことにはならなかったのに。
ごめんなさい。ごめんなさい。
何度でもユウ様に謝る。何度でも、例えユウ様がそれを覚えていなくても。
――やっと会える。やっと。亜美の大好きな人
病院に息を切らしてたどり着いた時、亜美はやっぱり嫌な感じがした。
このあたり一帯の病院でお兄様のことを知らないところはない。お兄様の妹だというだけで期待の目を向けられるのが嫌だった。
お兄様も亜美が出来が悪い妹だから病院に来るのを酷く嫌った。
家柄なんていらない。亜美は普通が良かった。お金なんて持ってなくて良かった。お金があるってだけで、亜美のこと自体を好きになってくれる人なんていなかった。結局最後はお金だけ。
――でもユウ様はお金じゃなくて亜美のこと見てくれた
あの少し冷たい態度だって、それすらも嬉しかったんですよ。今思い返せば亜美の機嫌取りでなんとかお金を使わせようとする人ばっかり見てきたから。
亜美は恐怖心を取り除いて、ユウ様がいる場所へと目指す。
病院の人の目が怖い。でもそれ以上に会いたい。
病棟の6階。あともう少し。あと少しでユウ様に会える。あの曲がり角を曲がったら、もうすぐ――――
亜美がドキドキしながら、ナースステーションを横目に、一番奥の病室の一番奥のガラス張りになっているところを見た。大好きな人の後ろ姿が見えた。
日に透かすと茶色い少し癖のある髪。細くてスラッと背の高い立ち姿。けだるそうな立ち方。遠くを見ている後ろ姿。
走ったらいけないと、そう解りながらも亜美は走り出してしまった。
はやく。一秒でも早く。あともう少し。5mくらい――――
亜美の足音でその人は振り返った。
振り返ったと同時にその華奢な身体に抱き着いた。
「うわっ!?」
驚いた声。大好きな人の声。その声をやっと聞けた。それが例え驚いた声だったとしても。
「ユウ様……会いたかったです…………」
ユウ様の感触。細くて、暖かさをあまり感じない身体。それは前から変わらなかった。
「お……おぉ。連絡できなくてごめん……なさい」
おずおずと、どうしたらいいのか解らないかのように軽く抱き留めてくれた。いつもそうやって、困りながらも抱き留めてくれる大好きな人の腕。
「亜美の方こそごめんなさい。ユウ様……ごめんなさい。酷い目に遭わせてしまいました……ユウ様が死んでしまうかと思いました……ごめんなさい。ごめんなさい……!」
ユウ様の体温を感じたら、今までずっと言えなかったことも苦しさも全部とめどなく溢れだして、亜美はひたすらに泣いた。
記憶がないって解っていても、謝る他なかった。
ユウ様が困っているのは解っていたけど、亜美は幸せでいっぱいです。こうしてまたお話ができることがなにより幸せです。
もう、記憶なんてなくてもいい。もう永遠に離れません。
この先何があっても。
***
【高飛車な金髪縦ロール 律華】
――亜美のやつ、絶対に許さない……!
あたしと瑪瑙の関係はもうめちゃくちゃよ。全部亜美のせい。瑪瑙に酷いあたしの姿を見られてしまった。あのときの瑪瑙の顔が頭から離れない。
――そうだわ……お父様とお母様に密告してやる!
亜美が悪い女に騙されて、何百万も貢がされているって言ったらお父様もお母様も血相を変えるはず。いくら亜美が可愛がられているからと言っても、同性愛でしかも悪い女に騙されているなんて知ったら亜美に強く言うはず。
あたしと瑪瑙の仲を割いたように、あの女と亜美を割いてやるわ。
清々する。あたしが味わった苦しみをあんたも思い知りなさい。
あたしはお父様とお母様にメッセージを書き始めた。文面はどんな感じがいいかしら。
〈お父様、お母様お忙しいところ失礼いたします。この度は亜美の件でご連絡差し上げました。亜美の様子が近日おかしく事情を探ったところ悪い女に騙されて大金を貢がされているのです。亜美はその女に恋心を抱いており、わたくしから言っても亜美は聞く耳をもってくれません。どうかお父様とお母様が目を覚まさせて差し上げてください。このままでは亜美は引き返せないところまでいってしまいます。亜美の身が心配です。お忙しいとは存じますが、どうかよろしくお願いいたします。律華〉
まぁ、とりあえずこれでいいわ。
――亜美、あんたはもうこれで終わりよ!
あたしは送信ボタンを押した。
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