第2章 剥がれる理想・錆びた現実

第5話 メンヘラちゃんは罠にかかった!




【不審な男】


 俺がこの携帯電話を拾ってから『アミ』という女から、鬼のようにメッセージがきている。

 拾った携帯は誰のものか分からなかったが、こんなに毎分と言っても過言ではないほどのメッセージが来ているということは、ただならぬ関係だ。恋人になりたての男女である可能性が高い。アミは女であろうから、これは男の方の携帯だと考える。


 ――もし可愛い子だったら……ひひひ……




 ***




【メンヘラゴスロリ娘 亜美】


 亜美はもっとユウ様と一緒にいたかったという気持ちでいっぱいだった。

 遊ぶと言っていたお友達にヤキモチを妬いてしまう。

 しかし、ユウ様の家から出て、数十分経った頃にユウ様から「今から会いたい」というメッセージがきた。


 ――ユウ様ったら、やっぱり亜美に会いたいだなんて


 嬉しくて自然と笑顔がこぼれる。ユウ様から「×××公園で待ち合わせしよう」とメッセージがきて、あまりの嬉しさに舞い上がった。


 ――でも、お友達と遊ぶって言っていたけど、どうしたんだろう……でも、きっとお友達の都合が悪くなったんだよね


 亜美は早くユウ様に会いたく、指定された公園に小走りで向かった。それなりに広い公園で、どこにいるのかは分からない。なので、電話をかけてみた。


(プルルルルル…………プルルルルル……)


 呼出音が初期設定のままであることに対し、飾らないところが素敵だと亜美は感じた。


(プルルルルル…………プルルルルル…………プルルルルル……)


 ――あれ? ユウ様出てくれない……。


 電話に出ないので、メッセージを送ることにした。


〈ユウ様どちらにおいでですか? アミは到着しております。かくれんぼですか?〉


 ピロン♪


 すぐにユウ様から返事が返ってきた。嬉しい。こんなにすぐに返事をくれるなんて。

 亜美がユウ様のメッセージを見ると、意外なことが書かれていた。


〈自撮りの写真を送ってくれない?〉


 ――ユウ様!! 亜美の写真がほしいんですね! すぐにでも送ります!


 カシャ


 亜美は自分の写真をできるだけ盛れている状態で撮り、ユウ様の携帯へとすぐさまメッセージを返した。


〈ユウ様、亜美、可愛いですか? 早く会いたいです♡〉


 送ってからすぐに「ピロン♪」という音がして、ユウ様からメッセージが返ってきた。


〈うしろにいるよ〉


 亜美は直接声をかけてこないクールなユウ様も素敵と思い、大好きなユウ様の方へ振り向いた。


「ユウさっ……」


 ま…………?


 そこには知らない男が立っていた。太っていて、中年で、清潔感などという言葉から最も離れたような汚らしい男が立っていて、何かの間違いだと思って辺りを見渡すが、ユウ様はいなかった。それに、その男の手にはユウ様の携帯電話が握られていることに気づく。


「だ……誰ですか……?」


 怖いという感情からか、亜美の声がかすれる。


「ユウ様だよ」


 男はニヤニヤしながら亜美の身体に触ろうとしてきた。亜美は怖くて、後ずさりしながら叫ぶ。


「やだ! やめてっ!」

「うるせぇ! でかい声を出すな!」


 亜美の腕を男が強く掴んだ。


「痛い! はなして!!」


 恐怖にパニックになってしまう。どうしたらいいか分からない。この辺りは人通りも少なく、きっと誰も助けになんて来てくれない。


「このくそアマ! 大人しくしてれば優しくしてやろうと思っていたのによ!!」


 ブチブチブチッ……髪を乱暴に引っ張られる。亜美は泣き出していた。泣く以外のどんな行動ができるというのか。これから亜美がされることを考えれば、抵抗も空しく聞き入れてもらえないこの人に、亜美が何をできるというのでしょうか。


「やだぁっ!! やめてぇええっ!!!」

「こっちにこい!」


 より人目のつかない方へと亜美の身体は引きずられていく。


 ――嫌だ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!


 男が乱暴に亜美の服に手をかける。上に乗られて、動けない。身体をよじってもぬけだすことはできなかった。


 ――こんなのっ……いや……!!


 泣きながら抵抗するが、その抵抗も虚しく男にされるがまま亜美の服の中に手を入れられる。


 ――助けて……ユウ様――――――


「なにしているんだ!」


 どこからか若い男の声が聞こえた。亜美にまたがっていた男の動きが止まる。


「なんだてめぇ……ガキはひっこんでな」


 亜美は何が起きているのか理解が追い付かず、ひたすらにパニックになっていた。どうにかして逃げ出さなければ。


「警察を呼ばせてもらうよ」

「このガキ!」


 男が亜美の上から降り、若い男の方に襲いかかった。

 何が起きているのか解らなかったが亜美は身体を起こし、ユウ様の携帯を探した。きっとこの男がユウ様の携帯を持っているに違いない。

 ユウ様に届けないと、逃げないと。


「ギャアッ!」


 嫌な叫び声が聞こえた。亜美がおどおどしている間に、若い男が男の腕をひねりあげて動きを封じている。


 ――やった! これでユウ様の携帯を探せる!


「もしもし、事件です。強姦未遂を拘束しました。場所は△△△公園の北側です。至急来てください。はい、お願いします」


 亜美が二人を見ると、若い男はこれと言って特徴もなく、さわやかな薄い顔をしていた。

 イケメンという部類だったが、亜美はそんなことどうでも良かった。拘束されている男のポケットを調べて、ユウ様の携帯を探す。


「き、きみ、なにしているのっ」


 ――あった! これだユウ様の携帯!!


 爽やかな青年の言葉は亜美には届いていない。


「亜美、もう行かなくちゃ。ありがとうございました」


 亜美は向きを変えて走り出そうと立ち上がる。


「待って! 警察に被害届を……」


 亜美はユウ様のところへ向かって走った。



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