第4話 メンヘラちゃんが横で眠っている
【中性的な女
絶句した。いや、元から起きたばかりで何も言葉を発していないので、絶句したというのは適切な表現ではないだろう。
アミが隣で、穏やかな顔をして眠っている。同じベッドで。
私は冷や汗が出てきて、自分がどんな格好をしているのか確認する。私はズボンを穿いているし、上半身も普通に服を着ているし、別段乱れている様子はない。
アミの方も昨日の服のままで裸ではない。
裸ではない。
それが唯一の救いだった。
覚えていないとはいえ、女の子に欲情したことは今までもないし、これからもないと信じている。しかし、この状況に私は頭が真っ白になった。
私は顔面蒼白になりながら、昨日のことをよく思い出す。
「…………」
駄目だ、よく思い出せない。あまりの眠気のせいか何も覚えていない。何も覚えていないが、いくら眠くとも過激なシーンがあれば1つくらい覚えているはずだし、何よりちゃんと私もアミも服を着ている。何も問題はない。そうだ。何も問題はなかったんだ。
こうしてはいられない、アミを起こさなけば。家に帰してやらねば。
事実がどうだとか、そんなことは確認したくはなかったし、考えたくもなかった。その結果、とにかく彼女を家に帰して「なかったことにする」という結論に到達した。
「アミ……起きて」
私はアミの身体をゆする。アミからいい匂いがしてくるのを感じた。女の子の匂いというやつだ。
そう思いながらもアミの身体を揺する。アミの目がうっすらと開き、私の方を見てにっこりとほほ笑みかけてくる。化粧を落とさないまま寝たようだが、つけまつげなどはしっかりとついており、化粧もそれほど崩れてはいなかった。
「ユウ様、おはようございます」
これ見よがしに私に抱き着いてきて、アミの腕に力が入る。
「ちょっと……アミ。なんでうちにいるの?」
しかもなんで一緒のベッドで寝ているの?
後者の質問は怖すぎて言葉にできなかった。
「昨日ユウ様が泊まっていっていいって言ったじゃないですか」
アミはモゴモゴとうなっている。とりあえず離れよう。と、私はベッドを出ようと身体を動かすが、アミがしっかりと私の服を握っていてズルズルと引きずる形になる。
「アミ、離して……」
アミは渋々と私から手を放した。
私はとりあえず、ベッドから出て簡易ソファーに座る。
「昨日、食事の後からあんまり記憶がないんだけど、どんな話で泊まることになったんだっけ?」
泊っていいなんて、私が言うとは考えづらい。しかし、嘘をついているようにも見えない。
「アミが、泊まっていってもいいですか? って言ったら、ユウ様がいいよって言っていました」
駄目だ、それが嘘なのか本当なのかすら解らない。確かに、眠くて何もかもがどうでも良くなっていたら「(どうでも)いいよ」と言うかもしれない。
ふと時計を見ると、九時くらいだった。
とりあえず帰ってもらおう。
「アミ、昨日のレストランは本当に美味しかったよ。ありがとう」
「はい! またいつでも行きましょう!」
元気いっぱいにアミはそう言う。
「あ……あぁ、そうだね。で、ごめん。……あー、これからちょっと用事があるから帰ってくれると助かるんだけど……」
その私の言葉に、アミは一気に元気がなくなり、シュンとして寂しそうな表情をする。
「えーと、……その、なんだ。友達が遊びに来るからさ」
嘘だ。友達が来る予定はない。
「…………はい……解りました……」
アミは残念なようで、かなり暗い顔をしていた。アミはゆっくりとベッドから出て、自分の荷物を持ち、玄関の方へと向かった。
「じゃあ……ユウ様。また連絡してくださいね? 絶対ですよ?」
私が玄関まで送ると、目を少し潤ませてこっちを見てくる。
なんだか、このしぐさに慣れてきた。それほど動揺することもない。
「うん、解ったよ。またね」
私は少し投げやりにアミを送り出した。
――さてと……やっとゲームができる。まずは今育てているドラゴンにエサでもあげようか…………
と、私が部屋の中を見渡したときに、携帯電話がないことに気が付いた。
――あれ? ポケットか?
ポケットにもない。鞄の中かな。鞄の中にも存在しなかった。
「え……嘘でしょ」
携帯がないことに気付いた時、人は戦慄する。
変な汗と共に、アミの姿が思い浮かんだ。でもまてよ、絶対連絡してくださいねと言っていたのに携帯を持っていくか? そういうフェイクか? いや、あの子はそんな頭の切れる子ではないと思う。
私がどこかに置きっぱなしにしている可能性もある。なにかにつけて誰かを疑うのは悪い癖だ。
もう少しちゃんと探そう。
見つからなかったら、私のゲームの中で育てているドラゴンが死んでしまう。
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